by Zfaulkes

メス1匹しか水槽にいないはずなのに、なぜか大量の卵を産みどんどんと増殖していくザリガニが存在し、過去の研究から「生み出された子どもは母親のクローンである」ということが判明していました。さらに、このザリガニの遺伝子について5年間の調査が行われ、なぜ「クローンで増殖するザリガニが生まれたのか?」という誕生の秘密に迫った研究結果が発表されています。

Clonal genome evolution and rapid invasive spread of the marbled crayfish | Nature Ecology & Evolution

https://www.nature.com/articles/s41559-018-0467-9

This Mutant Crayfish Clones Itself, and It’s Taking Over Europe - The New York Times

https://www.nytimes.com/2018/02/05/science/mutant-crayfish-clones-europe.html



Marmorkrebs(ミステリークレイフィッシュ)と呼ばれるザリガニがドイツのペット業界に現れたのは1990年代のこと。Marmorkrebsはアクアリウム愛好家の中で人気が出た品種で、体が非常に大きく、生み出す卵の数が多いことで知られています。

奇妙なのは、報告されているMarmorkrebsがすべてメスであること。そして、それらのメスは交尾なしで何百もの卵を生み出すことです。そして、2003年に研究者らがザリガニのDNAをシークエンシングしたところ、「Marmorkrebsが生み出す子どもは母親のクローンである」ということが判明しました。母親がクローンを生み出すスピードは非常に速く、1匹のザリガニが1年後には数百匹にまで増加することから、ヨーロッパではMarmorkrebsの数が爆発的に増えていきました。あまりに数が増えすぎて手に負えなくなった飼い主が湖や川に放流したため、25年前には存在すらしなかった種が、2018年現在ではドイツ・チェコ・ハンガリー・日本・クロアチア・マダガスカルなど世界中に広まる状況となっています。Marmorkrebsは1つの地域で数が増えすぎると、何百メートルも歩いて新しいすみかとなる湖や川を探すのです。

ドイツがん研究センターの生物学者であるフランク・リコ氏らによる研究チームは、5年にわたってMarmorkrebsのDNAシークエンシングを行いました。その結果は2018年2月5日にNature Ecology & Evolutionに発表されています。

研究チームによると、Marmorkrebsはアメリカのフロリダ州・ジョージア州に流れるサティラ川に生息するヌマザリガニが突然変異した結果生まれたものだとのこと。30年前、2匹のヌマザリガニが交尾を行い、それぞれの染色体がコピーされたのですが、2匹のうち1匹に変異があり、性細胞にその変異が残されました。その結果生まれた子どもたちは丈夫で、3つの染色体を有し、加えてオスがいなくても無性生殖による繁殖ができる体になったとのこと。



by Marbled Crayfish

無性生殖には利点もありますが、欠点もあります。1匹の種が何百という子孫を残せるので爆発的に数が増えるというのは利点ですが、遺伝子に多様性が生まれないので1つのクローンが死に至る病気があれば、他の個体も消滅する可能性があるのです。ただし、このような病原体が現れるまでどのくらいの時間がかかるのかは不明であり、リコ氏は「彼女らは10万年後でも生きているかもしれません。私たちにとって10万年という時間は長く感じられますが、進化の中でみるとほんの一瞬なのです」と語りました。