木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)

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仕事で緊急事態が発生したとき、「とにかく行動を起こさないと!」と思ってはいないでしょうか。日本IBMでエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーを務めていた木部智之氏は、「すぐに行動しても、良い結果を招くとは限りません。『すぐにやる』のではなく、『速くやる』ことが重要です」といいます。どういう意味なのでしょうか――。

※本稿は、木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■「即・行動」が、良い結果を招くとは限らない

どんなに難しい仕事も、基本的な仕事の応用形や変化形でしかありません。

ですから何かトラブルが起こったときには、絡み合った事象をシンプルにして、問題の本質を見抜くことが重要です。

問題の本質が見えてきたら、おのずとその解決策も決まってくるからです。

ですが、トラブルの真っただ中にいて慌てふためいている人は、問題を解きほぐそうとせず、複雑に絡み合った状態のままで問題を抱え込んでしまいがちです。

そして、次のような「即・行動」に至るのです。

・思いつきや衝動で、行動を起こす
・目の前のトラブルだけを見て、動き出す
・取りあえず、やってみる

こうした行動は、トラブルが起きていないとき、あるいはあまり難易度の高くない単純な仕事であれば成果に結びつくこともあります。

例えば、目標が「電話で1件アポイントを取る」というだけなら、手当たり次第に電話をかけて、運が良ければOKをもらえることもあるでしょう。「とにかく、やってみるしかない!」的な試みであっても、クリアできるでしょう。

しかし、目標が「電話で100件アポイントを取る」という場合はどうでしょう。

難易度がグッと高くなり、とにかく手当たり次第に行動するだけでは、到底クリアできません。

■「すぐにやる」と「速くやる」は違う

私自身、若手にこのような話をすると、「えっ、即・行動の何が悪いんですか? 木部さん、いつも『速く、速く』と繰り返しているのに……」と言われることがあります。

こうした疑問をぶつけてくれた若手には、「『すぐにやる』と『速くやる』は違うんだよ」という話をしています。

当然ですが、仕事を先延ばしにしたりぐずぐず遅らせたりすることは、絶対によくありません。「速くやる」ことは大事です。

しかし、作戦も何も考えずにいきなり手を動かして「すぐにやる」と、目的地(問題解決)にたどり着くのに時間がムダにかかってしまい、結果として、「速くやる」ことができなくなってしまいます。

そもそも人間は、目の前のことに興味を引かれる生き物です。それが動物の本能だからです。

例えば、公園のベンチの下にポップコーンが1個落ちているのを見たハトが、それに手をつける前に「他のベンチの下にも、ポップコーンがたくさん落ちているかもしれない!」とキョロキョロ探しまわることはありません。まず、必ず目の前のポップコーンに直行します。

それと同じで、人も「これ、お願い」と頼まれた仕事があれば、「よし、やろう」と反応するのが自然です。そして、その本能をコントロールするのが理性です。

ですから、仕事を頼まれたときに、そこでひと呼吸おいて「考える」という理性の行為は、自分で意識的にやらないとできないことなのです。

■「速くやる」ための方法を編み出す3原則

「そうか、動く前に考えればいいんだ!」と理解しても、実際に難しい問題を目の前にしたときに、何をどう考えればいいのかわからない人も多いでしょう。

というのも、世の中には「どう手を動かすか」という作業マニュアルはありふれていますが、「頭の中でどう考えるか」という思考法についてはあまり言及されてこなかったからです。

私は、「最速」でゴールにたどり着くために、いつも次の3つの原則を意識しています。

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[原則(1)]考える枠を決める
[原則(2)]全体像を捉える
[原則(3)]ムダに考えない

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[原則(1)]考える枠を決める

ゼロから何かを考え出そうとするのは、どんな人でも難しいものです。

「真っ白の紙に、好きなように絵を描いてください」と言われると、何を描こうか、どこから描き始めようかと戸惑ってしまいますよね。

仕事でも、「さあ考えよう」と白紙から考え始めると、「何を考えるべきか」「何から考えるべきか」はなかなか浮かんできません。

白紙のゼロベースではなく、考えるべき「枠」を作ることで、誰でもその「枠の中」に集中して考えることができるようになります。「いま何を考えればいいか」がシンプルかつクリアになるので、戸惑うことがなくなるのです。

例えば私は、トラブルに遭遇したときはもちろん、報告資料を作るとき、プレゼン資料を作るとき、文章を書くときなど、何かをするときには常に「枠」から考え始めることにしています。

[原則(2)]全体像を捉える

私が書籍1冊分の原稿を書くときには、文章をパソコンに打ち込む前に、まず、「章立て」や「見出し」といった書籍全体の枠組みや構成を作ります。文章を書くよりも、全体像を捉えることに大きな労力を割いているのです。

いったん、そうした枠組み(全体像)ができあがると、その後は、枠の中に文章を入れていけばいいので、あまり考え込むことがなく、スラスラ書き進めていくことが可能です。

ところが、そうした枠組みを持たず、いきなり書籍の1ページ目から書き出そうとしても、まず、筆は進みません。どうにか最終ページに至ったとしても、モレやヌケがあったり、くどい部分が出てきたり、あちこちがチグハグで全体のバランスも悪いものができあがってしまう可能性が高くなります。

[原則(3)]ムダに考えない

考える対象は何にせよ、まず最初に、どのような枠にするかを考えることが重要です。枠さえ作ってしまえば、あとは中身を埋めることに集中すればいいだけです。余計なことを考えなくなるので、効率的に作業が進みます。

枠がないまま中身を考えても、あっちに手をつけたり、こっちに考えをめぐらせたり、整理されていないバラバラの情報に手こずり、結局、時間のムダも発生します。

■枠を使えば、30個の問題もスムーズに進む

私の見ているチームの1つで、次のようなことがありました。

リーダーが真っ青な顔をして、「いま、問題のあるタスクが30個もあって、どうしていいのかわからなくなりました。いったい、どれからどうやって手をつければ……」と私のところに相談にやってきたのです。

話を聞くと、かれこれ半年以上、解決を先延ばしにしていたことが積もり積もって30個もたまってしまったとのこと。プロジェクトの大きな節目が1カ月半後に迫っている中、何からどう手をつけていいかわからなくなってしまっていたのです。

私はその報告をざっと確認し、30個の問題について、それぞれ6つの観点から、マトリクスを使って情報を整理するように指示しました。

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【6つの観点】
(1)課題の内容 (2)現在の状況(3)担当者(4)難易度(5)影響度(6)優先度

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このマトリクスで枠に沿って整理した結果、実は、3分の1の問題については、すでに方策も決まっていて、解決に向かっていることがわかりました。

そして、残りの3分の2の問題を「影響度」と「優先度」の高いものから順次片づけていくという方針にしました。

これまでどうしていいかわからずに、ただ頭を抱えていたリーダーが、状況を整理する枠を作ることで、簡単に状況を把握することができ、そして問題解決へ前進することができました。

このタテとヨコの2軸を使って問題を整理することを、私は「2軸思考」と呼んでいます。複雑な問題をシンプルに「構造化」し、書き出して「見える化」する。このたった2つのことを満たしていれば、あらゆる問題は解決することができるのです。

デカルトは「困難は分割せよ」と言い、ビル・ゲイツは「問題は切り分けろ」と言いました。そして、レオナルド・ダ・ヴィンチは「シンプルさは究極の洗練である」という言葉を残しています。これらは、あらゆる仕事において真実です。

もし、みなさんが何らかの問題を抱えているならば、ぜひ、試してみてください。

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木部 智之(きべ・ともゆき)
元日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー。横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本IBMにシステム・エンジニアとして入社。2017年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(以上、KADOKAWA)がある。

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(元日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー 木部 智之)