20代から30代へ、年齢を重ねるなかで起きた変化とは?

会社という“看板”に寄りかからず、自分の名前で仕事をしたい、指名される人になりたい――。「自分を仕事にする生き方」をテーマに語る、ブロガー・作家のはあちゅうさんとモデルの田中里奈さんとの対談。
自分を仕事にするまでの経緯や、ひとりで仕事をするなかでの成長の測り方などについて語った前編(「私たちが『自分』の名前を仕事にできた理由」2月6日配信)に続いて、後編では、年齢を重ねるなかで起きた変化などを語り合いました。

心の声を聞くトレーニングのすすめ

はあちゅう:里奈さんのブログといえば1〜2年前、なんだか更新が減ったな、と感じたことがあったんです。そのころから「旅の人」になりつつありましたよね。旅本もいくつか出して。

里奈:20代はほとんど休みもとらず、仕事に突っ走ってきた時期だったので、29歳になる年の年間目標として、「今年は腰を据えて勉強する年にしよう」と決めました。でも、年が明けて3カ月経つころ、旅ばかりしてる自分に気づいて(笑)。

はあちゅう:勉強はしてなかった、と(笑)。

里奈:そう。旅をする流れがきているなら、今年は旅する年にしようって、年間目標を変えたんです。そうしたら旅が旅を呼んだというか、オンオフ問わずたくさん旅をして、一昨年は1年の半分以上、東京にいなかったくらいです。


はあちゅう/ブロガー・作家。1986年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。在学中に友人と企画した期間限定ブログが1日47万PVを記録し、ブログ本を出版。卒業旅行は企業からスポンサーを募り、タダで世界一周を敢行した。卒業後は、電通のコピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、ネットと紙を中心に媒体を横断した発信を続ける。2017年には初の小説集『通りすがりのあなた』を出版。月額課金制個人マガジン「月刊はあちゅう」が好評。ツイッター・インスタグラム:@ha_chu

はあちゅう:旅を重ねていくなかで、変わったことはありました?

里奈:自分の心の声を聞く練習をし始めて、それが少しずつできるようになったのが、大きな変化だったかな。昔は頭で考えたことを優先して、旅の計画も綿密に立てるタイプで、予定をこなすことで精いっぱいになって、自分が心で感じていることを置いてきぼりにしていたと思います。

そんな私が飛行機に乗ってから、「この旅で、私は何をしたい? どんな旅にしたい?」と自分に問いかけるようになりました。仕事をしてもいいし、絶景を見てもいいし、そのときどきの心が真に求めることに素直に動くようになった。それを1〜2年やっているうちに、日常生活でも自分の心が欲すること、欲さないことの判別がつくようになりました。

はあちゅう:本を読むと、「心の声を聞きましょう」とか書いてあることが多いですが、自分の心の声を聞くのって本当はすごく難しいですよね。心が求めること、求めないことで言うと、20代のときは「あまり気が進まないけど、この番組には出ておいたほうがいいかな」みたいな、頭と心がバラバラの状態で動いていたことはあったなぁと思い出します。

30代になってからは、自分の心に素直に行動できるようになったと思います。個人的には20代から30代への過渡期で、大きな変化があったなって感じています。30代を迎えた現時点で、里奈さんが描いてる「田中里奈・完成形」とは?

「理想の状態」は明確に決めても、決めなくてもいい

里奈:あえて、がっちり決めないようにしています。30年生きてきて、明確に決めすぎるのは、私には合わないって気づきましたから。先生になろうと決めて20年近く過ごしてきたから、夢を断念したあと、どうしても自分を責めずにはいられない時期があって。自分の人生は自分がいちばん応援してあげないといけないとわかっていても、それができませんでした。

一方で、決めないでいると、心が軽い状態になるので、そのときどきの自分に合う物事をかろやかに選び取っていける気がしていました。

はあちゅう:私は「代表作がほしい」とか「作家としての認知がほしい」とか、ゴールを決めて進んでいくタイプだから、里奈さんとは逆かもしれません。この違いって面白いですよね。ただ、心をかろやかに持てるのが羨ましいな、と里奈さんと話してて思うことがあります。


田中 里奈(たなか りな)/モデル。1987年広島県生まれ。東京学芸大学在学中から読者モデルとして活躍。青文字系ファッション誌を中心に活躍中のモデル。コーディネートセンス、ヘアスタイルは原宿系のトレンドに敏感な若者たちからカリスマ的な人気を誇る。近年は雑誌のモデルの枠を飛び越えファッションイベントや、企業ブランドのデザインに参加するなど、さまざまなステージで活躍している

里奈:もちろん目標はあるんですが、「私はこうなるんだ!」というみたいにガチガチに決めるのは、私の場合執着に結び付いちゃうので、あえて決めずにいて、可能性を広げるようにしています。人生何があるかわからないし。はあちゅうさんみたいに決めて進むのがいいのか、私みたいに決めないでいるのがいいのか、みんなそれぞれ自分に合うスタイルを見つけてほしい。

ただ、これだけは言っておきたいのが、自分がしてきた経験や努力はどんな道を選択しようと、必ず自分の背中を押してくれるということです。積み重ねてきたことが、今の自分にしかできないことを作り上げている。はあちゅうさんが作家として活動するなかで、紙だけじゃなくネットもフル活用してる点だってそうじゃないでしょうか。

はあちゅう:確かに、紙とブログやnote、SNS、動画などのネット、とハイブリッドにやってきたから、本をコンスタントに出し続けてこられたのかもしれません。自分が長く続けてきたことや経験を活かすと、自分にしかできない仕事につながりやすいと思います。

生きながら「実験」を続けている

里奈:経験はすごく大きな財産です。はあちゅうさんの本に、「〆切のない仕事」の話が出てきて、すごく興味深く読みました。私自身は〆切のない仕事をするぞ、と意識的に動いているわけじゃないけど、いろいろな経験をしようと思って日々過ごしてることが、〆切のない仕事に近いかも、って思いました。経験を増やしていけば、そのぶん一つひとつの仕事の厚みが増すし、そういう仕事をしていきたい。だから、今の自分に必要な経験だと思えば、丸1日かけるのも厭わない。


はあちゅう:素敵な姿勢ですねぇ。最近の私がしている〆切のない仕事は、SHOWROOMでの生配信や小説の執筆でしょうか。誰かから「生配信してください」と頼まれてるわけではないけど、やりながら何かにつながるかなという思いで実験している真っ最中です。小説も「書いてください」と言われているわけでもないですが、自分が書いた小説を自分でも読みたいし、もちろん読者にも届けたい。そんな理想の自分になりたくて書き続けています。このふたつはしばらく続けていくつもりです。

里奈:今「実験」って言葉が出てきましたけど、はあちゅうさんも私もずっと実験しながら生きていると思います。私は、楽しいことだけ選んでいくと、どういう人生になるか実験していますし、今後もその実験は続けていきたい。

はあちゅう:私も「生きることが仕事になる」ことを、自分の人生を通じて実験し続けたいし、その過程を本などのコンテンツとして発表できたらな、と思っています。

(構成:池田園子、撮影:菊岡俊子)