By sea turtle

音楽の売上が従来のCDからネットを通した配信へのシフトが進み、「CD不況」が叫ばれる中、世界最大の家電量販店であるアメリカの「ベスト・バイ」が店舗での音楽CDの販売を終了する方針であることが明らかになりました。これに合わせるように別のストアチェーンでも委託販売制が導入される動きが起こっており、「音楽を購入する」というカタチが大きな変革の時を迎えています。

Best Buy to Pull CDs, Target Threatens to Pay Labels for CDs Only When Customers Buy Them | Billboard

https://www.billboard.com/articles/business/8097929/best-buy-to-pull-cds-target-threatens-to-pay-labels-for-cds-only-when

Best Buy will stop selling CDs as digital music revenue continues to grow - The Verge

https://www.theverge.com/2018/2/6/16973538/bestbuy-target-cd-sales-vinyl-cassette

音楽専門メディア「Billboard」が報じたところによると、ベスト・バイは2018年6月30日をもって店頭での音楽CDの販売を終了する旨を音楽ソフトを提供しているサプライヤーに対して示したとのこと。ベスト・バイはアメリカでも最大の音楽販売チャンネルでしたが、近年はCDの売上が大きく低迷しており、年間売上がなんと4000万ドル(約43億円)規模にまで落ち込んでいます。

ベスト・バイは全米で1300店舗以上の販売網を擁しているため、1店舗あたりの売上高を単純計算すると約330万円規模ということに。これではさすがに大手チェーンとしてリソースを割くに値しないという判断につながったものと考えられます。しかし一方で、復調の兆しが見られるレコード販売については、今後2年間は継続する方針が示されているとのこと。



By Mike Mozart

ベスト・バイの方針に歩調を合わせるような動きが、アメリカ有数の小売りチェーン「ターゲット」でも起こっています。ターゲットはCDの販売を継続するものの、その販売形式を従来の仕入れ方式から委託販売方式に変更する方針を音楽と映像サプライヤーに対して2017年第4四半期に示しており、この方針は早ければ2018年4月にも施行されるとのこと。これに対して大手レコード会社は反応が別れている模様で、あるメジャーレーベルは明確に「ノー」を示したものの、残る会社からは対応を検討している段階とみられます。ターゲットではかつて、1店舗あたり800タイトルのCDを陳列していましたが、近年は売り場面積を縮小して取り扱いタイトル数は100程度にまで減少していたとのこと。

もし大手レコード会社がこの方針を拒絶することになると、アメリカでも有数の売り場をレコード会社は失ってしまうことになります。しかし、売り場を確保するためには委託販売方式というレコード会社にとっては厳しい条件を飲まざるを得ないことになるため、従来型の音楽販売は大きな岐路に立たされているといえる状況といえます。

「CDが売れない」という状況は世界的な大きな流れとなっており、2014年にはデジタル音楽配信の売上がCDの売上を上回るという逆転が起こっていました。

ついに全世界でのデジタル配信楽曲の売上がCDの売上を上回る - GIGAZINE



日本の音楽業界もその状況に直面しています。日本有数のビッグアーティストであるDREAMS COME TRUEのメンバーでプロデュースを担当する中村正人氏は、2014年のインタビューですでに「CDは死んだ」という旨の認識を示しており、過去のスタイルでは音楽業界が成り立たない状況を語っています。中村氏およびDREAMS COME TRUEは「アルバム」という作品フォーマットに強い思い入れを持つアーティストですが、このインタビューの3年後の2017年には音楽ストリーミングサービスのSporifyでの配信をスタートさせています。

DREAMS COME TRUE「ATTACK25」特集 中村正人インタビュー (13/15) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

https://natalie.mu/music/pp/dreamscometrue02/page/13

──25周年という大きな節目を記念してのオリジナルアルバム。制作にあたってどんなことを考えていましたか?

いや、実は25周年はまったく意識してなかったんですよ。

──そうなんですか?

もう忙しくて。20周年のときは早くからいろいろ考えてたんだけど、ここ数年はDREAMS COME TRUEを存続させることに必死でしたから。CDというプロダクツが死を迎えてからは、加速度的なんて甘い言葉じゃ表せないくらいのスピードで状況が変化したので、その対応に追われてたんです。

──そんなにシビアな認識を?

はい。やっぱりCDだけで食べていくのはもう無理なので。


音楽業界はいま、「アルバムを作って売って活動する」というスタイルから「ネット販売やネット配信、YouTubeの露出で知名度を上げて、ライブに来てもらう客の数を増やす」という形式に大きく変化しているといわれています。また、その他にもクラウドファンディングで活動資金を広く集めたり、「パトロン方式」で活動を資金的にサポートしてもらうなどのスタイルが生み出されていますが、まだまだ主流とは言いがたい状況にあります。業界全体の売上の低迷は、ほぼそのまま音楽アーティストの活動に影響することになるので、今後どのように状況が変化するのかは、ひいては音楽ファンにとっても無視することができない関心事になるといえそうです。