ソニー、平井氏から吉田氏に社長交代。スリム化で業績回復も残された課題とは:週刊モバイル通信 石野純也


突然の社長交代を発表したソニー。社長の平井一夫氏は、2012年4月の就任から丸6年で、その座を後任の吉田憲一郎CFO兼副社長に譲り渡すことになります。平井氏が社長に就任した約6年前は、ソニーが苦境に立たされていた時期。これに対し、平井氏は構造改革を断行し、不採算事業を切り離していくのと同時に、収益性の高い商品に集中していきました。

構造改革というと聞こえはいいかもしれませんが、人員整理も含めたリストラも含まれており、事業からの撤退もありました。たとえばVAIOを開発、販売していたPC事業をファンドに譲渡したり、バッテリー事業を村田製作所に売却したりと、この6年でソニーはスリムな体制になっています。

社長といえども、そこは人間。平井氏も「心が痛んだ」と胸の内を明かしていますが、改革を断行した結果、ソニーは2018年3月期の第3四半期までで、約7126億円の営業利益をたたき出すまでに業績が回復しました。2018年度通期での見通しも、20年ぶりの最高益になるとのこと。

第3四半期までの営業利益は7126億円と業績は急回復している

事業部別に見ていくと、テレビやカメラなどは、選択と集中が功を奏し、廉価モデルを切り捨てたため、収益性が大きく増しています。これは平井氏が常々いっていた、「規模を追わず、違いを追う」という方針を実践していたため。誰もが持っているような大ヒットに至ったものはまだありませんが、「Seed Acceleration Program(SAP)」では、今までになかったような、尖った商品も出てきています。これも、平井氏が主導してきたプログラムです。



テレビが含まれるホームエンタテインメント&サウンド分野はヒット商品に恵まれ、堅調な業績



対コンシューマー分野では、カメラ部門も着実に伸びている

エレクトロニクス出身ではない平井社長については、OBを含めた外部からも「本当にソニーを任せられるのか」と疑問視する声もありましたが、結果として見れば、ソニーをV字回復させた立役者ともいえます。会社の業績を大きく回復させ、20年ぶりの最高益を出した今は、社長交代の絶好のタイミングだったのかもしれません。

一方で、個別に見ていくと、まだ完全回復していない事業もあり、これは課題として吉田新社長に引き継がれます。その大きな課題の1つが、Xperiaブランドを展開するモバイル・コミュニケーション事業です。

実際、平井氏交代のタイミングで発表された第3四半期の決算を見ると、モバイル・コミュニケーション分野の売上高は2175億円と、前年同期比の2486億円より大きく低下しています。

それに伴い、営業履歴も212億円から158億円に減少。通期見通しの売上高も下方修正し、10月時点で7800億円だった売上高は7400億円になっています。

営業利益の見通しはそのままで50億円のままですが、販売台数の見通しも、1550万台から1400万台に下方修正しています。



業績回復の途上にあったモバイル事業だが、売上高を下方修正するなど、厳しい状況が続く

販売台数の減少は、「規模を追わず、違いを追う」方針のためではなかったようです。吉田氏は、その原因を、「意図したものではなく、市場のニーズに応えきれなかったため」としています。

ありていに言ってしまえば、当初思っていたよりもXperiaが売れなかったということ。規模を追わず、ローエンド端末から手を引いたところまではよかったのかもしれませんが、ミドルレンジやハイエンドモデルで、他社との差別化が十分でなかったことがうかがえます。吉田氏も、「商品力の強化が最重要課題」と語ります。



モバイル事業への質問には厳しい表情で「商品力の回復が課題」と語る吉田新社長

確かに、2017年に発売されたXperiaを見てみると、トレンドと呼ばれる機能に十分キャッチアップできていなかった印象があります。Snapdragon 835や積層型CMOSセンサーをいち早く搭載し、Mobile World Congressを沸かせたXperia XZ Premiumまではよかったのですが、その後に登場したのは、XZ Premiumをダウングレードしたようなコンパクトモデルばかり。他社がデュアルカメラやほぼベゼルレスの縦長ディスプレイに注力する中、Xperiaがどこか古臭いスマホに見えてしまっていた感は否めません。

特にソニーはカメラセンサーを他メーカーに供給するベンダーという立ち位置でもあるため、カメラの二眼化にキャッチアップできていないのは、紺屋の白袴のようにも思えます。



MWCでは高い評価を得たXperia XZ Premiumだが、業界のトレンドに乗り切れていない印象も

ソニーモバイルの前身となるソニー・エリクソン時代の全盛期である2007年には、1億台を超える携帯電話を販売していたことを考えると、わずかで10年たらずで、その規模はおよそ1/10弱にまで縮小しています。

規模の縮小は平井体制下で意図的に行われた部分があるものの、本来集中すべきハイエンドモデルの市場でも十分に戦えておらず、販売台数の見通しを下方修正する事態になったことは、ソニーモバイルにとって大きな課題といえるでしょう。Xperiaが特に強い日本市場を見ても、BCNなど一部の調査では、シャープにAndroidスマホ首位の座を明け渡しています。

では、ここまで縮小したスマホ事業をなぜソニーは続けるのか。平井氏はCESで報道陣からの質問に答える形で、スマホを継続する意義を、「コミュニケーションビジネス」だと語っていました。

「フィーチャーフォンがスマートフォンになったように、どこかでスマートフォンにも次のパラダイムシフトが来る」可能性があるため、ソニーとしても継続していく必要性があるというのが、コミュニケーションビジネスに込められた意味になります。

また、「各社とのリレーションシップもキープしたい」と述べていたように、キャリアやチップセットベンダー、グーグルなどとの協力関係を維持するうえで、欠かせない商品でもあるというわけです。

CESで報道陣からの質問に答える平井氏

こうした方針がある以上、台数が減ったからといって、すぐに撤退ということにはならないでしょう。この点は、商品力を強化したいと語っていた吉田体制にも引き継がれるようです。

一方で、いつ来るか分からないパラダイムシフトを見すえて事業を継続するというスタンスは、どこか守りの構えを取っているようにも聞こえました。実際には、ガードしてもその上から攻撃を受け、少しずつライフポイントを削られているような状態ですが、ライフがゼロになる前に、スマホの次が確実に来るとは限りません。

販売台数が1400万台にまで下がった今だからこそ、取れる方針もあるはずです。規模を追う必要がなければ、そのぶん尖った商品も出せるからです。日本市場に限った話では、SIMフリー市場にも部分的にしか参入しておらず、ここについても拡大の余地はあるでしょう。

ソニーが様子を見ている間に、この市場も年間で300万台を超える規模に成長しました。このところ、直球ど真ん中の商品ばかりだったXperiaでしたが、吉田体制に移行するのを機に、商品そのものや販売手法が大きく変化することを期待しています。