結婚に必要なのは、お金or愛?

それは、女にとって永遠のテーマである。

“最後は愛が勝つ”と信じたくてもそれは理想論だということに、女たちは徐々に気づいていくのだ。

しかし「お金より愛が勝つ」と言い切る、ある女がいた。

その名は、愛子。

金に目がない女だらけの東京において、愛子は信念を貫き、幸せな結婚生活を勝ちとれるのか?

広告代理店で働く29歳の愛子は、婚約者の知樹と幸せな毎日を過ごしていた。

一方、同時期に医者との結婚を決めた親友の明日香は、御曹司・翔太が愛子に好意を抱いていることに気がつき、愛子をそそのかす。

そして愛子は、ついに翔太からプロポーズをされたのだった。




「公平、あなた顔色が悪いわよ。体調は大丈夫かしら?」

公平の母親が、マンションに着くなり開口一番に尋ねた。

「熱はないかしら」と言いながら、まるで小さな子供にするかのように、息子のおでこに手をあてている。明日香はそれを見て、顔が引きつりそうになるのをぐっと堪えた。

今日は、公平の両親が和歌山からやってきている。公平が「少し疲れているんだ」と答えると、母親は心配そうに息子を見つめたあとで、明日香にちらりと一瞥をくれた。

さっきから明日香はニコニコと笑顔を浮かべ挨拶をしているというのに、それにはろくに返事もしないままだ。そして目を釣り上げ、こんな言葉を口にした。

「明日香さん。あなた、きちんと公平の体調管理はしているの?」

「はい…すみません…」

明日香はペコペコと頭を下げながら、心の中で悪態をつく。

-医者なんだから、体調管理なんてお手の物のはずじゃない…。なんで私のせいなのよ…。

「あなた、いずれ開業医の妻になるというのがどういうことかわかっているかしら。公平を全力で支えるのが、明日香さんの務めなんですよ」

公平の母は、はじめて挨拶に伺ったときからずっとこんな調子だ。

そもそも両親は、息子が連れてきた婚約者が医者の家系の女ではないことが心底面白くないようだ。それは明日香にとって、まるで自分の両親を馬鹿にされているかのようで不快だった。


開業医に嫁ぐ明日香の苦悩


“開業医の妻”とは?


リビングのチェアに腰掛けて、明日香が入れた『マリアージュ フレール』の紅茶に口をつける母親をちらりと盗み見る。

-それにしても、公平さんのお母さんって、私の知っている「THE開業医の妻」たちとは、ずいぶん様子が違うわ…。

彼女が身につけているのは、上質には違いないが、決して華やかとは言えない出で立ち。持っているカバンもどこのブランドのものだかわからないし、ジュエリーもあまりつけない。

聞けば、家族で海外旅行もろくにしない。両親の唯一の楽しみは、こうして時々息子に会いに東京に来ること。必要な不動産には金を惜しまないが、無駄な買い物はしない。ブランドものや宝飾品にもさほど興味がないようだ。

つまり、蓋を開けてみると、公平の両親の生活ぶりは、明日香が思い描いていたものとは180度違っていたのだ。夫が開業医だからと言って、豪華絢爛なセレブ生活を送れると思っていたのは、誤算だったのだろうか。

その週末は、公平の母親の説教や小言を愛想笑いで対応し、明日香はなんとか二日間を切り抜けた。

「それじゃ、公平。また来月来るわね」

帰り際はまるで明日香の存在なんて目にも入らないも同然の態度で、母親はそう言い残して去っていった。

-また、来るのか…。

あれほど憧れていた「開業医の妻」という座につけるというのに、明日香の心に芽生えた小さな不安が、どんどん大きくなり始めていた。






翌週末、明日香は、青山のフレンチ『アンドエクレ』に友人たちを呼び出した。今日、愛子はプランナーとの打ち合わせがあるために来られなかったが、仕方がない。

「…そんなわけで、皆にはブライズメイドをお願いしたいの!!よろしくお願いします!」

友人たちは、淡々とした様子で「了解」と口々に返事する。てっきり皆が盛り上がり、大喜びで引き受けてくれる反応を期待していただけに、明日香はすっかり拍子抜けした。

気を取り直して話題を変え、先週公平の両親が上京していたことを話し始める。明日香が一通りの愚痴をまくしたて終えると、友人たちは呆れ顔で言った。

「毎月両親が上京してくるのがしんどいっていうけど…そもそもあのマンションは、公平さんのご両親のものでしょ?寝泊まりするのは当然じゃない…」

「それに、月イチの上京が辛いって今から言っていたら、いずれ同居になるのにどうするの?毎日顔を合わせることになるのよ」

「で、でも…」

てっきり皆なら、この状況を理解してくれると思っていた。ただ少し慰めて欲しかっただけなのに。彼女たちの冷ややかな視線はまるで、無言でこう言っているようだ。

-身分不相応な結婚なんてするから、そうなるのよ-。

明日香は慌てて、顔をしかめる友人たちにニッコリ笑って言った。

「ごめんごめん、弱気になって愚痴っちゃった。ちょっとしたマリッジブルーってやつかな」

強気を装いながら、明日香は愛子のことを思い出していた。こんなとき愛子だったら-。彼女も少しは厳しいことを言うかもしれないけど、必ず同時に優しい言葉もかけてくれる。

帰り道に電話をしてみようか。そう思いかけて、踏みとどまる。

-こんな話をしたら、愛子にだってバカにされる。無理をして開業医の家になんか嫁ぐから、それ見たことかって思われる…。

今更、弱音をはくわけにはいかない。愛子には散々「愛よりお金が必要だ」と言い張ってきたのだから。


愛子と知樹の間に再び訪れる、危機。


愛子は、ナッシェンの新規案件獲得のために、企画書の作成に精を出していた。

まずは手はじめに、百貨店とのキャンペーンイベントの企画を提出することになっている。翔太からは、マンネリ化しつつある毎年恒例のイベントに、新しい風を吹かせてほしいという期待を託されていた。

この件には、上司も大喜びだ。

「ナッシェンが受注できたら、かなりでかいぞ。たしかあそこは来年創業50年だからな。大掛かりな周年イベントも期待できるんじゃないか?よし、バックアップは任せておけ」

こうしてプロジェクトチームが結成され、愛子は連日業務に追われることとなった。そのぶん、結婚式準備に関する作業に手がつけられず、週末にまとめて処理をする。

そういえば今週末は、まだ家事に手をつけられていない。週末の掃除や洗濯は、愛子の担当なのだ。愛子は思い切って、知樹に提案することにした。

「あのね、しばらく私、仕事がまた忙しくなりそうなの。週末は式の準備もあるし、しばらく家事代行サービスを頼むの、どうかな」




すると知樹はピタリと手を止めて、愛子の方を振り返る。

「え!?家事代行?急にどうしたの?もったいなくない?いいよいいよ、だったら俺がやるよ」

「ううん、定期サービスで頼めば意外と安いのよ。あ、私の都合で頼むわけだから、もちろん費用は私が負担するね。式が終わるまでの間の話よ。お金で解決できることはした方が賢いかなって気がついて」

知樹は、愛子の説得にしぶしぶ応じて、頷いた。そして笑いながら、こんなことを言ったのだった。

「お金で解決、か。なんか愛子、ちょっと明日香ちゃんみたい」

軽口を叩いただけのようだったが、愛子はその言葉にムッとしてしまった。いつもだったら笑って聞き流すような取るに足りない冗談も、今日の愛子にはなんだか気に障ったのだ。

そして思わず、小さな声で言い返してしまった。

「トモくんにはわからないのよ、必死で仕事をする私の気持ちが」

しまった、口が滑った。そう思ったときにはもう遅かった。気がつくと、知樹はこれまでに見たことのないような冷たい目で愛子を見つめている。

「愛子…俺は必死で働いてないとでも、言うわけ?」

そして「ちょっと出かけてくる」と一言だけ言い残して、家から出て行ってしまった。玄関のドアが閉まる音だけがむなしく響き渡る。

-ああ…こんなこと言うつもりじゃなかったのに。何やってるの、私…。

知樹だって一生懸命仕事をしてることくらい、愛子だって分かっている。しかし忙しい日々の中、もし知樹が自分以上に稼いでくれていたら…と心のどこかで考えてしまっているのだ。

頭を抱えていると、傍に置いていたスマホの画面が光るのが目に入った。LINEのメッセージが画面上に浮き上がる。

-愛子さん。来週、お会いしませんか?食事に行きましょう。

相手は、翔太だ。

-藤原さん…。

愛子はまるで何かに取り憑かれたかのようにスマホを握りしめ、返信を打ち始めるのだった。

▶Next:2月12日月曜更新予定
次週ついに最終回。愛子が選ぶのは、金なのか、愛なのか?!




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