「ファーマシーズ 銀座」ではヘルシーなドリンクが飲める(筆者撮影)

東京・銀座の一隅に、不思議な空間がある。高速道路の橋梁と、地面の間に挟まれた小さな店で、目指して行っても見落としてしまいそうだ。それなのになぜか、道に迷った人が頻繁に中を覗き込むという。

その店の名は「ファーマシーズ 銀座」。野菜と漢方食材を素材としたヘルシーなドリンクを、1杯ワンコインから1000円以内の価格で提供している。

漢方のイメージにどう応えて、どう裏切るか

一般的に、漢方のイメージというと“苦い、まずい、高い”。本来は、体質が弱い人や、慢性的な不調を抱えている、という人にこそ合うはずだが、なじみがない人にとっては、漢方薬局は敷居が高いものだ。そんな漢方に対するハードルを下げて、気軽に飲めるように工夫されている。

また漢方だけでなく、高付加価値の野菜や、西洋ハーブ・東洋ハーブ、薬用植物など、ジャンルにとらわれない原材料を用いていることも、健康や美容に関心を持つ消費者にとっては注目度が高い。

たとえば、「疲れを溜め込んでいるとき」には“リフレッシュ”というドリンクを勧められる。人参や、オレンジ、マンゴー、パイナップルといった抗酸化ビタミンが多いフルーツ、レモングラス、高麗人参を混ぜ合わせたもので、価格は600円だ。また、女性のためにはクコ、鶏血藤(けいけっとう)、サンザシといった、漢方の生薬を用いたその名も“ウーマン”(450円)と名付けられたドリンクがある。ほかにハーブティーや高麗人参のコーヒーなどもあり、商品は全部で16種類だ。


トマトやビーツ、サンザシが配合された「エナジー」500円(左)と、「ウーマン」450円(筆者撮影)

そのうちの「巡りをよくしたいとき」のための“エナジー”と、“ウーマン”を飲んでみた。確かに飲みやすく、おいしいとも言える。それでいて、「体に効きそう」と思わせるような、植物特有の青っぽさや苦みも残っている。

「飲みやすすぎると、今度はパンチがなくなってしまいます。お客様が抱いている漢方のイメージにどう応えて、どう裏切るかと。味わいのバランスにも気を遣うところです」(ファーマシーズプロジェクトリーダーの石郷岡有紀氏)

運営しているのは、2007年より農業開発や農業流通などの事業を行うベンチャー企業、銀座農園。農業界の革新を目指し、農業ビジネスへの新規参入などをサポートしている。代表的な事業が高糖度トマトの生産・販売支援。低コストで高糖度トマトを栽培できるシステムを企業に販売し、生産品の販売支援も行う。これらのトマトは、デパートなどでも販売されてきたそうだ。

また、2009年からの事業「銀座でコメづくり2009プロジェクト」や、生産者や自治体と消費者を結ぶ、自治体アンテナショップ、マルシェ(市場)の企画といった事業の中で、全国の生産者とつながりを形成してきた。

ファーマシーズ 銀座も、そうした事業の中から生まれてきたアイデアだったという。

「高麗人参を例にすると、長野、島根、会津若松など国内で生産されているにもかかわらず、あまり知られていません。いっぽう、世の中は健康ブーム。セルフメディケーションの必要性が叫ばれ、農業への関心も高まっています。この両者を結び付けたい、と考えました」(石郷岡氏)

ビジネス化にあたっては、日本薬科大学を設置する都築学園(福岡県福岡市)と業務提携。薬学および医学的な知識面や原料提供におけるサポートを得ている。

「銀座農園が自社や提携企業で生産している、高糖度トマトなどの高付加価値農産物に、日本薬科大学が持つ薬学、医学に関する専門知識・技術といったリソースを合わせ、『医農連携による新たな6次化商品』を開発するのが目的です。美容・化粧品といった高付加価値商品の原料として、農産物の可能性を探り、将来的には薬用植物の生産拡大を目指します」(石郷岡氏)

女性だけでなく男性にも「漢方」は響く

2017年の7月にプレオープンし、11月1日にグランドオープンを迎えた。反響は、席数10席程度の店内が毎日満員になる、というほどではないが、プレオープンの時期から、手応えは感じてきた。リピーターが多く、「風邪ぎみだから」「今週はハードだから」「リフレッシュしたい」などの理由で同店を訪れるという。

「意外だったのが、女性だけでなく男性にも“漢方”は響くのだということ。皆さん、病院に行くほどではないが何らかの不調を抱えていて、『どうにかしたい』と考えていることがわかりました」(石郷岡氏)

また銀座という土地柄、「健康への意識が高い」と感じているそうだ。周囲にヨガスタジオ、フィットネスジム、婦人科クリニック、自治体アンテナショップがあり、健康や食物への関心が高い人が訪れる。

「不思議なのですが、1日に何回も『東京駅に行くには』『パン屋さんに行きたいんだけど』などと道を聞かれます。通りすがりで当店を見かけて、リピーターになったお客様もいます」(石郷岡氏)

メニューは前述した16種類だが、大きく、ハーブティー、ハーバルドリンク、ショットドリンクの3つのカテゴリーに分かれる。ハーブティーはホットドリンクで、近郊のハーブ農園で収穫された生ハーブを使ったものもある。

ハーバルドリンクは生薬と野菜、ハーブ、フルーツなどを素材とし、飲みやすく仕上げてあるのが特徴。ショットドリンクは45ccと少量で、生薬が高濃度に配合されており、いちばん“漢方らしさ”を堪能できる。無添加なのでナチュラル志向の人にもお勧め。ちなみに、「高麗人参珈琲」は、コーヒーを所望する客が多いことから、メニューに加えたとのこと。すべてテイクアウト可能だ。

「お酒を飲む前に『ドランカー』、それから二日酔いのときに『リカバリー』というように、ショットドリンクを利用されるお客様も多いです。また、飲み会の前に当店で待ち合わせる、というお客様もいらっしゃいます」(石郷岡氏)

今後の課題は何か

白を基調に、ハーブを描いた壁のアートや、観葉植物で飾られた気持ちのよい空間なので、ここでヘルシーなドリンクを飲めば、二日酔いや疲れが癒されそうだ。


白を基調とした店内(筆者撮影)

課題は、採算性と、今後どうビジネスとして成り立たせていくかということだ。石郷岡氏によると、オープンに際しての注目度は高く、特に企業からも関心が多く集まっているという。

店舗を多数展開し、より多くの人が利用できるようになれば、一般の人のセルフメディケーションへの意識も高まりそうだ。健康や食に注目したビジネスはあちこちで興っているので、そうした企業や活動と手を結ぶのもよいかもしれない。