世界で最も刺激的なオンラインの学び場、ミネルバ大学大学院

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2017年度の入試の合格率はわずか1.9%。全米最難関と言われる学部生コースを擁するミネルバ大学に、昨年9月、新たに大学院コースが新設されました。私はその大学院コースの第1期生として在学しています。

ミネルバ大学は2014年にBen Nelson氏が創業したスタートアップの大学。既成概念を捨て、既存の大学が抱える課題の解決をし、最高のクオリティの刺激的な学び場を目指すとして、シリコンバレーのベンチャーキャピタルなどから7000万ドルを資金調達し、ハーバード大学をはじめとするアイビーリーグの学部長ら参画のもと設立されました。

生徒が”エンゲージした状態”を保つ

少し専門的になりますが、学びの科学(Science of learning)では、学びに夢中になっている状態を「エンゲージド(従事している)」の状態と言います。そして、その状態を持続させるための代表的な手法に、アクティブ・ラーニング(能動的な学び)のアプローチがあります。

ミネルバ大学ではこのアクティブ・ラーニングで、生徒が常にエンゲージされた状態を保ち、知識を効率的に深く定着、蓄積させ、適切な場で応用していくことを目指しています。全てのカリキュラムがこの基本方針でデザインされており、1コマの授業プラン作成に100時間が割かれています。

その授業において、先生は例えるならばジムのパーソナルトレイナー。授業中には脳をフル活用した積極的な参加が求められるので、毎回終わると脳をトレーニングした疲れが一気に押し寄せます。

入学間もないですが、生徒一人一人にとってチャレンジを課すこのミネルバの学習環境は私にとってこれまでで最も刺激的な学び場になっています。今回の記事では、どんな点で最高に刺激的な学び場だと感じているのか、2つのポイントを紹介したいと思います。

思考プロセス重視のディスカッション

今期セメスターで私は、基礎科目の「批判的思考(Critical thinking)」と「創造的思考(Creative thinking)」を身につける2教科を取得しています。

授業は1コマ1時間半を週に4回。授業はオンラインでどこからでも受講することができます。出席しても内職したり、物思いにふけったりする講義型の授業とは違い、すべてセミナー形式で生徒の議論中心に進みます。

ミネルバが独自に開発したオンラインプラットフォームによって授業は全て録画され、生徒の発言も全部記録されます。このプラットフォームが密度の濃い緊張感溢れた授業を可能にするのです。

例えば1クラス8人などの授業では、全員がズームアップの状態で参加。元名門大学在籍の教授がテンポよくファシリテーションをし、難しい質問に対して必ず一人一人の生徒を指名します。また、毎回宿題で約50〜100ページにおよぶ文献の予習を済ませている前提なので、授業では得た知識をどう応用するか、具体例を混ぜながら思考の過程を自分の言葉で説明することが重要です。


Photo by Minerva Homepage

9月の入学から5か月ほどですが、難解かつグローバルな問題を題材にとてつもないスピードで学んできました。世界の飢餓、水不足、地球の気候変動、伝染病対策、フェアな裁判判決……どれも即座に白黒つけがたく結論を出すのが困難な問題ばかり。これらの問題の原因を正しく捉えて分析し、人間ならではの知恵とアルゴリズムを有効活用しながら最適な結果を模索する特訓をしています。

ミネルバ大学院の成績は、テストはなく、録画された発言内容とPoll(短い記述問題)の回答、論文などの課題で評価されます。ここでの評価基準は答えの正否ではありません。ミネルバが定義する100以上にわたるコアスキルや思考方法を、いかに洗練された手法で活用しているか、というプロセスが重視されます。

例えば伝染病問題の場合、まず 「#rightproblem : 適切な問題定義」の思考方法で問題の根幹を捉えているか。そのうえで、感染症患者の症状のデータを収集、観測し、解決策となる仮説を組み立てる際に「#hypothesisdriven: 仮説主導」のテクニックが使いこなせているかが評価されます。その後、状況に合った統計分析手法を駆使し、「#testability: 検証性」の手法に沿って仮説の検証を行っているか、という具合に評価項目が細かく体系化されています。

授業中はこのように、どのコアスキル、思考方法がこの問題解決のために有効だろう? とそれぞれを組み合わせてプロセスを話し合うことが中心です。授業の回を重ねるごとに、これらのキーワードを共通語にクラスメイトと議論をするようになっています。

多様性をフェアに実現する仕組み

授業は基本的にオンラインで行われるため、クラスメイトは世界中(北米、南米、ヨーロッパ、中国)から受講することができます。好奇心溢れる大人、世界をまたいで活躍している人が多く、出張先から参加する生徒もいて、場所の制約を受けないバーチャルクラスは最適なスタイルだと実感しています。授業時刻は米西海岸時間ベースのため、時差だけには注意です。

多国籍の学生が集まる大学院はたいてい、どうしても英語が得意な生徒が発言しがちになります。また積極的に発言する生徒が先生から一目おかれ評価が高くなる、ということもあるかもしれません。

その点、ミネルバのオンラインプラットフォームは、多様性を重視する授業を運営する面でも工夫がされています。教員側の画面には、生徒の”発言秒数”が記録されるため、発言していない生徒にその機会を与えるためアラートが出るようになっているのです。これが先生から生徒へのバイアスを防ぐことにつながっています。

ちなみに私は日本生まれ、日本の大学出身で英語ネイティブのクラスメイトの議論の勢いに圧倒され遠慮してしまうことがあるのですが、多様性を担保するこの仕組みのおかげで、平等に発言する機会を得られているのはありがたいです。

難解なグローバル問題など答えが出にくい問題が増えている今、偏った意見に寄るのではなく、できるだけ多様なメンバーで多様なアイディアを出し合い、共に本質を模索しながら議論をすることが重要になっています。

その時代において、ミネルバの授業では、全員の生徒が意見を発信する仕組みを運営システムの中に組み込むことで、多様なアイディアを模索し議論の内容を深めることを可能にします。”本質を理解するスキルがあるのにポテンシャルが発揮できない生徒” にチャンスが回ってくるこの制度にはベネフィットがあるのではないでしょうか。

最新テクノロジーと学びの科学を最大限活用しているミネルバは、多様なメンバーと本質議論を繰り返し、フェアな思考のキャッチボールをくれるだけではありません。これまでの教育分野の常識を塗り替えているそのほかの点は、次回以降でご紹介できたらと思います。