疲れやすい、駅の階段を登っただけで息切れする、電車の中でクラッときて目の前真っ白……。貧血気味の女性、かなり多いと思います。そしてその多くは「鉄欠乏性貧血」と考えられます。鉄は人間に必要なミネラル分のひとつ。これが足りないと「鉄欠乏性貧血」を引き起こします。

貧血はなぜ女性に多いのか?

女性が貧血になりやすい最大の理由は月経です。日本人の女性の約半数が、鉄不足の状態にあるとも言われています。

みなさんは血液検査の検査票に「ヘモグロビン」という項目があるのをご存知でしょう。ヘモグロビンは血液内で酸素を運ぶ働きをしている成分です。ヘモグロビンの成分は鉄やタンパク質ですので、鉄が欠乏するとヘモグロビンが減ってしまいます。すると、酸素を体内に運ぶ運搬役が減ってしまうので体が酸素不足、つまり酸欠状態になってしまいます。そのため貧血気味になると疲れやすくなったり、立ちくらみがきたりするのです。さらに食欲がなくなる、頭の働きが鈍る、手足が冷たくなる、イライラするなどの症状も見られます。

厚生労働省の「特定健康診査」基準によると「11g/dl以下は受診したほうがいい」レベルです(1dlは100cc)。若い女性の場合、これより高い値であっても貧血気味の症状が出ることがあります。

食べると「鉄の味」がすることもある鉄剤

日常的に疲れがひどい、通勤電車に乗るのもツライなど、貧血が疑われる場合は、病院できちんと診察してもらいましょう。貧血の原因は鉄欠乏ばかりではありません。たとえば胃潰瘍や胃がんが潜んでいたら、胃からの出血が多く、貧血になります。女性の場合、子宮筋腫、子宮粘膜症、月経異常なども貧血の原因になります。このように貧血には大きな異常が隠れている場合もあるのです。

「鉄欠乏性貧血」と診断された場合は「鉄剤」が処方されます。文字通り、鉄分のお薬です。もちろん症状の度合いによりますが、一般的に処方されるのは、1日あたり50mg、100mgの鉄分を含む鉄剤です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015)」によると、18〜49歳の女性が食事から摂取する鉄分の推奨量は10.5mg(1日あたり)。上限量は40mg(1日あたり)です。鉄剤に含まれる鉄量がいかに多いかわかりますね。

鉄剤は副作用も出やすいお薬です。よくあるのは便が黒くなること。便秘しやすくもなります。また、吐き気、気持ちが悪くなる人もいます。食べると鉄の味がするという人もいれば、そのため食欲がなくなる、という人も少なくありません。

ヘモグロビンの量は増えるかもしれませんが、服用して不快な症状が出てしまうなら、体にとっていいことではありませんね。鉄剤に限らず、どんな薬にも効果と副作用があります。薬によってもたらされる「ベネフィット」と「リスク」を天秤にかけて、どちらを選ぶか、を考えてくださいね。副作用がつらい場合は、はやめに医者に説明しましょう。薬には相性があります。別の鉄剤に変えることで、副作用が軽減できるかもしれません。

鉄剤を飲むだけでは貧血体質は改善されない

症状の程度によりますが、3か月、半年、1年と、わりと長く服用することが多いお薬です。血液中のヘモグロビンはすぐに増えたり減ったりするものではありません。処方されたとおり服用すれば、血中のヘモグロビンは増えるでしょう。数週間〜数か月で立ちくらみが減った、息切れが減ったなど、自覚症状も改善するでしょう。でもそこで貧血が治ったとは言えません。鉄剤を飲んでいるから造血量が増えているだけで、貧血体質が改善されなければ、薬をやめたらまた貧血になってしまう可能性があります。

鉄はヘモグロビンの中だけでなく、肝臓や脾臓などに蓄えられています。これを貯蔵鉄と言います。貯蔵鉄が十分にあることが、貧血からの快復と言えるでしょう。そのためには、ふだんの食事から鉄分を十分に摂取することが大切になってきます。いくら効果があるといっても、鉄剤をずーっと飲むことはできません。上のような副作用も起こりえます。

次回は、鉄剤に頼らずに済む食生活についてお話ししましょう。

女性に多い貧血気味。鉄剤は飲む前に注意が必要。



■賢人のまとめ
日常的にめまいや疲労が激しい人は、「鉄」サプリメントなどでお茶を濁さず、きちんと診察を受けましょう。貧血の原因は鉄欠乏症ばかりではなく、他の病気が隠れている可能性もあるからです。鉄欠乏症貧血では「鉄剤」が処方されます。「鉄剤」を飲むことでヘモグロビンは増えますが、貧血体質の改善には、栄養バランスの取れた食事が大切です。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。