初めて仕事をする相手との場合は、しつこいくらい相談したほうがよい(写真:EKAKI / PIXTA)

上司や顧客に何度も仕事のやり直しをさせられ、残業ばかりの毎日……。そんな状態に陥っている人は、内容や品質の問題ではなく、実は「信頼残高」が足りないのかもしれません。
相手に信頼され、長時間労働の削減にもつながる「信頼残高」の高め方について、この記事ではご紹介します。

「やり直し」を命じられるのは「信頼残高」のせい?

上司や顧客企業の担当者に資料を提出すると「これちゃんと調べたの?」「もっと確実な根拠を出して」「もっとわかりやすく作り直して」……など、あれこれと指摘を受けることはありませんか? 「なんかしっくりこないんだよね」などと言われ、どこをどう直していいかもわからず、仕事が終わらないという方の嘆きもよく聞きます。


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何をしても受け入れてもらえないという状況が続くと、「嫌われている」「相性が悪い」「パワハラだ」と相手のせいにするか、逆に「自分の能力が低いのだ……」と自己否定してしまいがちです。でもそれ、実は「信頼残高」が積み上がっていないのが原因かもしれません。

信頼残高とは『7つの習慣』のスティーブン・コヴィー氏が提唱した言葉。人と人との信頼関係の強弱を銀行の残高に例えたものです。

信頼残高がたくさん蓄えられている相手であれば、自分の言うことを受け入れてもらいやすく、あら探しをされたり、頻繁な報告を求められることは少ないないわけです。「自分が言うと突き返されるのに、同じことをあの人が言うとなぜか通る」という場合には、自分の信頼残高を疑ったほうがいいでしょう。

信頼残高は、礼儀正しい行動、約束を必ず守る、期待を裏切らない、など日々の行動の地道な積み重ねによって蓄えられていくものですが、直接仕事をする相手とは意識的に信頼残高を早く高める工夫が必要です。信頼残高を高めることでより早く仕事が完結するため、生産性向上にも結び付きます。

報連相では、「相談」がいちばん重要

では、どうやって信頼残高を高めるのか、具体的にご紹介していきます。

信頼残高を早く蓄えるには、相手とのコミュニケーションの内容と頻度を意識します。内容とは、基本的ではありますが、報連相(報告・連絡・相談)です。

重要なのは報連相全部ではなく、実は「相談」です。報告で撃沈することが多い人は事前に相談をほとんどしていないことが多い傾向があります。

相談といっても、自分の聞きたいことを聞くだけのものではありません。相談することで、相手の期待をしっかりと把握できますし、さらに「あなたの意見を重要だと思っている」ということが相手に伝わり、相手の自己重要感が高められます。仕事を受ける際に、とりあえず「わかりました」と受けてしまうのはもったいないことです。

「何点か相談させてください」
「○○さんのご意見をいただきたいのですが……」
「この点が経験不足なのでアドバイスがあるとうれしいのですが……」

このように、仕事に取り掛かる前に相談すれば、相手の意向を反映しやすくなります。

報告する際にも「○○さんからいただいたアドバイスを反映させました」と付け加えれば、相手も悪い気はしませんし、自分の意向が入っていますから思い切りひっくり返すこともしないでしょう。相手に「この部下は自分の言いたいことをきちんと理解して実行してくれる」と思われれば、ぐんぐん信頼残高が高まります。

相談というと、何か事が起きてからするものと思われがちですが、上司の立場の人には「わかってないなら先に相談してくれればよかったのに……」と思っている方が多いものです。相談もなく、自分の期待とずれたものが出てくると「こいつ大丈夫か? やっぱりわかってないんだな」と信頼残高は急降下。根掘り葉掘り確認したくなってしまうわけです。しっかりと仕事のイメージがつかめるまでしつこいくらい頻度を上げて相談したほうがよいでしょう。

とはいえ、「怖くて声がかけられない」「忙しいのにそんなに時間をもらうのは……」と思われるかもしれませんね。しかし、怖い相手、距離を置きたい相手こそ、コミュニケーションの頻度を高めるべき相手なのです。声がかけられないから相談できない→報告したら信頼されていないのでやり直しになる→ますます苦手意識が高まり距離を置く……という悪循環に陥ってしまいます。それよりも、相談の頻度を上げていったほうがいい結果につながるはずです。

クッション言葉で拒絶されないようにする

話しかけると「忙しいから後にして」などと言われてしまうこともありますね。そういうときに大事なのは最初の一言。

「1分お時間ください」「一点だけ確認させてください」「少しだけお耳に入れたいことがあるのですが」など相手の時間を貴重だと思っているということを伝えるのです。そうすれば、相談タイムは確保しやすくなります。「1分だけ」と言われると相手も断りにくいものです。

そのうえで、「クッション言葉」を添えて質問します。クッション言葉とは、言いたいことの前につけて衝撃をやわらげる緩衝材のようなものです。たとえば、いきなり「○○って何ですか?」と質問すると唐突感がありますが、「しっかりと理解したいので教えてください。○○って何ですか?」と質問の前に入れることで相手が受け入れられやすくなります。

「間違いがあってはいけないので確認させてください」
「お急ぎのところ申し訳ないのですが」
「お時間が許せば」
「差し支えなければ」
「お手を煩わせることになってしまいますが」
「ご都合が許せば」
「すでにご存じかもしれませんが」
「何度もお時間いただいて心苦しいのですが」
「理解不足でご面倒をおかけしますが」
「手違いかもしれないのですが」
「私の理解が正しいか確認させてください」
「〇〇さんのご意向がきちんと反映できているか見ていただけますか?」

相談した後は、感謝の言葉も忘れずに。感謝の言葉も相手の自己重要感を高め、次回も協力したいと思ってもらいやすくなります。以下のようなものです。

「うかがっておいてよかったです」
「やはり○○さんに事前に見てもらえると安心です」
「もし何かお気づきの点があったらいつでも指摘してください」
「また相談にうかがってもよろしいですか?」

特に初めて仕事をする上司や顧客とは、最初のうちはコミュニケーションの頻度をできるだけ高めて、相手の期待を確実に把握しましょう。しつこいと思われるくらいでちょうどいいのです。相手が「この人は自分からしっかりと聞きにくる人だ」という信頼残高が貯まれば、「あれどうなってるの?」と突然報告を求められてあたふたすることも減り、自分のペースで仕事ができるようになります。

相談で何を気にしているかをキャッチする

相談で確認することは仕事への期待値だけではありません。どんなタイミングで報告や確認をしてほしいのかという「進め方のスタイル」も把握できたら万全です。

「納期の3日前には一度確認したい」「メールではなく会って話したい」など人によってこうしてほしいというスタイルがあります。「いつ頃お見せしたらよいでしょうか?」「メールで送っても見ていただけますか?」などを先に聞いておくのです。


私はコンサルタント時代、プロジェクトで初めて仕事をする相手との場合には、相手がマネジャーの場合でも部下の場合でも、早い段階で相談を多めにするようにしていました。何かあってから「それは違う」「普通こうでしょ?」などのやりとりになると、信頼残高が減ってしまうからです。相談してお互い合意のうえで決めたスタイルであれば、納得感も高く、マイナスになるリスクも防げるわけです。最初に信頼残高を高め、その後は逆に頻度を低くして自由度を上げて、お互いが自分の仕事に集中できるようにしていました。

信頼残高は、初めが積み上げのチャンスです。マイナスになってから蓄えるのは普通以上に労力がかかります。苦手な相手、距離を置きたいと思ったときこそ、相談の時間をこまめにとって距離を近づけましょう。信頼残高が高い相手との仕事はスムースでお互いの満足感も高まります。ご紹介したこの方法が皆様の次の一歩を踏み出すものになることを願っています。