もともと、花街だった神楽坂。その名残はいまも残っていて、たとえば、こちらの『天考』もその一つ。

石畳のアプローチを抜ければ、由緒ある入口が見える。店に入れば、昔ながらのお座敷が広がり、心が凛とする。

ここはひとつ、神楽坂でお座敷天ぷらを楽しんでみてはいかがだろう。



一度は体験したい、神楽坂でお座敷天ぷらという狢膺佑瞥靴哭
『天孝』

「お座敷天ぷら」と聞くと、32歳には縁遠く感じられるだろう。しかも、神楽坂となれば尚更だ。しかし、だからこそ背伸びして経験することが価値となり、同年代との差を付けられるというもの。

この神楽坂で、40年以上続くのが、お座敷天ぷらの名店『天孝』だ。石畳の路地裏に、溶け込むかの如く肅然と佇む昭和の日本家屋は、男の格を上げてくれる存在。

二代目主人の新井 均氏によれば「もともとは芸者さんの住まいだったところを、先代が一階だけ間借りして始めたのが、昭和52年のこと」だそうで、以来、高級天ぷらの代名詞的存在として、江戸末期から発展してきたお座敷天ぷらのスタイルを守り続けている。



二代目主人の新井 均氏。お座敷の天ぷらコースは¥20,000。さいまき海老に始まり、今が旬のハゼや大百合根など、10〜12品ほどが出る

上がり框に磨きこまれた木の床と、時の流れが醸し出す、作り物ではない古拙な風合いに包まれ、障子戸を開ければ部屋の中央には年季の入った朱漆のカウンター。その中央に主人が座り、それを取り囲むように並ぶ客席は、全8席。

完全予約制の完全個室で、しかも1日1組。ふたりきりの貸切りも受け付けてくれる。

目の前で衣を溶き、旬の素材を揚げ、芳ばしい香りと快音と共に揚げたてを客の前に置く。ここで繰り広げられる一連のパフォーマンスは、まさしく古くて新しい、ひとつのエンターテインメントと呼んでもいいかも知れない。



コースを締めくくる天ぷらは、やはり穴子。小振りのものを選び、しっかりめの衣で揚げたそれは、サクサクの歯ざわりの中、穴子のもっちりとした食感が官能的。お菓子のような甘みを感じさせる油の力に感服

「この店では、あえて昔ながらの江戸前にこだわりたいですね」と、しみじみ語る新井氏。

それ故、江戸前天ぷらに欠かせない穴子は、身にストレスのかからぬ筒漁で獲る、東京湾の「めそ(35cm以下の小振りの穴子)」を選び、車海老は「手一束」と呼ばれ一番甘みの強い、12〜13cmの長さのマキを用いるなど素材への審美眼は流石。

これらを、やや厚めの衣につけて揚げるのが『天孝』流だ。それも「具材本来の持ち味を生かすだけでなく、油自体の旨みも味わってほしい」との思いから。



名物の天バラ。食事は天丼、天バラ、天茶の3種類から選べる

しっかりした衣で食材をコーティング。高温で一気に揚げることで封じ込められた素材の旨みと独自のブレンドによる油のコクとが口中で一体化する醍醐味!

これこそが、こちらの真骨頂だ。その揚げ油は、太香胡麻油2に対し綿実油が8割。口当たりはサクッと軽く、後口は実に上品。



永く文化人らに愛されてきた、レジェンドとも言うべき風格は、貴方を一回りも二回りも成長させてくれる。