「テレイグジスタンス」(Telexistence)とは、英語で「遠隔」を意味する接頭語の「Tel」と、「存在」を意味する「existence」を合わせたワードです。遠隔存在と言うこともあります。

 ロボットやAR、VR技術を使い、遠く離れた地にある人やモノが、まるですぐ近くに存在するかのように感じさせる技術のことです。あわせてロボットの操作などもリアルタイムに反映できる仕組みも取り入れられています。これにより、ロボットを自分の分身として利用し、人間を時間や空間の制約から解放しようというわけです。

 もともとは1984年、舘翮 慶應義塾大学教授(当時)によって提唱された概念とされています。現在までに理論的な研究に加えて、実際にハードウェアを用いた実験的研究による実証が進められています。

 近年、特に注目されつつあるのは、このテレイグジスタンスという概念の実現化に必要な「ロボット」「VR」「遠隔通信」といった技術に大きな進展が見られるからです。移動体通信の技術も4G→5Gとなることで、テレイグジスタンスの実装に大きな力となることでしょう。

「遠隔操作」と何が違う?

 以前から、遠くに離れたモノをコントロールする「リモートコントロール」は現実になっています。「テレイグジスタンス」の違いは、利用者の視点にあります。

 リモートコントロールですと外部からコントロールされるモノを見ますが、テレイグジスタンスの場合、VRを使ってユーザーはそのコントロールされているモノの視点で外界を見ることになります。

 たとえば、ロボットを制御・操縦する場合、現在のように管理者が見ながら操縦するのはリモートコントロール、ロボットの視点を利用者にヘッドマウントディスプレイ(HMD)で見せて、ユーザーが手を動かすと、これが同じようにロボットの手も動くというように操縦者の視点も動きもリンクするのがテレイグジスタンスです。

ドコモと凸版印刷が進めている5Gを利用したテレイグジスタンスの実験

 テレイグジスタンスでは、遠隔のロボットが何か触ったときには、ハプティックス技術を使ってユーザーへフィードバックします。

 テレイグジスタンスの応用分野としては、たとえば、単純にロボットを会議室において遠隔会議を行うということから、医療ロボットを遠く離れた場所に置き遠隔操作で手術をするというような非常に高度なものまで考えられます。人間の医師がすぐには向かえない数百km離れたような場所でも、たとえば外科医であればメスを握ったり縫合などを経験していれば、同じように遠隔地の医療を行えるようになれば非常に有益でしょう。

コンピュータの性能、通信の高速性が欠かせない

 テレイグジスタンスではHMDを被った操縦者が、遠隔地の様子を見ます。そして、何か行動します。操縦者にはそれに対するフィードバックが返ってきます。

 テレイグジスタンスという概念自体は1980年代に考え出されたものの、それが実用化されていないのは、それぞれの要求する技術要素が非常に高かったからです。

 たとえば、HMDひとつ取っても、Oculus RiftやHTC Viveレベルのヘッドセットでさえ2017年までは市販されていませんでした。

 また遠隔地の様子を映したり、操作のフィードバックを操縦者に与えたりという、「操縦者←→遠隔地」での情報のやりとりのリアルタイム性が必要となります。

 ロボットから見える画像をHMDに破綻なく見せるには画像の大きなデータ量を高速に送れないとなりませんし、リアルタイムなレスポンスを操縦者に与えるには通信のタイムラグも極力短くしなければなりません。

 移動体通信の技術も4Gから5Gに、そしてその先にと進むことで、やっと、このテレイグジスタンスの実現性が見えて来ました。それで、この「テレイグジスタンス」という用語が注目され初めてきました。
 たとえば、2017年5月にはKDDI系の「KDDI Open Innovation Fund」がテレイグジスタンス技術を活用するベンチャー企業「Telexistence株式会社」へ出資しています。