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コンビニ弁当の工場、宅配便の仕分け、ホテルやビルの掃除……。いまこうした夜勤の肉体労働は“偽装留学生”なしには成り立たない。ビジネスを拡大したい日本語学校と人手不足の企業が、ベトナムなどから借金漬けで来日する留学生を食い物にする。いくら働いても借金は減らず。学校から失踪する留学生も多い。ジャーナリストの出井康博氏が外国人労働の歪んだ実態を報告する――。

■どれも日本人が嫌がる夜勤の肉体労働ばかり

近年急増を続ける留学生の多くは、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”である。彼らは日本語学校への「留学」を名目に来日した後、授業そっちのけで出稼ぎに励む。留学生のアルバイトとして法律で認められる「週28時間以内」に違反してのことだ。

留学生が働く現場は、コンビニや飲食チェーンの店頭のように目立つ場所だけではない。むしろ私たちが普段気づかないところで、“偽装留学生”は多く働いている。コンビニやスーパーで売られる弁当などの製造工場、宅配便の仕分け、ホテルやビルの掃除……。どれも日本人が嫌がる夜勤の肉体労働ばかりだ。

こうした仕事では、もはや留学生の労働力なしでは成り立たない職場も多い。つまり、私たちが当たり前のように享受している生活は、“偽装留学生”という存在に支えられているわけだ。だが、彼らの境遇を知ってなお、現状を放置すべきだと言えるだろうか。

■「日本に行って働けば簡単に返せる」と来日するが……

約7万人を数えるベトナム出身者を始め、ネパール、ミャンマー、スリランカなどアジアの新興国から急増している留学生のほとんどには、共通の悩みがある。それは留学費用を借金して来日していることだ。その額は初年度の学費や寮費、留学斡旋会社への手数料などで150万〜200万円にも上る。

4カ国で最も経済発展しているベトナムでも、庶民の月収は日本円で1〜2万円程度だ。借金の額は年収の10倍にも上る。「日本に行って働けば簡単に返せる」と考え、大きな借金を抱えるのだ。

日本では未曾有の人手不足が起きている。日本語に不自由な外国人でも、選ばなければ仕事は見つかる。とはいえ、時給は最低賃金レベルだ。「週28時間以内」という就労制限を守って働けば、時給1000円の仕事で月収は11万円少々にしかならない。生活はしていけるが、母国からの仕送りなど望めない“偽装留学生”は、翌年分の学費も貯める必要がある。加えて借金の返済もあり、「出稼ぎ」という目的は果たせない。

そこで彼らは「週28時間以内」を超えて働く。アルバイトをかけ持ちすれば、法律は簡単に破れてしまうのだ。雇う企業側も、留学生が他にもアルバイトをしているかどうかなど問いはしない。

■日本語学校が「バブル状態」になる理由

“偽装留学生”の急増によって、日本語学校はバブル状態にある。その数は過去5年で200校以上も増え、全国で643校にも達している。日本語学校に在籍する外国人は、大学への留学生をも上回る。

東京都内の日本語学校には、定員2000人以上というマンモス校がいくつもある。“偽装留学生”を受け入れてきたおかげだ。授業など形ばかりという学校も少なくない。留学生は徹夜のアルバイトに明け暮れ、授業では眠りこける。それでも学費を払ってくれる限り、学校側は黙認する。留学生や授業の「質」よりも、営利のみを優先しているのだ。

日本語学校にとっては、留学生の失踪が最も怖い。事実、外国人の不法残留者は増え続けている。2017年初め時点で6万5270人を数え、3年連続で増加中だ。ベトナム人は前年から約35%も急増し、5137人に達した。留学生として入国後、不法残留になった外国人の数も約11%増の3807人に上る。学費の支払いを逃れ、不法就労に走っているのだ。

■パスポートや在留カードを学生から取り上げる学校も

留学生が失踪すれば、日本語学校には学費は入らない。また、新たに留学生を受け入れる際、法務省入国管理当局によるビザ審査が厳しくなる。そうなれば留学生の数が増やせず、ビジネスが打撃を受ける。事前に失踪を防ごうと、パスポートや在留カードを学生から取り上げているような学校も多い。

日本語学校に在籍できるのは2年までだ。その後、“偽装留学生”は専門学校や大学に進学して出稼ぎを続ける。少子化の影響で、半数近い大学が定員割れの状況にある。専門学校に至ってはさらにひどい。学力や日本語能力など問わず、学費さえ払えば入学できる学校はいくらでもある。“偽装留学生”の受け入れで生き残りを図ろうとしているのだ。一方、留学生は学費と引き換えに留学ビザを更新し、日本での出稼ぎを続ける資格を手にする。

こうした“偽装留学生”の実態について、新聞やテレビはほとんど報じない。理由は簡単だ。それは全国紙の配達現場で、留学生の違法就労が横行しているからである。

■新聞は「技能実習生」ばかりで「留学生」を無視

新聞配達は人手不足が最も深刻な職種の1つだ。とりわけ都市部では配達を担う人が足りず、留学生頼みの状況が生まれている。東京都内には、配達員全員がベトナム人留学生という販売所もあるほどだ。

全国紙には『産経新聞』を除いて朝刊と夕刊がある。朝夕刊を配達し、さらに広告の折り込みなど作業をこなせば、仕事は「週28時間以内」では終わらない。

販売所における留学生の違法就労は、新聞各社もわかっている。そんななか、新聞紙面で“偽装留学生”問題を取り上げれば、自らの配達現場にも非難が及びかねない。それを恐れ、知らんぷりを決め込んでいる。

一方、新聞各紙は外国人技能実習生については頻繁に報じる。未払い残業やパスポートの取り上げといった実習生が被る「人権侵害」に関し、声高に批判する報道は多い。しかし日本で今、最も虐げられた外国人労働者は実習生ではなく留学生だ。そのことは、10年以上にわたって外国人の働く現場を回ってきた筆者の取材経験から断言できる。

■借金を返すまでは奴隷のように働くしかない

実習生にも借金を背負い来日する者は少なくない。だが、“偽装留学生”の借金は実習生の比ではない。しかもアルバイトで稼いだ金は、「留学ビザ」と引き換えに学費として吸い上げられる。働く現場にしろ、実習生の受け入れすら認められていない夜勤の肉体労働が多い。その典型がコンビニ弁当の製造工場などである。

“偽装留学生”は「留学」を出稼ぎに利用する。多額の借金をするのも、彼ら自身による選択だ。しかし来日後は、日本語学校や人手不足の企業などに都合よく利用される。日本での生活が嫌になっても、借金を抱えて母国に帰れば家族ごと破産してしまう。少なくとも借金を返し終わるまでは、この国で奴隷のように働き続けるしかない。

コンビニは24時間オープンしていてほしい。弁当は少しでも安く買いたい。宅配便は時間通りに届けてほしい――。それは日本人の多くが望んでいることだろう。しかし、途上国の若者たちを食い物にしてまでも、私たちは「便利で安価な生活」を維持していくべきなのだろうか。

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出井康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。

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(ジャーナリスト 出井 康博 写真=iStock.com)