高尾 隆氏

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なぜ人との会話が長続きしないのか。演劇教育、インプロ(即興演劇)を専門とする東京学芸大学の高尾隆准教授に、破綻なくコミュニケーションし続けるコツと、2つの魔法のフレーズを聞いた――。

■インプロ=即興演劇のメソッドを「会話力」アップに生かす

「ボクが皆さんを見てまず思ったこと、それはビックリするくらい、肩がこうなっていたこと」――広い教室に生徒として集まったビジネスパーソンたちを前に、東京学芸大学の高尾隆准教授は背中を丸め、両肩をすくめてみせた。日々の業務でのパソコン三昧を指摘された生徒たちから、笑いが洩れた。

10月末、東京・丸の内の慶應丸の内シティキャンパスで、30数人のビジネスパーソンを集めて開かれたワークショップ。講師として招かれた高尾氏の専門は、インプロ=即興演劇である。

脚本、設定、役柄を決めず、演技者がその場で出たアイデアから物語を組み立て、シーンを繋いでいく。そのコミュニケーションの心得とトレーニングが、同様にその場の即興で行う「会話」の継続に応用できないか?……というわけで、本誌はワークショップに立ち会った。

高尾氏は生徒に、胸が引っ込んだ猫背状態と、胸の前を開いた状態とで同じ台詞を話させた。

「同じ台詞でも、こちらが猫背だと、相手は『この人は不安なのか。本当はどう思っているのか。もしかしたら嘘をついているのか』と感じ、逆に胸を開くと『この人は自信があって、包み隠さず真実を打ち明けている』という印象を持ちます」(高尾氏)

言葉と同じように、体全体から発するメッセージですでにコミュニケーションが行われていることがよくわかる。

続いていくつものミニゲームが行われたが、その1つが、2人のチームで物語を即興でつくるゲーム。1人が発した言葉をもう1人が繋いで、リレーのように交互に話を繋いでいく。高尾氏が「猫がいる。何をしている?」と聞くと、相手役となったA氏がすぐさま「寝ている」。「猫のそばに何がやってきた?」「人」「人は何をやった」「シッシと追い払った」。そこで「猫はどうした?」と聞くと「それでも猫は寝ている」と答え、「猫は寝てばかりで幸せでした」で終了。

「私は、自分からはシーンのアイデアを出していません。A氏のアイデアを使って、A氏が話すたびに『そう、それ』という表情をしながらシーンを繋いでいきました」(同)

シーンを継続させるには、「そう、それ」と相槌を打つだけでなく、「あなたのアイデアは素晴らしい」という気持ちで「興味があります」という表情を浮かべるのがコツだという。相槌や同意の際は、目を見開いたり、眉を上げ、前のめりで「まさにそれです」「それ、どういうことですか?」「あっ、それは知らないのでもっと教えてよ」など、「繋ぐ言葉」を添えると効果的だ。その際は、視線や顔の向きにも注意が必要だ。相手は自分のほうに顔が向かなければ「受け容れてもらえない」と認識してしまうのだという。

「『向き合う』『正対する』はメタファー(暗喩)として使われる言葉ですが、私は文字通り体が相手にそう伝えているのだと思っています」(同)

相手の情報から会話に使える要素を掬い上げ、どう広げるかも重要なポイントだ。例えば相手が身につけているモノから話題を拾う。「そのネクタイいいですね」と伝え、相手のリアクションを見ながら話を広げて繋げていく。相手と関係を近くしたいなら、相手の話の中で自分と共通するものを見つければいい。そうすれば自然にポジティブな話に展開していく。

■言葉と顔で「そうそれ!」。目を大きく「それどういうこと!?」

「その人を知るために、複数の質問を投げかけるのも一つの手。興味のあるなしは、眉間(みけん)のあたりに出る表情で読み取ることができますし、話題を振っても乗ってこない場合は、どんどん新しい質問を投げかければいい」(同)

インプロで上手くシーンが繋がるのは、相手のことをしっかり受け容れ、言うことを理解し、相手にリードを取らせつつ、関係をしっかりキープしているとき。逆に上手くいかないインプロは、自分が言いたいことだけ言うケースだ。これも日常でやりがちな失敗である。では、話が途切れ、お互い黙ってしまったときはどうすればいいか。

「まず沈黙を恐れないことが大切。こちらが慌てると、その雰囲気が相手に伝わり、さらに気まずくなってしまう。リラックスすることが第1です。楽しい話なら『それは面白いですよね』と口にして、仕事の労いなら『それは大変でしたね』という言葉をかけてみる。そこから相手が何かをしゃべり出してくれることもあります」(同)

会話の継続には「聞く技術」も大切だということ。自分が話したいことを捨てる太っ腹な姿勢も必要なのだ。

「インプロの基本的な考え方として、相手がやっていることを受け容れ、そこから何かを拾って使っていくほうがいい、というのは確かにあります」

――高尾氏の教えは、人との会話にことごとくあてはまりそうだ。

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▼会話が途切れない2フレーズ
言葉と顔で……「そう、それ!」
相手の言ったことが素晴らしいものに思える
目を大きくして、眉を上げて……「それ、どういうこと!?」
話が膨らむ、「あなたに興味がある」というメッセージになる

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高尾 隆(たかお・たかし)
1974年、島根県生まれ。98年東京大学文学部卒業。2004年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。専門は演劇教育、インプロ(即興演劇)。共著に『インプロする組織』ほか。
 

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(篠原 周克 撮影=石橋素幸)