自分の名前で仕事をしている2人が「自分を仕事にする生き方」について語ります

肩書ではなく、自分の名前で仕事をする人は何を積み重ねてきたのか?
『「自分」を仕事にする生き方』を上梓した、ブロガーで作家のはあちゅうさんは、まさに「はあちゅう」という名前での発信がそのまま仕事になっています。
そのはあちゅうさんが、「SNSを上手に活用して、自分の名前で仕事をしている女性の元祖」だという、モデルの田中里奈さん。ファッションブランドをディレクションしたり、企業やブランドとコラボ商品の開発をしたり、ライフスタイル、ファッション関連本、旅本を出版したり、手がける商品はヒットを飛ばし続けます。
そんな2人がこれまでの「自分を仕事にする生き方」を振り返りながら、実践する方法を語ります。

新しい何かが入ってくるのは、手放したとき

はあちゅう:『「自分」を仕事にする生き方』に、自分の名前で仕事をしていると、肩書がわかりづらくなる、と書きました(第3章参照)。たとえば、リリー・フランキーさんや星野源さんみたいに、活動の範囲が幅広くて、各分野で結果を出していると、見る人によって肩書が違う人、肩書がわからない人になる、って。里奈さんもそういう人のひとりだから、今日はいちファンとしてもいろいろ聞きたくて、質問をまとめてきました(笑)。今、里奈さんのメインの仕事、収入源は?

里奈:プロデュース業でしょうか。人に伝わりやすいように、肩書はモデルにしていますが、モデル業以外の収入が圧倒的に多いです。20代のころはモデル契約しているブランドがあって、モデル業で固定収入がありましたけど、今はそれもなくて収入の内訳は月によってバラバラ。でも、月収は毎月同じくらいをキープしています。

はあちゅう:大学進学を機に上京して、原宿に遊びに行ったらスナップを撮られたんですよね。そのときの自分ができる経験を増やしたり、経験値を高めたりするために、読者モデルの道に進んだって話は聞いたことがあります。そのあと、モデルを「仕事」にしようと思い立ったきっかけは?

里奈:私、小学生のころから学校の先生になるのが夢で、教育大学に進学して、勉強もバイトもボランティアもモデルも、すべてに100%の力を注いで4年生まで過ごしていました。でも、教員採用試験の1週間前、実習先の教員と話しているときに、ふと今まで感じたことのなかった違和感を持って。

はあちゅう:それはどうしてですか?

里奈:自分がそれまでに培ってきた価値観が、気がついたら教育現場の価値観とずれていたことに気がついて。子どもと向き合う仕事だからこそ100%で向き合いたいけど、それができないなら自分には先生をやる資格がないと思いました。

中途半端に就活もやってみたけど、自分の時間を費やしたいと思うものはありませんでした。ただ、教員にならないことを決めたら、本の出版やブランドのコラボがどんどん決まったり、モデルの仕事が急にうまくいったりするようになって。

先生をやらなかった自分を許せるようになったのはそこから何年かかかったけど、何かを手放したら新しい何かが入ってくるんだな、って気づきましたし、今の仕事に腰を据えるきっかけになる出来事だったと思います。

仕事も出会いも、今の自分に見合ったものがやってくる

はあちゅう:6年弱会社に勤めたあとフリーになる直前に、里奈さんから「心が決まれば、それに見合ったものが新たに入ってくる」って話を聞いて、勇気をもらったのを思い出しました。当時、独立して固定収入は入ってくるか、数年後もうまくいっているのか、とか不安に苛まれていて。


はあちゅう/ブロガー・作家。1986年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。在学中に友人と企画した期間限定ブログが1日47万PVを記録し、ブログ本を出版。卒業旅行は企業からスポンサーを募り、タダで世界一周を敢行した。卒業後は、電通のコピーライター、トレンダーズを経てフリーに。「ネット時代の新たな作家」をスローガンに、ネットと紙を中心に媒体を横断した発信を続ける。2017年には初の小説集『通りすがりのあなた』を出版。月額課金制個人マガジン「月刊はあちゅう」が好評。ツイッター・インスタグラム:@ha_chu

里奈:私は「はあちゅうさん、どうして迷ってるんだろう? わざわざ不安を探しにいってない? 悩むのがもったいないな」って感じていました。

はあちゅう:独立すると収入面だけじゃなくて、自分の成長をどうすれば正しく測れるのか、っていう不安もありました。里奈さんみたいに、ずっと自分ひとりで、自分の名前で仕事をし続けていると、上司や先輩がいる会社と違って、認めてくれる人がいないと思います。自分の成長を実感するのは、どういうときですか?

里奈:周りから「コラボ商品、すごく売れてます」と言われても、自分のなかでは「もっとできたはずなのに」みたいに、物足りなさを感じることが多いから、難しい質問かも(笑)。でも最近は、うれしくなる仕事が入ってきたり、心躍る人に出会えたりしたとき、「ちょっと自分のレベル、上がったかも。成長したかも」って思えるようになったかなと。仕事も出会いも、そのときの自分に見合ったものしか、入ってこないものですから。

はあちゅう:私もフリーになってしばらくして、その感覚がわかるようになりました。昔、自分がファンだった人とお仕事ができたり、ごはんに行ったりできるのは、成長の証のひとつでもあるし、自分が仕事をがんばってきたご褒美のようにも思えて。と同時に、つねにそういう心が喜ぶ仕事が入ってくる自分でいたいから、努力をし続けよう、って気合いも入ります。

自分にしか届けられない情報をわかりやすく発信する

里奈:私からも聞いていいですか? 最近はあちゅうさん、SHOWROOM(アカウントがあれば誰でもネット上で生配信ができる仮想ライブ空間)してますよね。

はあちゅう:読者と直接つながれるし、リアルタイムで会話もできるから、SHOWROOMっていいなと思いました。


田中 里奈(たなか りな)/モデル。1987年広島県生まれ。東京学芸大学在学中から読者モデルとして活躍。青文字系ファッション誌を中心に活躍中のモデル。コーディネートセンス、ヘアスタイルは原宿系のトレンドに敏感な若者たちからカリスマ的な人気を誇る。近年は雑誌のモデルの枠を飛び越えファッションイベントや、企業ブランドのデザインに参加するなど、さまざまなステージで活躍している

里奈:はあちゅうさんは新しいサービスを前にして、ああだこうだと考える前にさっとチャレンジしていて、やりながら考えを重ねてより良くしていく姿勢がすごいな、って思います。

はあちゅう:18歳のときに始めたブログもそうかも。当時、ブログなんてよく知らないから怖い、と思って始めなかったら、今の私はいなかった。何が自分の未来につながるかはわからないから、新しいものにかろやかに飛びついて、実際にやってみるのは大事な姿勢だと思う。里奈さんもほぼ同時期にブログを始めて、ブログでの発信を通じて、仕事を獲得していきましたよね。

里奈:はい、読者モデルを始めたあと、ブログを開設したから19歳のころでしょうか。ブログを始めて世界が変わったというか……自分の言葉で自分の内面を伝える場を手に入れたことで、私の言葉や文章、中身が好きだと言ってくれる人が増えましたし、仕事の幅も広がっていきました。その数年後、SNSが出てきたおかげもあって、今自分の名前で仕事ができているのかな、とも思います。

はあちゅう:私もブログやSNSでの「発信」が、自分を仕事にする方法につながっていくのかな、って考えています。里奈さんがブログやSNSでの発信で心掛けていることって何?

里奈:ひとつは、わかりやすくすること。私の投稿を全部、隅から隅まで読んでくれる、神様みたいな人はほとんどいないですよね(笑)。

はあちゅう:いませんね(笑)。

里奈:基本的には脳みそにさっと通すように見る人が多いと思います。だから、たとえばブログで続きものの記事を書くときは、1記事目からじゃなく、2記事目や3記事目から読んでくれる人も「?」ってならないように意識しています。もちろんブログ以外のSNSも方針は同じ。


はあちゅう:里奈さんの投稿を見ていると、そういう気遣いや丁寧さ、温かみが伝わってきます。

里奈:そう見てもらえてるとうれしいです。もうひとつは、本当にいいものを届けること。ブログを始めたばかりのころは、自分が好きなものを自分の言葉で紹介するのが、ただただ楽しくてたまらなかった。それを続けるうちに、気づいたら商品を作る仕事をするようになってて、ふと自分の立ち位置を考えました。

私には企画・開発者の生の声を聞ける機会があるから、そこで聞いた声をみんなに伝える“橋渡し”的な役目ができるんじゃないか、って。生感を伝えるのが私だけにできることだ、って気づいて以来、一貫して「いいものはいい」と伝えてきたから、読者との間に信頼関係も生まれているな、とも思います。

(後編につづく)

(構成:池田園子、撮影:菊岡俊子)