世間を騒がせた「はれのひ問題」を独自調査した記事が大きな話題を呼んだ、人気メルマガ『伝説の探偵』の著者で現役の探偵・阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。今回は、近年相談が急増しているという「相続トラブル」について取り上げています。最近では節税対策として自分の配偶者を親と養子縁組させる人も少なくないようですが、中には取り返しのつかない事態になるというケースも。自身のメルマガで、その実態を具体的な事例とともに詳しく紹介しています。

急増してきた相談は相続トラブル

2017年頃から激しく増えた相談がある。

多くは離婚などに伴う家事事件についての相談から始まる。

その相談者について共通する点は、年齢が50代〜60代であり、その父母が相応の資産を持っているということだ。ニュースによれば、企業の内部留保は400兆円、個人の資産は1830兆円なんだそうだ。

資産持ちというレベルの家族が頭を抱えるのが、「相続税」だ。

3代で家屋敷を国にかすめ取られるという話があるほど、「相続」には気を使う。

家族に資産を残し、少しでも生活の役に立てて欲しいとか、先祖代々守ってきた土地を次の世代でも守って欲しいとか、いろいろな思いがあるだろう。納税は国民の義務だが、本音では払う額はできる限り少なくしたい、非課税分を増やしたいと考えるのが人情だろう。

養子制度で節税!?

そうなると、何か抜け道はないか、いや、抜け道を作っておくのも立法の肝なのかもしれないが、その抜け道として使われているのが、「養子制度」だったのだ。

例えば、都下の一等地に多くの建物や土地を持っているAさんの場合、他界した父親が一代で不動産投資で成功した。その死は突然で、何の用意をないまま、相続を迎えた。

相続人は、仕事などしたことのない母、長男であるAさん、長女となるAさんの姉であった。

母個人にはこれといった資産はなく、Aさん自身も父の手伝いで生計を立てていたため、資産という資産はなく、Aさんの姉も専業主婦になっていたため、高額化した相続税を自らの資金で賄える相続人はいなかった。

そのため、かなりの土地などを処分することになるという痛い目にあったのだ。

その教訓から、いざ相続が発生した時には、なるべく非課税分を増やし、相続税を減額させるということを家族全員が強く意識するようになった。

法定相続で考えれば、母50%、Aさん25%、姉25%の割合で資産を分けることになったであろう。(この辺りのことは相談や調査には多く影響することではないので、憶測にすぎないが。)

ただ、父親の資産管理を手伝っていたAさんがもっとも詳しい人物であることから、Aさんが中心となって、法人を作って資産を持たせたり、税理士に相談して、Aさんの妻を母の養子にしようとしたりした。これをしておけば、高齢の母が死んだ場合、相続人が増えることで非課税分が増える。

こうしてAさんは一代で資産を築いた父の資産を守り、自らの豊かな生活を息子の代へ継がせようとしたのだ。

妻の裏切り

しかし、母がいよいよ危ないという時に、Aさんは妻から離婚を切り出される。

もはや母自ら養子を解消することはできない状態であり、離婚となれば、Aさん名義の資産についても財産分与となり、母が死ねば、相続として受けることができる分の資産は全て妻のものとなる。

Aさんは、どこに相談しても無理だと言われ、何か証拠があればいいのですがという逃げ口上を聞いて、探偵のところにきたのだ。

確かにここから一矢報いるための作戦を立てることはできるが、それが成功するかは保証できない。まずは、Aさんの奥さんがどんな人物かを知るところの調査から始まり、日常行動から交友関係を調べ上げて行くところがスタートラインになる。

類似するような相談は無数にあるが、ここから依頼に発展するのはおよそ6割といったところで、もはや手遅れとなってから泣きついてくるように依頼をしようとするのが1割くらいいる。

もうダメだろうというときは、私は依頼を受けない。それこそ、依頼主にとっては無駄な費用であり、我々にとっては無駄な労力だからだ。

調査を有効に活用

私がこのAさんの事例で依頼を受けようと考えたのは、Aさんの話からであった。

もちろん、夫婦のいざこざもあり、相当に恨言も強い主観も話には入っていたが、客観的な事実だけを追えば、Aさんの妻は、法律のほの字も、税のぜの字も知らないであろうという環境にあり、それでも、この離婚話の段では、自信満々に何が取れるかというところまで交渉が進められていた。

つまり、ここには入れ知恵、ブレーンとなる人物がいると推測するのが一般の猜疑心というものだろう。

調査では、Aさんの妻の行動を中心にその交友関係を洗った。

Aさんの妻は、離婚話をしたと同時に別居をしており、その住所はAさんに伝えていなかったが、調べればすぐに判明する。こうした調査のことを我々探偵は「宅割」と呼ぶが、離婚話と同時に別居したケースにおいては、「宅割」と同時に「不貞(ふてい・浮気のこと)」が判明することが多い。

このケースにおいても、「宅割」をしたところ、同居する異性がいることが判明した。ただ、即時に同居と判断するわけにいかないので、調査を続けて、一定期間同居している証拠を粛々と集めた。

「別居してしまえば、結婚生活は破綻する」という誤った知識がどこで広がったのか不明だが、Aさんの妻はそう認識していたようで、まるで夫婦のような生活を別居先でしていた。

いわゆる「婚姻破綻」は、夫婦としての関係性が破綻しているとみなす状況のことを指すが、一方的に別居しても、簡単には破綻とはみなされない。近年、この別居期間が短くなって5年ほど別居すれば、破綻したとみなされるという情報もあるが、これは方程式的な問題ではなくて、その別居の内容も重要な判断材料になる。

詳細を調べていくと、浮気相手はテニスサークルの仲間で、不動産業を細々と営むバツイチ男性であった。不動産業には「宅建」などの法律を学び試験をパスしなければならないハードルがあるから、この男性は法律とは無縁の一般人よりは法に明るいし、税務にも明るい。

この男性はサークルの飲み会で、Aさんの妻が養子になっていて、Aさんの母が痴呆症を発症して施設におり、体調が極めて悪くて入退院を繰り返しているという情報を得て、アドバイスをするという名目で近付いた。

そうしているうちに男女の関係となり、多くある不動産資産を運用して一財産儲けようと画策した。あわよくば、Aさんと離婚させれば、Aさん名義の資産の半分は財産分与で手にすることもできると色気を出したわけだ。

Aさんの妻の計画は露呈するが・・・

計画が調査により露呈し、浮気相手としてこの男性はAさんから損害賠償請求を提訴された。Aさんの妻の方もAさんから賠償請求を受ける羽目になった。

ここまでくれば、あとは弁護士さんの腕次第という仕事になるが、泥仕合にしていくと、資金源が薄い方が結局不利になっていく。

現段階では結果は出ていないが、一矢報いるという目的は達成できたと考えていいだろう。

しかし、このようなケースは確かに多いが、Aさんの妻が浮気をしていなかったら、別居をしなかったら、Aさんの母が亡くなってしまっていたら、という「もしも」の要素が一つでもあれば、調査をしても無意味だし、財産は相当に持っていかれることになるだろう。

金持ちの悩みでは片付かない相続

そもそも資産などほとんどないから相続など関係ないとタカをくくっている方も多いかもしれない。かなり前の話になるが、法改正で、非課税分は随分下がった。

2014年は5000万円+(1000万円×法定相続人の数)だったが、2015年以降は3000万円+(600万円×法定相続人の数)となった。

例えば、土地と建物、老後資金の現金などが財産としてある場合、土地と建物ですでに3000万円を超えるという場合は、実際に相続が発生した場合、今までは関係ないと思っていた人でも、シミュレーションしておいた方がいい。

非課税分を超えたといって、無理に減らそうとすれば、どこかで歯車が狂って後の祭りになることもあるから、リスクも含めて専門士業にしっかり相談するのがいい。

また、すでに相続対策のために養子制度を利用したという方(実は結構多いように感じる。)は、後戻りできない状況に至る前に、リスクを想定した行動をした方がいいだろう。

ここにきて十数件の問い合わせもきている事案なだけに、注意喚起の意も込めて。気をつけてほしい!!

image by: Shutterstock.com

MAG2 NEWS