就職活動は、今や「売り手市場」と言われ、かつての就職氷河期などどこ吹く風。

しかし、時代を問わず“狭き門”とされる企業は常に存在し、選ばれし者だけが生き残るのが現実だ。

そして「就活の頂点」を目指す若者たちは皆、こう信じている。

-就職で、すべての人生が決まる。

本連載で紹介するのは、内定のためなら手段を選ばない数々の猛者たち。彼らが語る、驚くべき就活のリアルとは?

先週は、就活のために整形した外銀女子が登場。さて、今週はどんな猛者が?




【今週の就活男子】

・名前:直也(27歳)
・現在の勤務先:総合商社 食料部門
・出身大学:一橋大学 商学部
・就活時の内定企業:五大総合商社中 2社

「今週、毎日飲み会だったんですよ。正直、胃もお金もきついっす。ま、今日もこの後食事会なんすけど」

そう言いながら『モントーク』に現れた直也。仕事も遊びも多忙な彼は、食事会までの間の1時間限定で話を聞かせてくれた。

上質な白のシャツに紺のパンツ。その上にモンクレールのダウンを羽織り、髪の毛はワックスでビシッと固めて横に流している。

シャツがやけにタイトなのは、鍛えている筋肉をアピールするための、敢えてのチョイスだろう。

きっと、アメフト部あたり出身の体育会採用だろうと思っていると、彼は意外なことを口にした。

「体育会?いえいえ、全く違います。僕は、“ネタ系”採用ですよ」

ネタ系採用。その聞き慣れない単語に戸惑っていると、直也は笑いながら、内定までの道のりを話し始めた。

「僕、100人にOB訪問したんです。…いや、OB達と酒を酌み交わした、と言った方が正しいかもしれません」


商社の“ネタ枠”とは?


商社マンなんて皆、モテたいだけ!?


まず初めに、なぜ総合商社を志望したのか直也に聞いてみる。

「建前ではグローバルな仕事とか言ってますけど、ぶっちゃけ、モテたいだけ。僕の周りの商社マンも、皆そんなやつらばっかりですよ」

直也が商社を目指すきっかけとなったのは、大学のゼミの先輩だという。

先輩は、地味で垢抜けないガリ勉タイプで、直也は勝手に親近感を抱いていた。直也も当時は決して目立つタイプではなく、好きになった女の子には相手にすらしてもらえなかったのだ。

ところが先輩は、総合商社に内定した途端にモテ始めた。

見た目は一切変わらない。なのに“総合商社内定”が加わっただけで、「垢抜けない」「地味」というマイナスな印象が、“遊んでなさそう”というプラス評価に変わった。

そして直也は気がついたのだ。

-どんなにモテない男でも、就活で一発逆転できる。

モテる企業に行って、人生を変える。そう決めた直也は、いつの時代も“モテる企業ランキング”トップクラスに君臨する、総合商社にターゲットを絞った。




商社では、一体どんなタイプが採用されているのだろう。

都内屈指の有名進学校出身の直也の周りには、総合商社に内定した先輩がゴロゴロいる。直也は採用の傾向を知るため、リサーチを開始した。

彼らの意見を総合すると、ひとつの事実が浮かび上がってきた。総合商社の採用枠は、比率は多少違うが、頭脳系、体育会系、ネタ系の3つに分かれるということだ。

まず、頭脳系。東大や京大、また海外大学出身者がこの枠のほとんどを占めている。外資金融やコンサルの内定も持つ、ちょっと次元の違う人たちで、到底太刀打ち出来そうにない。

直也は、体育会系にも当てはまらない。部活に所属せず、フットサルサークル程度の彼には無縁の話だろう。

そうなると、残るはネタ系。ネタ系というのは、つまり「コイツ、面白いな」と思ってもらえることらしい。

過去には、バックパックで70ヵ国以上を巡り、ついには南極まで訪れたという強者も採用されたことがあるそうだ。

「とはいえ、僕にアピール出来るネタなんかありません。総合商社は無理だって、一時は諦めモードでした」

そんなある日。高校の部活のOB会で、現役商社マンの先輩の会話が、直也の耳に飛び込んできた。

「俺たちの仕事って、本当に泥臭いよなあ」

繊維部門で働く先輩は、コットン探しのために農村を自転車で駆け巡った経験や、染色工場で染料にまみれながら生産量の管理をコツコツ行った話を語っている。

-商社マンの仕事ってそんな地味なのか。

それまで商社マンに華やかでスマートなイメージを持っていた直也にとっては、“泥臭さ”や“地味”という側面はとても新鮮だった。ネットや就活セミナーなどでいくら情報を集めても、そういう話は出てこなかったからだ。

それならば、実際に仕事の泥臭さや苦労、負の側面に焦点を当てて話を聞いてみようじゃないか。そう思った直也はOB訪問を開始した。

何の取り柄もない自分でも、他の就活生が持っていない情報を収集できれば、何か優位に立てるかもしれない。

そんな淡い期待を抱いて始めたOB訪問が、その後直也のネタにつながることになるとは、その時は思ってもみなかった。


気づいたら100人以上。そして今取り組んでいるのは・・・?


“夜のOB訪問”で掴んだネタ枠


就活生にわざわざ悪いイメージを与えたい企業なんてない、と直也は語る。

「“就活生向けの美化された話”というのは、巷に溢れている。実際僕も、はじめのOB訪問では、表面的な話しか聞くことができませんでした。でも、僕が知りたかったのは、総合商社のリアル。悪い話も全てです」

ところが2件目のOB訪問が、直也にとって転機となった。

その日は、先方の都合で夜の時間を指定され、その流れでOBと酒を飲むことになったのだ。酒が入って饒舌となったOBが語ってくれたのは、まさに商社のリアルな実情だ。

本来OB訪問は平日昼間に行うのがマナーとされているが、直也の場合は就業後に会社を訪れるケースが多かった。

もともと人の懐に入るのが上手い性格だった直也。OB訪問に行くと「君、面白いね。このまま飲みに行く?」と誘われる。

会った人に知り合いを紹介してもらいながら、芋づる式に会っていくうちに、気がつくと共に酒を飲んだOBの数は、数十名にも及んでいたという。

「結局、就活なんて、面接官を口説き落とせるかどうか。そのためには、場数を踏むことが大事です。だから、“百戦錬磨”を目指そうと思って、文字通り100人のOBに会ったんです。全員とまでは行きませんでしたが、そのうちの大半と飲みに行きましたね」

彼らが直也に語ってくれた、本音。色々な人に会えば会うほど、より多くの人の言葉や思考が盗める。

就活への対策も、一人一人の歯に衣着せぬフィードバックをもらって改善していくうちに、直也の面接対策はどんどん手堅いものとなっていった。

OB訪問をする就活生はどこにでもいるが、100人超えはなかなかいない。ましてや、100人近くの商社マンと酒を酌み交わした男は、さすがに彼くらいだろう。プレゼンでは数字のインパクトも重要だ。

こうして直也が、足繁く通った“夜のOB訪問”から得た知見や、商社の問題点を赤裸々に話したことが、役員にかなりウケたそうだ。

ちなみに言っておくが、情報を集めている間も、直也はテストセンターなどの勉強だけは怠らなかった。

OB訪問や説明会に精を出すあまり勉強が疎かになってしまい、面接に進む前に脱落していく就活生をよく見かけるが、それでは元も子もない。

総合商社は、筆記試験の足切りで厳しいことで有名。しっかり準備すれば合格出来るテストなのだから、足元を固めてからの面接準備がオススメなのだと言う。

そうして、直也は総合商社2社から内定をもらい、現在勤務する大手町の総合商社を選んだ。




「言わずもがな、モテるようになりました」

そう言って見せてくれたのは、“食事会管理表”という名のエクセルファイル。食事会のスケジュールの隣に、参加した女の子の名前がずらりと並んでいる。

その数の多さに驚きつつ、この表について直也に聞いてみると、驚きの答えが返ってきた。

「食事会の段取りは、若手の重要な仕事。先輩に同じ女の子を紹介するなんて言語道断。こうやって管理してます」

確かによくよく見てみると、先輩の名前でソートがかけられるようになっている。はじめは呆れて聞いていたが、その仕事の細かさにはお手上げである。

「くだらないと言われるかもしれませんが、こういう地道な努力で信頼をつかんでいるんです」

地味な作業や泥臭い行動を厭わず、難なくこなす直也。

確かに、それだけの人数のOBと酒を飲むなんて、やろうと思ってもなかなか出来るものじゃない。普通の人間にはとても真似出来ない“ネタ”だ。

多くの人が、一度は憧れる総合商社。そこで働く人々は、卓越した頭脳や体力、そして行動力など、一般人とは違う“何か”を持っている人間が多いようだ。

食事会でチャラチャラしているだけではないんだと感心していた矢先。

「ちなみに、セルに色がついているのは、僕のお気に入りの子。駐在までに何人とデート出来るかなあ。また100人超えちゃったりして。楽しみにしててください」

そう言って直也は今宵の食事会に向かって行った。

OB訪問100人超えの次は、デートで、その卓越した行動力を発揮してくれそうだ。

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