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自動車や電機など完成品を販売しているメーカーは軒並み最高益を更新している。だが完成品の部品をつくっている中小のサプライヤーは苦しい状況が続いている。日本のサプライヤーは、原価低減を進めるほど販売価格が下がるという状況にある。どこに問題があるのか。同志社大学大学院の加登豊教授が分析する――。

■原価低減活動の3つの結末

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今回の「一穴」=原価低減は利益獲得に貢献すると考えている

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懸命に原価低減に取り組んでいる。原価も確実に下がっている。それなのに、利益向上(税引き前利益)には結びついていない。これが、日本企業の現状である。でも、この問題を解決しようする動きは少なく、目先の原価低減活動に終始している。現状を「仕方ない」ですませてはいけない。事態は相当に複雑で深刻であり、問題の解決は一企業だけでは達成できない。産業界あげての取り組みが必須である。

原価低減活動に取り組んだ結果は、以下のいずれかになる。

・原価が下がり、会社全体の収益性が改善された
・原価は下がったが、会社全体の収益性はそれほど改善されない、あるいは、悪化している
・原価は下がらなかった

原価が下がり、会社全体の収益性が改善されるなら特に大きな問題はない。原価低減活動が功を奏しているからである。しかし、大部分の企業では原価低減に相当程度成功しているにもかかわらず、会社全体の収益性は向上せず、場合によっては、収益性が悪化している。また、まっとうな方法で原価低減活動に取り組んでいるにもかかわらず、極限までの原価低減が実現しているため、それ以上の削減の余地のない企業もある。

これらのうちで、今回は、原価は下がったが、会社全体の収益性はそれほど改善されない、あるいは、悪化している理由を考えて見たい。

■原価と費用と損失は相互に密接に関連

さて、理由を考える前に理解しておかないといけないことがある。それは、原価と費用と損失の違いと関係である。原価が下がっても、原価低減活動が直接・間接に費用や損失を増加させるなら、企業の収益性は改善されない。つまり、原価低減だけではなく、費用や損失も含めたトータル・キャッシュアウトフローの管理が必要なのである。

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原価=製品やサービスを生み出すために必要となる金額。材料費や加工費などから構成され、原価計算の対象となる。原価の管理は、製造業であれば、主に工場で行われる。
費用=生み出された製品やサービスの販売促進などに使われる販売費や一般管理費(給与、運送費、など)を意味し、主として、本社で予算管理によって管理される。支払利息などの営業費用を含む。
損失=収益獲得に貢献しないキャッシュアウトフロー。賠償金支払額、固定資産売却損、リコール費用などを含む。損失の多くは、経営上の意思決定の(結果的な)失敗によって発生するので、損失を発生させる可能性のある部署で管理する必要がある。タカタのエアバッグのような問題は、発生してからでは遅すぎる。

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ここが大切なのであるが、原価と費用と損失は相互に密接に関連しているという事実である。原価低減に成功しても、それが費用を増大させることがある。例えば、原価低減の結果、消費者が望む機能が製品から剥ぎ取られ、それによって売り上げが停滞した時、なんとか、その製品を売りさばくために、キャンペーンを実施し広告宣伝費がかさむといった場合である。

また、原価低減の結果、販売後に品質不良が明らかになり、原価低減額を大幅に上回る多額の損失(リコールや損害賠償の費用など)が発生することもある。つまり、原価低減に成功しても、予想外の費用や損失が生じれば、企業全体としての収益性は悪化するのである。このような事態を招かないように、製造現場では細心の注意を払って原価低減活動に取り組んでいる。それにもかかわらず、原価低減に成功した製品が売れるかどうかはわからない。また、予想外の損失の発生は製造現場だけではコントロールできないのである。

不良の原因の多くは、企画・開発・設計段階で発生している。原価と費用と損失の管理は、組織内の異なる部署が担当していることも、この問題をさらに深刻なものとしている。

■販売価格の引き下げが原価低減努力を相殺

さて、原価低減活動が、自社の収益性改善につながるなら、担当部門のモチベーションは高まるだろう。ポルシェやダイソンやキーエンスのような企業では、原価低減に成功しても販売価格は下がらないから、原価低減分がそのまま利益貢献につながるのである。つまり

売上総利益=売上−売上原価(販売された製品の製造にかかった金額)

となる。原価を下げれば、売上総利益は増加するはずである。

しかし、現実には、製造原価が下がると、製品1つあたりの販売価格が低下する。この場合、製造原価の低減に成功しても、工場の業績評価指標として使われる売上総利益が、原価低減分向上するという保証はまったくないのである。売上は工場ではコントロールできないのである。原価低減効果が得られるという前提で、販売価格が引き下げられていくという状況では、原価低減活動に従事している人は達成感を得ることはできないのである。

事実、「やらされ感満載」の原価低減が大部分を占めている。具体的には、

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・取引先から定期的な原価低減要請がなされる
・上記のような商慣行の影響で、原価低減が実現しないと取引継続は難しい、あるいは、取引が失われるかもしれないという思い込みがある
・四六時中原価低減活動に忙殺され、原価低減活動がマンネリ化している、だから、やる気が起こらない
・原価低減のためのシステマティックな取り組みができないため、小手先の原価低減活動に終始している
・原価低減を実現するための投資はほとんど認められない
・要求される仕様(高品質・多機能など)を取引先から要請されているが、それが販売価格に反映されることは稀であり、コスト増にならない高品質・多機能化に取り組まなければならない
・明らかに過剰品質になっている部分について、それを適正品質レベルに引き下げるという後向きのアプローチを通じて、原価低減を行わざるを得ない
・取扱品種数が細胞分裂のように増加し、それが原価上昇につながるが、それでも原価低減に取り組まなくてはならない

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このリストから、本来なら、原価低減活動は創造的活動でなければならないが、そのような理想像から遠く離れたところに現実があることがわかるだろう。

■現状打開のためのいくつかの処方箋

このような現状から抜け出すための処方箋のいくつかを示しておく。

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▼原価と費用と損失の関係を分析し、全社のキャッシュアウトフローを総合管理する。これによって、原価低減活動が、費用や損失の増大に結びついているかどうかを確認することができる。具体的には、粗利益(貢献利益)や売上総利益レベルでの事業・製品の収益貢献度を測定する計算と決別し、事業・製品別に把握できる販売費・一般管理費を考慮に入れて、営業利益レベルで事業・製品の収益貢献度を測定する。これを実施することで、原価低減努力が販売費・一般管理費等の費用の増加につながっていないかどうかが評価できるようになる。

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計算ひな形は、表のようになるだろう。

前期と今期を比べると売上高は同じ。一方でYYY<PPPとなっているのにZZZ>RRRとなっていれば、原価低減の効果はあったが、販売の段階で何らかのコストの増加があり、営業利益が減ったことがわかる。

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▼現場での小集団活動を通じて得られる成果(例えば、創意工夫により5人で担当していた工程を2人で担当できるようになったため、人件費が節約できる)の大部分は、企業収益には貢献しない。なぜなら、この工程から人が3名減っても、この3名は当面解雇されないからである。「見かけ上のコスト低減」のために知恵と時間を使うことに大きな意義は見いだせないだけでなく、自分たちのアイデアや提案によって、将来、同僚や自分自身の職が奪われることになるかもしれないのだ。小集団活動を決して否定しないが、省人化につながるような提案を「封じ手」にするくらいの配慮が、企業には要請される。
▼現状のビジネスシステムでは部品メーカーなどサプライヤー努力による原価低減分は、ほぼメーカーに帰属しており、サプライヤーの原価低減努力は報われない。「原価企画」と呼ばれる製品企画・開発・設計段階からの原価低減活動がある。原価企画に関しては、20年以上前に書かれた本(加登豊『原価企画:戦略的コストマネジメント』日本経済新聞社、1993年)で、「サプライヤーの疲弊」が必然的に生じることが述べられている。

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原価企画を支えている複社発注方式、メーカーの製品開発初期段階からサプライヤーの優秀なエンジニアを参画させるゲストエンジニア制度、メーカーからサプライヤーへの定期的原価低減要請、ランクオーダー制度(サプライヤーの格付け制度)、協力会の運営方法、工場訪問を通じてのサプライヤーの指導、サプライヤーの原価低減能力を把握することを目的とする原価見積書、特別採用などを抜本から見直す必要がある。ここで注意すべきことは、上記の仕組みは、サプライヤーの競争力を強化する方策として、かつては大きな成果をあげてきた点である。

しかし、現在では、そのいずれもが、サプライヤーに原価低減を促す仕組みに変容しているのである。一挙に、ビジネスシステムの変革を行うことはできないだろう。メーカーは、仕入価格の引き下げや原価低減要請額を現在よりも少なくし、サプライヤーに自助努力で達成した原価低減の成果を帰属させ、共存共栄が実現できる修正が必要である。

■自社努力だけでは問題は解決できない

自社努力だけでは、問題は解決できない。私たち消費者には、安価でたくさんの選択肢の中から商品を選択するという消費行動が染み付いている。この見直しも必要である。さらに、取引先を含めた産業全体の取引の在り方を抜本的に見直す必要である。

それが実現しなければ、メーカーもサプライヤーも疲弊し、様々な活動の努力をしても原価低減分は費用や損失の発生で帳消しになり、収益性は一向に橋上しない。わが国製造業の競争力はメーカーとサプライヤーの協業によって支えられているが、サプライヤーの犠牲のもとにメーカーが成り立つという構造のもとでは、協業体制の維持は極めて困難である。とりわけ、日本経済全体への影響力の強い自動車産業では、メーカーとサプライヤーの間に存在するビジネスシステムの総点検をし、共存共栄が実現できる新たなシステムの構築が急務である。

原価低減成果が出ているのに、収益性が向上しないという状況は、極めて異常だということを改めて確認する必要があるだろう。

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加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授(神戸大学名誉教授、博士(経営学))1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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(同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=iStock.com)