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出世したら嬉しいけど、ストレスで早死にするのか、それとも――。役職や仕事の慣習があなたの体をむしばんでいるかもしれない。最新の研究結果を紹介する。

■ビジネスマンの健康を20年以上診た結論

「課長で定年する人」と「役員に昇進する人」。長生きできるのはどちらでしょうか?

役員といえば仕事のストレスが多そうだから、健康を害しやすく寿命も短いのではと思う方が多いのではないでしょうか。ところが実際は課長で定年する人のほうがメタボ気味で、不健康になる危険性が高いのです。

社会的地位や職業が寿命と関連する要因は大きく分けて2つあります。ひとつは、「ストレス」です。

ストレスの重さは「仕事の裁量権」の大きさによって変わります。

私は大手の外資系企業や日本企業の産業医・専門コンサルタントとして20年以上にわたり、ビジネスマンの健康状態を診てきました。ビジネスマンは出世するほど自分の仕事をコントロールできるようになります。仕事の裁量が増え、ストレスが減る傾向が見られます。メタボになりにくいし、心の病にもかかりにくい。これは海外の研究機関でも実証されています。もちろん役員になったとたん権力闘争に明け暮れて疲れてしまう人もいますが、総じてビジネスマンは出世したほうが健康であるといっていいでしょう。役員に出世して経済的に豊かになればプライベートでも自由度が上がり、さらにストレスは減るでしょう。

逆に、仕事の裁量が少なく自由が利かない人にはストレスが強くかかり、メタボなど生活習慣病になりやすい。怖いのは生活習慣病のツケが20年後、25年後にあらわれることです。40代で医者から「糖尿病です」と言われても、最初は自覚症状がありません。放置したままだと60歳、65歳の頃には目が見えなくなったり、腎不全になって透析を受けなければならなくなったりと、一気に健康にダメージが出るのです。

■日系企業と外資系、ストレスが多いのは

日系企業と外資系企業だと、外資系のほうが成果を出さないとクビになるので相当ストレスがかかっているだろうと思われる人も多いでしょう。確かに環境に適応しきれずにうつになる人もいます。ですが、外資系は結果が求められる半面、いろいろな裁量が大きいので割と元気に仕事をしている人が多いのも特徴です。とりわけ夏休みに2、3週間と長く仕事を離れ、伸び伸びと過ごせる場合はストレス軽減につながります。一見、安定はしているけれど仕事の裁量が少ない日本企業のほうが危ないといえるでしょう。

仕事の裁量権の大小は職種によっても変わってきます。

営業は昔ほどではなくてもほかの部署より仕事上の接待や付き合いが多く、飲む機会が多いのは変わりません。その結果、メタボ傾向になりやすい。クライアントから電話が入ればいつでも対応しなければならない場合には、自由度も少ないためストレスが増え、健康を損なう危険性があるのです。

接客業も同様にお客に合わせる仕事で、自分で裁量が持ちにくいためストレスがかかりやすく、精神的に疲労します。

ストレスの重さに影響を与えるもうひとつの要因が「努力と報酬のバランス」です。

報酬はお金だけでなく、やりがいや敬意を払ってもらえるかどうかも重要です。そのバランスが崩れるとストレスが増大します。

公務員は敬意を払ってもらいにくい職種のひとつです。もしも、同僚同士「おはよう」「おつかれさま」といった相手を大事にしたり、ねぎらったりという場面が少ない職場なら、住民サービスでいくら頑張っても感謝されにくく、最近では文句を言われることも多いのでストレスがかかりやすい。そのうえ、新しい法律がどんどんできて仕事が増える一方で職員はいわば消極的なリストラで減らされているので、昔の気楽なイメージはなくなりました。

国内の航空会社のキャビンアテンダント(CA)もお客にいつも笑顔でサービスしても、相手から「ありがとう」の感謝の言葉や気持ちがないと、ストレスがたまりやすいでしょう。

■なぜ医者は寿命が短くなりやすいのか

ストレスのほかに、寿命に影響を与えるもうひとつの要因は「身体的負担」です。

IT企業にはちょっと太めの人が多く、不健康な兆候が見られます。たとえばSEは1日中座ったままパソコンのキーを打っていて明らかに運動不足。キーを打つだけでなく、不得意なプロジェクト管理を任されてメンタル的にも追い込まれるケースが増えています。メタボの場合にはメンタル不調や、がんなどの病気を誘発しやすく、寿命が縮む可能性があるので要注意です。

パイロットやCAで心配なのが気圧の変動と時差の問題です。どちらも疲労が体に蓄積されやすい。CAは飛行機の中でずっと立ちっぱなしですから腰を悪くする人が多いのも気になるところです。

医者も寿命が短くなりやすい職業です。仕事時間が不規則で長時間労働の傾向があって睡眠時間が短いので、メタボになりやすいし老化も進みやすい。同様に介護職員も過剰労働気味で寿命を縮めるリスクがあります。とくに夜勤がある人で仮眠が足りない人は危ない。夜勤でも2時間程度はしっかり仮眠をとることで健康リスクが減ります。

医療関係者は概して過剰労働で健康を害するのですが、一般の人も働きすぎは体によくありません。最近増えているのが、自宅で親の介護のために夜しっかり眠れないまま、フルタイム勤務で健康を害するパターン。睡眠時間が短くなると血圧が上がり、心筋梗塞や脳梗塞、うつ病の危険性も増えます。

どんな社会的地位にあっても、職業に就いていても、血圧とコレステロールが高く、肥満気味の人は要注意。太い血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞を起こします。命は取り留めても半身不随になる、言葉が話せなくなるといった障害に悩む人もいます。いきいきと働くためには生活習慣を整え、早期からのケアが必要です。

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亀田高志
医師
健康企業代表。1991年産業医科大学卒業。日本IBMなど大手外資系企業、日本企業での産業医を11年間務める。2006年に産業医科大学が設立したベンチャー企業の創業社長に就任。16年に退任、現職。近著に『健康診断という「病」』。
 

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(医師 亀田 高志 構成=大下明文 写真=iStock.com)