〈炒飯〉ほど、その表現や素材の組み合わせ、味わいの幅が無制限&無限大なメニューはないのではなかろうか。そんなある意味過酷なお題から、東西の巨人が選んだのはこの2軒。その妙味、しかと誌面でご堪能いただきたい。

今回のお題【炒飯】

炒飯対決 東/トゥーランドット臥龍居 vs. 西/神戸元町別館牡丹園

【東】マッキー牧元 トゥーランドット臥龍居の「もやしの黒酢炒飯」

 門上様、僕は炒飯といえば思い出すのが、炎の料理人、故・周富徳氏です。

 炒飯を作る際に、米を宙高く舞い上がらせる姿に憧れて、何度も挑戦したものです。しかし後年になってあるシェフより、あれはテレビ局が頼んだパフォーマンスで、本来は鍋肌に米をつけて焼いて、香ばしさを出してこそ炒飯だと教わりました。

 炒飯人生で、これが第一の衝撃でしたが、第二の衝撃となったのが、東の中華の雄、脇屋友詞シェフ率いる同店の、今回の炒飯なのです。

 食べれば、黒酢のコクと丸い酸味をまとった米がふっくらと甘みを膨らまし、そこへ米粒大に切られたもやしが、シャキッと弾む。その味わいのバランスや食感の妙に虜となって、レンゲを持つ手が加速していきます。

 しかも不思議なことに、黒酢という液体が入りながらも、ベチャッとはならず、米がふんわり、しっとりと舌に滑り込む。この辺りの軽やかな色気が、とてもニクい。

 聞けば、黒酢はそのまま使わずに、生姜に漬け込んだものを使い、もやしにその水分を吸い取らせているのだとか。だからぷりぷり&しっとり食感なのか……! うんやられました。でも文だけでは伝わらない。是非一度、食べてください。

ぷりぷりシャキシャキなのにしっとり食感。発想の妙にただただ唸る衝撃の炒飯

▲もやしの黒酢炒飯 1650円(税・サ別)
もとは、糖質制限があるお客様の、それでも炒飯が食べたいという願いに応えるべく、脇屋シェフが考案したのだとか。「五穀米、もやし、卵、黒酢に漬けた生姜のみ。この究極とも言えるシンプルさの先にある奥深い味わいに、脱帽です」(牧)

トゥーランドット臥龍居
東京都港区赤坂6-16-10 Y’s CROSS ROAD 1,2F [TEL]03-3568-7190
[営]月〜金 8時〜22時(LO)、土・日・祝 9時〜22時(LO)、無休(年末年始を除く)
[席]テラス12席、カウンター6席、テーブル166席/計184席
カード可/予約可/サ10%
[交]地下鉄千代田線赤坂駅6番出口、
都営地下鉄大江戸線六本木駅7番出口からそれぞれ徒歩6分

【西】門上武司 神戸元町別館牡丹園の「炒飯(焼き飯)」

 鍋を振る。極論すれば、空中でご飯が舞う。そこで余分な水分を飛ばし、ご飯がパラパラになってゆく。というイメージが炒飯にはついてまわるのです。

 しかし『神戸元町別館牡丹園』の主・王泰康さんは、「炒飯は火で決まります。あんまり高く振りすぎるのはダメなんです」と、さらっと言ってのけられたのです。

 えっ! という疑問が浮き上がってきました。「振ると火元から鍋が離れる。すると温度が下がってしまう」と。そこまで温度が大切なのかと感じたのでした。

 加えて「よく冷飯のほうがいいと言うけれど、うちは炊きたての温かいご飯。短い時間で仕上げたいので、温度を上げるのに時間を取りたくないです」。聞けば聞くほど、理屈が通っているのです。

 具材は海老と焼豚・塩・胡椒・醤油で味を調えただけなのに、テーブルに届いた時の香りの立ち方、レンゲを口に運んだ時のご飯のほどけ方など、しっかり舌にしみ込んでいます。シンプルな食材から、唯一無二の炒飯が出来上がるのです。

 マッキーさん、ぜひ今年はこちらに来ていただいて、神戸で中華三昧はいかがでしょうか?

炒飯の極意は鍋の温度にあり。一切の無駄を省いた偉大なる味わい

▲炒飯(焼き飯) 850円(税別)
「調理科学の学者が、この炒飯をして日本一と言わしめた味わい。やはり鍋の中の温度にあったのです。300度近くまで温度は上がり、その中で瞬時にご飯は種々の香りをまとってゆく。無駄を省いていった結果が、この偉大なる炒飯を生み出したのです」(門)

神戸元町別館牡丹園
神戸市中央区元町通1-11-3 元町商店街山側小路入る
[TEL]078-331-5790
[営]11時〜14時半(LO)、17時〜20時(LO)
[休]水
[席]テーブル席150席
カード可/予約可/サなし
[交]JR・阪神元町駅から徒歩3分

プロフィール

【東】
マッキー牧元/タベアルキストを自称して早30年、ひたすら美味しいものを食べ歩き、それを生業とすべく、各誌への寄稿に励むコラムニスト。東の食雑誌『味の手帖』編集主幹でもある。

【西】
門上武司/小誌でもおなじみの、あらゆる食情報に精通している西のグルメ王。食関連の執筆・編集を中心に、各メディアに露出多数。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問も務める。

2016年2月号発売時点の情報です。