一流の仕事につき、高い年収を稼ぐ東京の男たち。

世の中の大半の女性が結婚を夢見る、いわゆる“アッパー層”と呼ばれる人種である。

しかしその中でも、ハイスペであるが故に決定的に“残念な欠点”を持つ男、というのが存在するのだ。

元彼を35歳の美女・恭子にとられて傷心中の瑠璃子は、彼を忘れるためにハイスペ男との出会いを積極的に繰り返すが、なぜか残念男たちを次々引き寄せてしまう。

瑠璃子が出会う、“残念極まる男”たち。あなたも、出会ったことはないだろうか?

前回は、ネイティヴ気取りの弁護士・龍太郎に出会ってしまった瑠璃子。さて、今週は…?




「瑠璃子、君に紹介したい男がいるんだ。歯医者、性格はまじめで誠実。どう興味ある?」

ある日、大学時代の男の先輩からそんな連絡をもらった。どうやら先輩の友人が、瑠璃子の写真を見て気に入ってくれたらしいのだ。

先輩自身は既婚者だが世話好きで、過去にも先輩の紹介で知り合ったカップルが何組も結婚していると聞く。

-持つべきものは、人脈の広い、世話好きの先輩ね!

瑠璃子は上機嫌で、先輩が予約してくれた恵比寿の焼鳥店『喜鈴』へ向かった。

「瑠璃子ちゃん、はじめまして」

紹介された男の名前は、シンヤといった。歯科医、31歳。高円寺にある、父親の経営する歯科医院で働いている。ちなみに先輩とは、高校の同級生だ。

シンヤは、少し緊張した面持ちで挨拶をする。瑠璃子がにっこり笑って挨拶を返すと、彼は少し恥ずかしそうに視線をそらして、うつむいた。

-へえ…先輩が言っていたとおり、真面目で遊んでなさそう…。結婚するならこんなタイプがいいかな?

かつては女性慣れしている男性に惹かれた瑠璃子も、結婚を視野に入れるようになってからは趣味が変わった。

シンヤの穏やかな佇まいや、清潔感にとても良い印象を抱いた。巷によくいる、ガツガツ・ギラギラした男たちとは大違いだ。

「シンヤは、高校時代から真面目で、優等生だったんだ。落ちこぼれの俺なんかとは大違いだな!」

先輩が大口を開けて笑いながら、照れるシンヤの背中を何度も叩いている。瑠璃子はその様子を微笑ましく見つめるのだった。

そんな楽しい時間を過ごした瑠璃子だったが、帰り際にがっかりしたことがあった。その日シンヤから、連絡先を聞かれなかったのだ。


誠実な歯医者・シンヤこそ瑠璃子の運命の相手なのか?


会う前はタイプだと言っていても、実際に会ってみて瑠璃子にピンと来なかったのかもしれない。すると、帰り道に先輩からLINEが来た。宛先は、瑠璃子とシンヤだ。

-二人の連絡先、つなぎますのでよろしく!お邪魔虫はこれにて退散!

先輩はそう一言だけ言い残すと風のような速さでLINEグループから退室していった。さすが、世話好きの先輩である。

こうして瑠璃子とシンヤは連絡を取るようになり、2人で食事に行くことになったのだった。



シンヤと待ち合わせした店は、恵比寿にあるレストランだった。

「瑠璃子ちゃん、お久しぶり。今日は来てくれてありがとう」

相変わらず律儀で礼儀正しいシンヤを、瑠璃子は笑顔で見つめる。2人はお酒を飲みながら、会話に花を咲かせた。




「シンヤさんって、お休みの日は何しているんですか?」

「僕は、趣味が読書なんだ。土日の休診日は大抵家に閉じこもって、本を読んでいるよ。瑠璃子ちゃんは、本、読む?」

シンヤに突然尋ねられ、ぎくりとする。最近はスマホばかりで読書はほとんどしないのだ。でも、正直に言うことにした。

「最近、全然読書できてないんです…。オススメがあったら、教えてください!」

こんな調子で、終始和やかなムードでデートを終えた。趣味は合わないようだが、それでも瑠璃子は、シンヤにますます好感を抱くようになっていた。



しかし、初めてのデートの夜にお礼のLINEをやり取りして以来、シンヤからは一向に連絡がこない。

-私、何かミスしたのかな。やっぱり読書はしないと正直に言ったのがマズかった?

先輩に相談すると、「そんなはずはない」とキッパリ言う。

-実は今までもあいつに何度も女性を紹介してきたけど、いつも紹介止まりなんだよ。デートに誘ったのはあとにも先にも瑠璃子だけだから、相当気に入ったんだと思うよ。

はじめのうちは気にかけていたが、瑠璃子は次第にシンヤのことを考えないようになっていた。そして、2週間ほど過ぎた頃だろうか。シンヤから突然連絡がきたのである。

-瑠璃子ちゃん、良かったら近日中にまた食事でもいかがでしょう? 3月19日の週はご都合どうかな?

「ひと月先…?随分、先ね…。その週は、PRイベントがあるから厳しいかな…」

そのことを伝えて、別の日程を提案してもらうよう頼むと、シンヤは驚くべきことを言ってきた。

-それでは、4月半ば頃の予定はいかがでしょうか?

「し、4月…!?季節が変わっちゃうわよ…!」

仕事がよほど忙しいのかとも思うが、シンヤが毎週土日は読書をしていると話していたことを思い出す。そして瑠璃子は確信した。

-きっと他にも、デート相手がいるのかな。私には、さほど興味がないのね…。

その後、先輩から経過を聞かれ報告をすると、先輩はこんなことを言った。

「ああ…あいつ昔から、歯医者は医者に所詮かなわない、とかいじけてて、妙に自分に自信がないところがあってさ。グイグイ押せないのも、自信がないからかもなあ。真面目でいい奴なんだけど…」

-自分に自信がないあまりに、押しが弱くてタイミングを逃す男か…。

こうしている間にも、瑠璃子のテンションはぐんぐん下がっていく。きっとこの調子では、4月に会う頃には…シンヤへの興味は皆無となっているのに違いない。


シンヤは何を考えていたのか?




シンヤの本心


シンヤは、友人から瑠璃子の写真を見せられたとき、一目見て気にいった。

「シンヤ、お前の頼みならいつでも紹介するよ!早い方が、いいよな?」

友人にそう尋ねられたとき、慌てて首を横に振った。

「いや、別に急いでないから、そんなに焦る必要ないよ。機会があったら、でいいんじゃないかな」

そんなにガツガツしていると、思われたくなかったのだ。

しかし瑠璃子と実際会うと、やはりシンヤの好みど真ん中。シンヤ自身の見た目が地味なためによく誤解されるが、本当は瑠璃子のような派手な女が好みであった。

その後運良くデートまでこぎつけたが、店をどこにするべきか、悩んでしまった。瑠璃子ほどの女なら、レストランには相当詳しそうだ。一方でシンヤは店選びには自信がなく、結局グルメな男友達に相談して、適当に店を見繕ってもらった。

しかし食べログのリンクを見て点数がそう高くないことが気になり、瑠璃子にリンクを送る際に一言こう付け加えた。

「食べログの点数はなぜか低いけど、ここ、本当に美味しいお店だから安心して!」

そんな苦労の甲斐あって、デートも良い雰囲気のまま終わり、ぜひまた彼女に会いたいと思った。しかし、ふと思いとどまる。

これですぐに会いたいと連絡したら、がっついていると思われて引かれてしまうのではないか?と考えたのである。そして連絡したい気持ちをぐっと堪えて2週間を耐え忍び、満を持してLINEした。

3月後半に会おうと言ったのには理由がある。提案する日程があまり近いと必死だと思われるし、女にモテない暇な男に見えてしまう危険性があるからだ。

-瑠璃子ちゃん、返信くれてよかった。このままなら、うまくいきそうかもな…。

もし瑠璃子と付き合うことになったら、シンヤには見せつけたい相手がいる。それは、高校時代からの親友であるタケルという男だ。

高校卒業後、タケルは医学部に進学した。一方でシンヤは、常にタケルよりも成績がよく医学部も余裕だと言われていたが、父親の跡をつぐため、同じ大学の歯学部に進学した。

タケルとはたびたび食事会に行っているが、その中で忘れられない思い出がある。ある日行った食事会で、シンヤが「タケルと同じ大学だ」ということをその場にいる女たちに向かって告げると、タケルは笑いながら言ったのだ。

「何言ってんの、お前は歯学部だろ。俺は医学部」

タケルより自分の方が本来は勉強が出来るのに…。彼らは自分たちが医者というだけで、歯医者のことを下に見ている。そして常に華やかで派手な女たちをはべらせて、彼らの方が格段とモテるのだ。

-どうせ俺なんて…。

いつのまにかシンヤは、自分への自信をすっかり失っていた。でも瑠璃子と出会ってからは、なんだか再びパワーを取り戻した気がする。

-なんだ、俺だって、瑠璃子ちゃんみたいな子を落とせるなんて、十分イケてるじゃないか。…ん?3月は会えないのか。

瑠璃子とLINEをしながら、ニンマリと笑う。3月がダメなら、代案は4月だったらガツガツ感もないだろうか。

こうしてシンヤは、瑠璃子を落とすタイミングをすでに完全に逃してしまっていることを知る由もなかった。

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