バルセロナにあるザラの店舗(写真:Albert Gea/ロイター)

昨年9月にユニクロが、スペイン1号をバルセロナにオープンしてから4カ月。アパレル業界の世界王者、ZARA(ザラ)の本拠地に乗り込んだ形だが、スペインの消費者はユニクロをどのように受け止めているのだろうか。

アジアではすでに名の通っているユニクロだが、出店当初、ユニクロの名を知っている消費者はスペインにはほとんどいなかった。なので、スペイン人には「日本のアマンシオ・オルテガがやっているブランドがスペインにやってきた」とい言ったほうが伝わりやすかったほどだ。

ちなみに、アマンシオ・オルテガとはザラの創業者のことで、最近ではつねに『フォーブス』の世界の富豪ランキングでつねにトップにランクインしている。同氏がザラの1店舗目をスペイン北西部のガリシア州ア・コルーニャにオープンしたのは1975年。それから43年経った現在、ザラを擁するインディティクスは年間233億ユーロ(約3兆円)を売り上げる巨大アパレル企業に成長した。

最大15店出せれば上出来?

さて、「日本のザラ」的に紹介されてスペインへ進出したユニクロは、スペイン人にとっては新鮮に映ったようだ。ユニクロが当初から計画していたバルセロナでの2号店を開設したときに、ファッションブロガーのマリア・ホセ・カユエラは「それまでユニクロをまったく知らなかった」としたうえで、ユニクロの洋服の「シンプルさが人生をより豊かにしてくれるという発想だ」と、評価した。

一方、アパレル業界では以前から、アジアで急成長しているユニクロは注目されていた。それだけに、7年前にユニクロがスペインに進出するといううわさが流れてからは、スペインのアパレル業界の専門家の間でも、ユニクロの研究や分析はされていた。

しかし、専門家の結論はユニクロにとって厳しいものだった。彼らの見立てでは、スペインで10店舗〜15店舗を開設できれば上出来だ、というものだったのだ(ちなみに、インディティックスはスペインでザラも含めて約1700店舗を展開している)。その理由として、スペインでユニクロのコンセプトを受け入れる市場は、人口約315万人のマドリードと、同約160万人のバルセロナなど大都市しかないからだとしている。

追加するとすれば、周辺地域を含めると人口が120万となるバレンシア、観光都市のパルマ・デ・マジョルカあるいはマルベーリャだろうとも指摘している。筆者もこの意見には同感で、バスク地方の都市ビルバオをあえて加えたい。バスク地方は人口35万人と小規模だが、スペインの他都市に比べて失業率が低いため生活レベルが高いことがその理由だ。

欧州、と一言で言っても、それぞれの市場で消費者の動向や好みは異なる。が、スペインにかぎって言えば、この国でユニクロがザラに勝てないと思える理由がいくつかある。1つは、スペインの消費者は品質や機能性よりファッション性を重視する点にある。品質に関して言えば、「最低限保証されていればいい」という感覚だ。

ザラはスペイン人のこの感覚にマッチしている。たとえば、ザラでは洋服のデザインを起こしてから店頭に並ぶまでの期間はわずか30日だとされる。つまり、ストリートで流行っているもの、あるいは、ブランドのコレクションなどから流行りそうなものを推測して、それをいち早く店頭に並べられるわけだ。また、ザラには350人のデザイナーがおり、年間1万8000点もの新商品が投入されている。

スペインに吹く激安旋風

同じ商品が長期間店頭に並ぶことを避けるため、生産量を調整し、比較的安易に売り切れる数量に抑えて生産している。つまり、1カ月もすれば、商品内容がガラリと変わるため、消費者にとってはつねに新鮮味があるというわけだ。それだけに、何度も新しい商品が入っていないか消費者は足を運んでしまう。

一方、ユニクロの場合は、品質が良く、耐久性が高い。デザイン的にもベーシックなものが多いため、1カ月に何度も訪れる、ということはスペイン人の性格からすると考えにくい。実際、スペインのアパレル業界の専門家たちは、バルセロナにあるユニクロ1号店と、同じ通りのあるザラの店舗の年間訪問者数には2倍近く開きが生じるとみている。

価格についてもザラのほうが、競争力が高い。現在、スペインのアパレル業界で破竹の勢いで伸びているのは、アイルランドで誕生したPRIMARK(プライマーク)など、激安ショップである。同ブランドでは、40ユーロ(5400円)を超えるものはないとされており、ザラですら、これに対抗して激安ブランドを作ったほどだ。

欧州で急成長中のプライマークがスペインに進出したのは、2006年。2015年には、マドリードに1万2400屬猟饗膩織轡腑奪廚魍設している。現在、スペインでは44店舗を展開しており、その数は英国(185店舗)に次ぐ規模となっている。

一方、ザラの最大のライバルである、バルセロナで誕生したMANGO(マンゴ)は消費者間では、ザラより若干高いブランドと認識されているが、最近はマンゴも激安ブームにのっており、セールでは6割引になっている商品も。たとえばザラで、99.95ユーロ(約1万3490円)で売っている格子柄のコートが、マンゴでは99.99ユーロ(約1万3500円)とほぼ同じ価格になっている。

現在、スペインの失業率は約17%で、若者の失業率は直近で38%程度。5割を超えていた頃と比べるとだいぶ減ったとはいえ、若者の失業率の高さは深刻な社会問題となっている。こうした中、プライマークはザラやマンゴが得意とする30代だけでなく、若者から中年層まで幅広い層から支持を得ているわけだ。

こうした状況を考えると、スペイン人にとってユニクロの服は「若干高い」というカテゴリに入る。たとえば、ユニクロが得意とする「ウルトラ・ライトダウン」の類似商品を、ザラも販売しており、その価格はジャケットが39.95ユーロ(5390円)で、コートが49.95ユーロ(6740円)と、本家ユニクロ(ジャケットが69.90ユーロ=約9430円、コートが99.90ユーロ=約1万3490円)よりはるかに安い。

なぜバルセロナに出店してしまったのか

激安の流れでバーゲンの値引き率も大胆になっている状況を鑑みると、今後この差が開く可能性も考えられる。そうしたとき、ユニクロはこの仁義なき値下げ合戦に参戦するのかどうか。参考までに、スペイン人1人当たりが被服にかける費用は、2014年は年間平均508ユーロ(約6万9000円)程度。年収の12%程度とする別の調査もあるが、いずれにしても、激安ブームが収まる気配は今のところない。

ファッション誌の『グラムール』は、ユニクロが進出した当時、「ユニクロとザラはまったく反対であり、だからこそ消費者は魅了される」といった内容でユニクロを紹介。その違いとして、「流行に対しテクノロジー」「即効性に対し持久性」「フリルに対してシンプル」だと挙げ、ユニクロはスペインの消費者にとって「洗練されたファッションを提供する」と評している。

が、出店から4カ月経った現時点の状況を見ているかぎり、ユニクロの強みである品質や耐久性の高さ、シンプルなデザインはそこまでスペイン人に刺さっていないように見える。そのシンプルさや使いやすさから「ライフウエア」をうたい、生活に溶け込んだ洋服の在り方を提案しているユニクロだが、ひょっとしたらスペイン人がこうした感覚を本当に「洗練されている」と受け止めるにはもう少し時間がかかるのではないか。

最後に、ユニクロがマドリードではなく、バルセロナを1、2号店に選んだ点について個人的な見解を述べたい。筆者はこの戦略をミスジャッジだと考えているからだ。前述の通り、マドリードの人口はバルセロナの2倍に上る。観光客数という観点では、バルセロナの方が多いが、純粋な消費者の人口で考えるとマドリードのほうがはるかに多いわけである。

また、商魂魂がたかくましいとされるカタルーニャ人は、価格にも敏感であり、ユニクロの価格を「バリュー」と受け止めるかどうか微妙だ。加えて、バルセロナを擁するカタルーニャ地方は現在、独立問題で揺れており、その経済はいくぶんが低調気味で、流通企業の売り上げも落ちていると聞く。ユニクロは2020年に、マドリードに第1号店を出店するとしているが、スペインで本気で戦う気があるのであれば、もう少し早いタイミングで出店すべきだろう。