2016年、ANAの国際線定期便就航30周年記念で、CAが歴代制服姿を披露。(時事=写真)

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■人材確保に必死の「花形職業

「航空会社全体としてCAの人気度は昔ほどはありません」

そう語るのは、JAL人事部の社員である。

「昔なら女性の職業の花形はアナウンサーかCA。うちとしても特に採用広報しなくても応募はふんだんに来てくれました。でも最近はそこまで競争力がなくなりました」(日本経済新聞電子版2015年5月28日付「ハードル下がった? 客室乗務員、仁義なき争奪戦」より)

インフラ企業である航空会社の学生人気は、依然として衰えていない。学情が調査する文系女子の就職人気企業ランキングにおいて、ANA(全日空)は1位、JAL(日本航空)は2位と堅調だ。黙っていても学生が殺到し、優秀な人材に困らないと思うだろう。しかし採用は職種別であって、長らく「花形職業」と言われてきたCAは今、人材確保に必死なのである。

それを示す一端として、採用活動に変化が見られる。JALは2014年から、関西外国語大、名古屋外国語大や同志社女子大など合計6大学・法人と包括的産学連携協定を結び、出張授業や職場見学、オープンキャンパスでのイベントを行っている。同年からANAのグループ企業も同様の連携を13校と行い、福岡女学院大では16年、4日間の集中講義と福岡空港での実習を盛り込んだ講座が開かれた。もともと、CAはマナーやサポート系の技術に長けているという社会的評価があった。その強みを活かし、現役CAやCA経験者が大学に出向いて、学生との接点を増やしているのだ。

両社ともに大学との提携を人材確保とは明言していない。しかし、実際には早い段階での囲い込みにつなげようという意図が見て取れる。

ANAは16年から大学生向けの「1dayインターン」を始めた。従来のインターンシップと言えば、5日間ほどかけての就業体験が中心だった。しかし、ANAが始めたのは、わずか1日。いわゆる会社説明会のような短期間での体験をインターンと称して行い、学生との接触機会の拡大を図っている。

航空大手がこうした活動を始めたのは、かつて「狭き門」だったCAが、売り手市場になっている事情がある。

12年には、LCC(ローコストキャリア)の就航が始まり、業界全体の採用人数が増加した。そして近年、ビジネス需要や訪日客の増加を背景に、国内空港の国際線発着陸回数が増加傾向にあるため、航空会社はCAの採用人数を増やしている。代表的なのがANAで、15年度には新卒と中途をあわせて1000人以上を採用。当時は16年から19年にかけて、毎年1000人の採用計画を立てていたほどだ。17年度の採用人数は700人に減少したものの、JALの採用人数350人の倍になり、決して少なくない。

こうした状況で、各社がCAの確保に力を入れているのは当然の行動だろう。かつては短大や専門学校卒も採用していたのが、一時期は大卒が基本になった。それが今、昔のようにさまざまな学歴の人に門戸を広げている。

しかし採用数が増えれば増えるほど、全体のレベルが下がる可能性は高い。筆者が取材した大手航空会社の元CAは、このように述べた。

「昔は身長制限があり、容姿端麗、英語堪能でなければ、採用されなかった。それが今は前者の2つは問われないし、英語は入社してから覚えればいいという方針。どうしても質は落ちるでしょうね」

「狭き門」が開放され、望む者の多くに就労のチャンスが与えられるようになったCA。その代償として、かつての地位と魅力が失われているのではないか。

■人気があるのは、発展途上国だけ?

雇用や労働環境の変遷を振り返ってみると、CAのステータスは徐々に下落してきたことがわかる。

かつて日本人にとって海外旅行は、「非日常体験」だった。1985年、プラザ合意まで1ドルは230円台で、国際線に乗る機会はごくわずか。そんな時代に海外に出かけ、英語を駆使し、なおかつ「20代で家が建つ」と言われるほど高給だったCAは、学生にも利用客にとっても光り輝く存在だったに違いない。

しかし円高が進み、海外旅行が当たり前の時代が来ると、その地位は相対的に下がっていった。CAは発展途上国や新興国などでは人気の職業だが、多くの人が海外旅行に行けるような成熟した国では、それほど人気が高くない傾向があるのだ。

そしてバブルを通過すると、コスト削減を背景に環境が大きく変わった。90年、JALがジャパンエアチャーターを設立(同社は10年に吸収合併)すると、多数採用したタイ人CAをタイの訓練拠点で教育し、のちにフィリピン人CAも採用するようになった。94年からは、JAL、ANAともに契約制CAを導入。3年間は契約社員、4年目に希望者を正社員として受け入れることになった。

また86年、男女雇用機会均等法が施行されると社会に女性が進出し、それまで限定的であった女性の職場は選択肢が増えた。それまでであればCAを目指していた優秀な人材の中には、大企業の総合職を志向するようになった者もいただろう。

前出の元CAによれば、近年、「昔のように『海外に行って美味しいものを食べてお買い物をする』という華やかな生活ではなくなった」という。

「労働環境がきびしくなったのは、00年代後半ごろ。経費節減のため、早朝・深夜のタクシーが使えなくなり、都内から成田空港に行くのも安価なバスが推奨されるようになった。滞在先も街中の立地のいいホテルに泊まっていたのが、空港近くの中心地から離れたホテルに変更になることも。契約社員は給与水準が下がった印象はなかったけれど、正社員の中には給与が激減した人もいたはず」

こうした現実が憧れを漸減させていった中、筆者はさらにLCCの台頭がイメージに大きな影響を与えたと考える。旅行でLCCを利用して、CAの仕事を初めて目の当たりにした学生は多かっただろう。そこではCAは激務をこなしながら、機内販売の売り上げを上げるのに注力している。また飛行機慣れしていない客のクレーム対応に追われる光景を見たかもしれない。そうしたCAの華やかではない一面を目撃し、落胆した可能性はある。

■CAの地位復活には、企業努力が不可欠

プレミアム感だけでCAの人材を確保できる時代は終わった。今後、CA人気が復活するには何が必要か。当たり前ではあるが、航空会社は一般企業と同じ土俵の上に立って「働きやすい職場」であることをアピールしなければならない。

現在の就職戦線全体を見渡すと、トップレベルの女子学生の1番人気は、意外に思うかもしれないが、実は「大企業の一般職」だ。その理由は「転勤がないから」。とびきり高収入の仕事が見当たらなくなった分、給料の高さよりも働きやすさを重視する者が増えている。航空業界もこの動きと無縁ではいられないはずだ。

ANAは14年から、JALは16年から契約社員で採用したCAを正社員の雇用に切り替えた。正社員化には人材確保の狙いもあるが、一方で労働者に安心感を与えるのも事実だ。またCAは宿泊の機会が多く、出産・育児が難しいというイメージがある中、JALの場合、妊娠がわかればすぐ産休に入れるし、出産前まで地上勤務に配置転換も可能だ。産後3年間育休も取れ、16年からは不妊治療休職制度も導入している。

今後はそうした労働環境がごく当たり前のことになり、「インフラ企業の勤務だから」「華やかな仕事だから」ではなく、「働きやすそうだから」という理由で、CAという職業が選ばれる必要があるだろう。

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谷出 正直(たにで・まさなお)
採用アナリスト
1979年、奈良県生まれ。エン・ジャパンで、新卒採用支援事業に約11年間携わる。2016年に独立し、新卒採用のコンサルティング、採用アナリストとして活動。採用・就職活動に関する情報を発信する。

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(採用アナリスト 谷出 正直 構成=畠山理仁 写真=時事)