都内でも住みたい街の上位に、常にランクインする恵比寿。

仲間と肩肘張らず楽しめるお店がたくさんあり、便利で、何より賑やかな街である。

ベンチャー系IT企業に勤めるサトシ(28)も、恵比寿に魅了された男の一人。

顔ヨシ・運動神経ヨシ・性格ヨシで、学生時代から人気者だったサトシは、その社交性から遊ぶ仲間には事欠かない、通称・“エビダン”。

ある日参加した食事会で元グラドルの杏奈と出会い、心揺さぶられるサトシ。しかし、杏奈は学生時代に全く冴えなかった同級生で、現在外銀勤めの龍太に心奪われていた・・・




「りゅ、龍太!?」

あの日六本木で再会したサトシの、驚いたような、そして何か言いたげな顔。それを見て、僕は心の底で“勝った”と思った。



あれは、大学時代のこと。高校時代からずっと憧れていた広告系のサークルに顔を出してみたが、あまりにも皆がキラキラしていて、本物の“リア充”たちの集まりに、僕は慄いた。

「龍太、このサークル入るの?」

新入生の中でも既に輪の中心人物になっているサトシに声をかけられた時、咄嗟に「俺はいいや」と答えた日のことを、今でも覚えている。

学生時代もそれなりに楽しかったが、多分サトシほど謳歌はしていない。地味に毎日バイトもしていたし、付き合っていた彼女・里穂も皆から羨ましがられるような美女でもなかった。

「龍太ってさ、優しいけど何か違うんだよね……」

そんなセリフと共に里穂に振られてから、約1年後。

就職活動を経て今の会社に内定が決まった途端、里穂から「ヨリを戻したい」と言われた時から、僕の中で何かが変わり始めた気がする。


社会人1年目で突然開花する外銀男の勘違いと苦しみ


社会人1年目で手にする年収の多さ、それに群がる女たち


社会人になり、忙しさは想像以上だった。神経が擦り減っていくようなマネーゲームに、深夜のコールや打ち合わせは当たり前。外銀は忙しいと聞いていたが、ここまで忙しいとは正直想像していなかった。

しかしそうして身を削って得た報酬は大きく、社会人1年目で手にした年収は想像以上だった。

それと同時に、自分の中で何かがプツンと切れた。

今まで決して満たされなかった心の空洞を埋めるかのごとく、学生時代にできなかった遊びをし、ブランド品をどんどん買いあさった。

そして激務の中でも、僕のように外銀に勤める男たちは仕事と同じくらい、遊ぶことにも命を懸けていた。

金曜になると会社の先輩からメールが送られてきて、集合場所が決まる。

六本木で集まる店は決まっており、二軒目はクラブやバーに行くのがお決まりのコースだ。

一晩にクラブで50万以上使うことなんてザラにあるし、デートの食事代が二人で10万越えもよくある話だ。

そんな遊びが一緒にできるのは、同じ業界にいて同じような金銭感覚を持つ男たちのみである。学生時代の友人ではない。

正直、学生時代の友人たちと遊んでもつまらないと感じるようになっていた。日系のサラリーマンたちとは、年収の桁も違うし生活レベルも違うから。

時折この生活に虚しさを感じながらも、仕事と遊びに翻弄され、そして生活は派手になっていく一方だった。




「龍太、この会社に入った以上、女に困らないよ。」

先輩からそう言われた時、最初は意味が分からなかったが、社会人になって半年もすればその意味はよく分かった。

学生時代だと相手にもされなかったような美女たちとの連日の食事会。相手も、OLやCAだけではなくアナウンサーやモデル、芸能人もいる。

そして何よりも、食事会で会社名を言うと女性陣の目の色が変わる。それが手に取るように分かるのが面白くて仕方なかった。

「龍太さんって、今彼女いるんですか?結婚願望はありますか?」

出会う女性たちは皆、僕の背景にある肩書き、そしてそこから推測される年収に目がハートマークになっているのだ。こちらから少しプッシュすれば、簡単に落ちるような女性ばかりだった。

そんな中出会ったのが、杏奈だった。


港区男子の大好物・モデルや芸能人の肩書きを持つ女


最初『R2 SUPPERCLUB』で女友達と談笑している杏奈を見て、その可愛さに思わず息を呑んだ。




幸運なことに、杏奈と話しているエリカは、僕の顔見知りだった。

「エリカ、久しぶり!」

女友達に話しかける振りをして杏奈に近づく。女二人でここにいるということは、六本木界隈に生息する港区女子の一人だろう。

「あれ?龍太じゃん。久しぶり!たまにはLINE返してよ。」
「ごめんごめん、ちょっと忙しくて。今日は女子飲みなの?」
「そう。この子は、友達の杏奈。」

いつも通りいけば、間違いない。杏奈も、他の女性と同じように簡単に落ちると思っていたのだ。

「へー。杏奈ちゃんは何をしている人なの? 」

そう声をかけた時、にっこりと微笑む杏奈に、僕の心は一瞬止まりそうになる。それはこの港区で久しぶりに見る、無垢で可愛い笑顔だったから。

「タレントみたいなことをしています。」

少し伏し目がちなその表情から、僕は目が離せなくなる。何より“芸能人”というクレジット付きだ。

先輩や同期からも、“芸能人“と付き合うと一目置かれる。この子と付き合いたいと切実に思った。

きっと他の女性と同じく、この肩書きがあれば大丈夫だろう。僕は杏奈にそっと耳打ちする。

「僕外銀で、会社が六本木ヒルズなんだけどさ。今度お茶でもしない?」

会社名を言わなくても、計算高い女性たちは勝手に“脳内Google”で検索をかけ、社名を割り出してくれる。

しかし、杏奈からは予想外の答えが返ってきた。

「お誘いありがとうございます。でも今は仕事が忙しいし彼氏がいるので、また、どこかでお会いできた時に!」

社会人になって振られたのは、初めての経験だった。



しかしそれから5年経ち、僕は偶然知人の食事会で杏奈と再会した。そこから何度か食事に行き、仲良くなってきた時に、サトシと会ったのだ。

「あれ〜?サトシさん?こんなところで会うなんて。リュウ君と知り合いなの?」

サトシと仲良く話す杏奈の姿を見て、僕は強く嫉妬を覚えると同時に、学生時代に感じていた劣等感が再燃した。

それはしばらく忘れかけていた青い感情で、居心地の悪さを感じるものだった。

「え?杏奈、サトシと知り合い?学生時代の仲間だよ。」

学生時代と変わらない、ちょっとヘラヘラした笑顔と明るい雰囲気。サトシを見て、僕は妙な苛立ちを覚える。

昔から変わらない、短い髪を綺麗にセットしたヘアスタイルに、小洒落たジャケパンスタイル。僕が持っている服とは、ゼロの桁が一つは違うはずなのに、人を惹きつける明るいオーラは相変わらずだった。

コイツに感じる劣等感は、一体何なのだろうか。

「今度、飲みにでも行こうよ。せっかくだし。サトシはどこで働いているの?俺、この近くで働いているから。」

-今は、自分の方が上だ。

会社名を告げた途端に大きく目を見開いたサトシを見て、僕は優越感に浸る。

男は、金だ。

どんなに綺麗事を言おうが、結局は稼いだ者が勝つ。

再会して以来、杏奈は僕に気持ちが傾きかけている。サトシの杏奈に対する熱い視線を見ながら、僕はもう負けることはないと確信していた。

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エビダンは、プライド高き港区男子に負けるのか?