あなたは、知っているだろうか。

東京の勝ち組女である“港区妻”に、実は純然たる階級があることを。

その頂点に君臨するのは、生まれ育った東京で幸せに暮らす、生粋の「東京女」である。

一方でたった一人で上京し、港区妻の仲間入りを果たした女たちもいる。元CAで専業主婦の桜井あかりも、その一人。

東京女を相手にあかりが挑むのは、港区妻究極の戦い。それは、慶應幼稚舎受験であった。

CA仲間だった東京出身の玲奈と百合が実は着々とお受験も準備をしていると知り、地方出身の自分との格差を感じるあかり

信頼する友達・凛子から、慶應幼稚舎の魅力をきき、さらに話をきくために紹介された個人の幼児教室を訪れる。

そこで現れた美貌の教師、北条ミキに、幼稚舎受験を勧められるが―。




天現寺の歩道橋を渡ると、幼稚舎の子どもたちとたくさんすれ違う。

6歳にして“特権階級”に所属する証である、ランドセルに刻まれた慶應の校章。

最高に恵まれたこの子たちは、どのように選ばれたのだろう?そしてその可能性がもし、自分の子どもに1%でもあると分かったら…?

帰り道、ふわふわした足取りで帰りながら、あかりは北条ミキの言葉を思い出していた。



「正直言って、旬くんが幼稚舎受験の土俵に乗るのは難しいです」

両親ともに幼稚舎出身ではなく、コネもない。やはりそうか…と肩を落としていると、北条ミキはこう続けた。

「…しかしそれは、あくまで身上書からの判断です」

次に発せられる一言が、気になってしかたない。あかりは北条ミキをまっすぐ見つめ、ゴクリと喉を鳴らした。

「旬君は、化けるかもしれません。この世界に25年いる私から見て、彼は必要な要素を持っています。

目千両、俊敏、器用。そして……オーラがある子」

旬は他の子より目立つほうだとは思っていたが、しょせんは親の欲目だと思っていた。あかりの胸は一気に高鳴る。

そして、北条ミキはこう言い切った。

「慶應幼稚舎は、あなどれない学校なんです。お金とコネありきだと思われがちですが、本当に力のある子は決して見逃さない」

かすかに感じていた“可能性”という希望の光が、北条ミキの一言ひとことによって、徐々に輪郭を帯びていく。

「もう時間がありません。いちかばちかの覚悟があるならば、旬くんに賭けてみませんか?ご家族でも、よく話し合ってみてください」

北条ミキの言葉に、あかりは深くうなずいた。大学受験で慶應を受けたときも、航空会社を受けたときも、こんな気持だった。

―途中で挫折するかもしれない。…でもやらなかったら、きっと後悔する。

何も知らないからこそできる無謀な挑戦というものがあることを、あかりはこれまでの経験からよく分かっていたのだ。

今日帰ったらさっそく修司に相談してみようと、心に決めていた。


お受験と無縁の夫・修司は、その時どんな顔をする!?


桁違いの「下から慶應」グループ。サラリーマンに勝機はあるのか


「修司、ちょっと旬のことで話があるの」

あかりは、ベランダのデッキチェアでビールを飲みながらくつろぐ夫に、意を決して話しかけた。

芝浦アイランドの上層階は1億円を超えて買えなかったが、あかりたちの住む中層階でも、ベランダから美しいレインボーブリッジの夜景が見える。新潟の地主だった修司の父親が頭金を援助してくれたから、買えたようなものだ。




「ああ、昨日言ってた、新しい習い事の話?凛子さんに紹介してもらったんだよね、どうだった?」

大学時代の先輩である修司は、あかりの話をよく聞いてくれる。

エリートぞろいで体育会系の商社マンの中で、毎日必死でがんばっていることを知っているから、無駄に悩ませるようなことはしたくはない。今日北条から言われたことを、なるべく簡潔に、客観的に伝えた。

「お受験なんて、と思って今まで真面目に調べたこともなかったけど、旬に可能性あるって言われると、正直やってみたい気持ちが出てきて。

調べたら幼稚舎の授業料は初年度150万円くらいで、あとは寄付と塾債。一人っ子だから、なんとかなるんじゃないかって思うの」

受験本やウェブサイトで調べたことをメモして、修司に渡す。もちろん授業料が払えるなんてことは、幼稚舎に通う家庭なら当然で、それだけでは足りない。

そもそも受験準備に数百万は、常識らしい。CA時代に貯めておいた分と多少の貯金合わせて300万円は、必要とあらばお教室代にあてる覚悟を決めていた。

「うーん……。でもさ、俺たちのサークルにもいた幼稚舎上がりのみんなは、やっぱり桁が違っただろ? BMWで通学してたし、ブラックカードとか持ってたし。うちなんてお呼びじゃないよ」

日頃はなんでもうなずいてくれる修司も、さすがに唐突な提案に難色を示す。大学時代、内部生の派手な生活は散々目にしていた。

「もちろんそういう子もたくさんいるけど、最近はサラリーマンの子もいるって北条先生が言ってた。世間で言われてるほど、全員が全員御曹司じゃないって。

…それにね、旬には“可能性”があるって。もしも入れたら、旬の人生に私たちの知らないギフトがある気がするの。先入観を捨てて考えてみようよ」

かつての自分がそうだったように、お受験なんてものは東京の一部の人が頑張っているものだと修司は思っているようだ。

あかりは、自分たちももはやその東京の一部の人になりつつあり、目の前には無限の可能性があることに気づいてほしかった。挑戦する権利だって、きっとあるはずだ。

「ギフト、ねえ……。たしかに俺たちは田舎から苦労して大学受験したけど、旬はせっかく都心に住んでるしなあ。そういえば会社の先輩に、子供を幼稚舎にいれた人がいて、いい学校だってきいたことはあるけど」

あかりが唐突に受験を提案してきたことに戸惑っているようだったが、当初のあかり同様、お受験知識がないために賛成とも反対ともすぐには言いかねているようだった。

「あかりがそこまで言うなら、まずは始めてみたら。塾みたいな感じなんだろ。勉強の習慣もつくだろうし。CA同期の玲奈ちゃん、幼稚舎だったよね?ちょっときいてみたらどう?実情をさ」

ありがとう!と、修司の首に抱きつく。しかしほんとは、そんな気軽なもんじゃなさそうなんだけど…とあかりは胸のうちでつぶやいた。

―修司。まっててね、私とにかくやってみる。だめでもともとだから。せっかく港区に住んでいるんだから。


あかり、ついに同期の前で受験を宣言!しかし二人の反応は―


富士山、屋久島、ホエールウォッチ…体験させるのが当たり前!?


「旬くんも幼稚舎を受験するの?でも本当に準備してないんでしょう?もうすぐ年長になる、今からやるの?」

さっそく定例のブランチで玲奈と百合に受験の話をすると、ふたりは驚いた顔であかりを見た。

「うん…もちろん合格できるなんて思ってないけど、チャンスをみすみす逃すのも、もったいないかなって思って」

「まあ確かに、旬くん、活発だし、かっこいいから目立つもんね。でも今からとなると、あかり、死ぬほど大変だよ」

「やっぱりそうかな…?一応お教室は通い始めるんだけど」

声が小さくなるあかりに、百合はため息交じりだ。

「お教室なんて、みんなもう5年くらい通ってるよ。幼稚舎に特化した個人の先生のところはもう大抵満員だし。

幼稚舎の制作物、見たことある?オブジェみたいな立体工作、皆すごいスピードで作れるよ。あと…だれにご挨拶にいくの?」

百合の言葉に、しょんぼりと下を向いた。昨日までの意気込みも、ずっと頑張ってきた二人の努力からすれば、何にもならないことはわかっていた。

「まあまあ、百合。天才型であんまり準備しなくても受かる子も、たまにいるのよ。私の幼稚舎時代の同級生にもいたわ。

……学校にいいことをもたらすのなら、権力でもお金でも、才能でもいいの。何かに秀でていれば、あの学校は入れてくれる」

玲奈は、あかりがいままでに見たことがない顔で、不敵に笑った。生粋の東京女のプライドを刺激したことに気が付く。




「残念ながらうちの子は天才じゃないから、入れてあげるために一族総力戦よ。でも絵があまり得意じゃなくて、躍動感のある動物の絵と背景が描けるようにタンザニアにも連れていったんだけど」

「タ、タンザニア?そういえばサファリ、行ってたよね、あれってお受験のためだったの?」

急に饒舌になった玲奈に、あかりは思わず怯む。

「宇宙飛行士になりたいって言うからLAで展示が始まったエンデバーも見に行ったわ。試験のとき、先生方からお声がけがあるの。何を描いてるの?どういう思い出?って。そこで本物を家族と見て、とか言えないと困るでしょ」

「そ、そうなの?」

レベルの違いを感じてあかりはたじろいだ。玲奈曰く、大切なのは“子どもファースト”で、いろんな経験をさせているとアピールすることらしい。

「基本だけど…旬くん富士山登った?屋久島トレッキングした?網走で流氷は?沖縄でホエールウォッチは?」

横で当然というふうにうなずく百合。あかりは首を横にふるのが精一杯だ。

人一倍外遊びを重視し、1日数時間を旬と一緒に公園で過ごしてきた。動物園だって水族館だって、時間が許す限り一緒に行った。でもそれは受験のためではなかったし、そもそも玲奈や百合とはスケールが違う。

「幼稚舎に入ろうとするなら、そのくらいの努力と、さらにコネか権力が必要ね。あかりと旬くんに自信があるなら、受けてみたら?

…あ!もうこんな時間?幼稚園にお迎えいかないと」

玲奈と百合が、それぞれメルセデスとBMWのキーを、最新のネイルが施された美しい手で取り上げながら言う。そういえば、ふたりはいつも車で集合する。あかりはもちろん、電動自転車だ。

「お受験は、私たち女の人生の、総決算なのよ。生まれ持ったもの、手に入れたもの、育てたもの、すべてを評価されるの」

女の人生の、総決算。それならとことんまで、やってみる覚悟だった。

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お受験の世界に飛び込んだあかり。「生まれる前から戦闘開始」の女たちに衝撃!




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