(写真提供=SPORTS KOREA)

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徐々にお祭りムードが高まる韓国

平昌五輪の開幕も、いよいよ迫ってきた。

1990年代末、韓国が冬季五輪の開催を目指していると聞いて、まさかと思った。

当時はスケートのシュートトラック以外でのメダルはなく、施設も、冬季スポーツに対する関心もゼロに等しかったからだ。

その後、フィギュアスケートのキム・ヨナの登場を経て、スケルトンなどメダル有望種目は増えたものの、冬季スポーツへの関心の低さは相変わらずだ。

それでも開幕が近づき、徐々にお祭りムードにはなっているようだ。

「思想を注入すれば卵で岩を割ることができる」

2月1日には、北朝鮮選手団が韓国に入った。

【画像】北朝鮮の美女軍団

フィギュアスケートのペアで出場するリョム・デオクの笑顔が話題になっているが、取材にはほとんど応じないのは、相変わらずだ。

釜山アジア大会(2002年)、大邱ユニバーシアード(2003年)、仁川アジア大会(2014年)で、北朝鮮の選手を中心に取材をして感じるのは、まず、まともなコメントを期待してはいけないこと。

ただ、ごく限られた言葉の中に、それなりの変化を感じさせる言葉が含まれていることがあるということだ。

金正日時代は、選手たちは「将軍様(金正日)」の教えとして、「胆力(度胸)」という言葉をやたらと使っていた。

金正恩体制になった後の仁川アジア大会では、重量挙げ・男子56キロ級で優勝したオム・ユンチョルが、「最高司令官、金正恩同志におかれましては、『卵で岩を割ることはできないが、思想を注入すれば割ることができる』という教えを下さいました」と語ったのが、一番インパクトがあった。

また女子体操の平均台で優勝したキム・ウンヒャンは表彰式の後、涙声でこう発言した。

「異国の地で共和国の旗が空高く掲揚されるのは、元帥様(金正恩)が望んでいたことです。元帥様に金メダルを捧げたい」

釜山アジア大会などで北朝鮮の選手は、韓国を「南の地」ということが多かったが、「異国の地」という言葉に、南北が疎遠になっていること再認識した。

再び融和ムードが演出される中で、今回はどのような発言をするのか。

もっとも、北朝鮮の選手が取材に応じるのは、基本的に勝った時だけ。さほど活躍が期待できない今回は、どれだけコメントを残すかが注目される。

美女軍団が語った「平壌に美人が多い理由」

コメントを残さないのは、美女軍団も同じ。

大邱ユニバーシアードでは、閉幕が近づいたころ、事前に申請した記者に限り、北朝鮮の応援団と韓国側関係者との懇親会が始まる前の15分だけ、美女軍団への取材が許された。

私もその中にいたが、韓国についてはどんな質問をしても、「同じ民族と思いました」「早く統一すればいいと感じました」としかいわない。

質問をした後に一瞬の間があり、回答マニュアルのうち、どのファイルが一番相応しいか、探しているようですらあった。日本やアメリカに関する質問には、私の方も向いていた首を180度反対方向に動かして、完全に無視された。

まともな話はできないけれども、まだ質問できる時間が残っていたので、近くに座っていた女性に「みなさん美人が多いですね」と声をかけると、隣の席の女性まで話に加わり、「平壌にはもっと美人が多いですよ」というので、「どうしてですか」と聞くと、「空気もいいし、住みやすいからですよ」と自慢げに答えていた。

話の内容はともかく、かろうじて会話が成り立ったのは、これだけだった。

はたして、今回はどうだろうか。

冬の装いで登場するのは、今回が初めてなので、ファッションも含めそれなりに注目されるだろう。金正恩時代になってから、どんな変化があるのかも気になるが、彼女たちの声は、どこまでメディアに登場するだろうか。

過去には五輪開催地で銃撃戦も…

こうした北朝鮮代表団を、大会が行われる平昌、江陵(カンヌン)の人たちはどのように思っているのだろうか。平昌、江陵から北朝鮮は近い。

私が江陵に初めて行ったのは、ソウルに留学していた1994年3月のことだ。

後に『秋の童話』のロケ地として知られることになる束草(ソクチョ)から江陵に入ったが、バスが市街地に入る前に、軍人が乗り込んで、不審者がいないか、チェックしていた。かつては、北朝鮮の工作員が江陵の海岸から上陸し、銃撃戦になったこともあった。

戦争になれば、真っ先に戦場になる地域だけに、平和、平穏であることへの思いは強い。ただ近いだけに、北朝鮮への不信感が強いのも確かだ。

今回、北朝鮮は選手や応援団だけでなく、芸術団やテコンドー演技団など、韓国の想定を超えた代表団を送り込んできた。

私も最初は驚いたが、北朝鮮にすれば、選手団だけ送るよりも、多様な形態の代表団を構成した方が、より韓国側を揺さぶり、自分たちのペースに持っていきやすい。

韓国では、保守団体を中心に反北朝鮮世論は高まっている。北朝鮮の国旗を燃やすなどのパフォーマンスをする団体もある。

こうした動きに対して、北朝鮮は選手団の帰国となると、それなりの覚悟が必要だが、応援団、芸術団ならば活動のボイコットや帰国を示唆して、韓国側を揺さぶることも可能と思っているのではないか。

そのとき、韓国側はどこまで毅然とした対応ができるだろうか。

北朝鮮に振り回され、オリンピックそのものに影響が出れば、南北融和に否定的な世論を、今まで以上に世界に拡散させる可能性がある。

これは、「これでは南北大運動会ではないか」とう批判が出ていた、釜山アジア大会と大邱ユニバーシアードの教訓でもある。

加えて、オリンピックは、アジア大会やユニバーシアードとは、注目度がまったく異なることも、留意しておく必要がある。

(文=大島 裕史)

初出:ほぼ週刊 大島裕史のスポーツ&コリアウォチング