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今月のテーマ

#03 FORMULA E



自動車の電動化が叫ばれて久しいが、なかなかエコカー=スローなイメージが拭い去れない。そんな中、電気仕掛けのフォーミュラ・マシンで世界最速を競うチャンピオンシップ『フォーミュラE』が設立されて、大きな話題を読んでいる。今回は第4シーズン目の開幕戦が開催された香港へと飛び、市街地での熾烈なバトルを目の当たりにした。

BMW、メルセデスに加えフェラーリまでが参戦をほのめかし始めた!



フェラーリを率いるセルジオ・マルキオンネCEOが「フォーミュラE」への参戦をほのめかして、話題になったことは記憶に新しい。一体全体、なぜ、これほど「フォーミュラE」への注目が高まっているのか? その疑問の答えを探すべく、2017-2018シーズンの開幕戦となる香港まで飛んだ。

そもそも、「フォーミュラE」とは、一体、何なのか? 筆者がその構想を耳にしたのは、もう5年以上も前のことだ。当時はまだ、FIAによって国際的なレースとして運営されるためのルールを議論していた段階だった。その頃はまだ今ほど電動モビリティのニュースが紙面を賑わしていなかったし、日本ほどは、欧米勢の電動化は進んでいなかった。しかし、実際にフタを開けて見ると、意外なほど、欧州勢の参戦が多かった。

今シーズンをざっと見回してみても、「アウディスポーツ・アプト・シェフラー」「ルノー・e.ダムス」「パナソニック・ジャガー・レーシング」の3チームが、自動車メーカーのワークス体制で参戦している。加えて、リチャード・ブロンソン率いるヴァージン・グループの「DSヴァージン・レーシング」は、フランス車メーカーのシトロエンのDSブランドと手を組む。さらに、中国のEVメーカーである「ネクストEV」による「NIOフォーミュラEチーム」、インドの財閥による「マヒンドラ・レーシング」といった新興国の巨人たちも続々と参戦している。

マヒンドラには日本の半導体大手であるルネサスが技術提供をするなど、話題にも事欠かない。さらに、来シーズンにあたる2018-2019シーズンでは、BMW、メルセデス・ベンツが参戦すると宣言している。

それに加えて、冒頭でのフェラーリのCEOの発言があったのだから、話題にならないはずがない。果たして、エンジン車で覇を競う時代は終焉を迎えたのだろうか?

実際、旧来のレース・ファンにとっては、サーキットに響くエキゾーストノートやオイルの香りといったものがまったくない電動車でのレースを楽しめないと嘆く人も少なくない。筆者自身も、これまでテレビで「フォーミュラE」の放映を見ていても、いまいち、盛り上がりに欠けて見えただけに、ファンの心配ももっともだ。

F1やル・マンなどのドライバーも乗り込んできた



ところが、である。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、実際に目のあたりにすると、「フォーミュラE」ならではの魅力に気付かされた。

金曜の深夜に日本を出発すれば、早朝には香港に着いてしまう。朝粥をすすりながら、参戦するドライバーのリストを見ていると、知った名前が目立つ。

元々は、ネルソン・ピケ・ジュニアやニコラス・プロスト、ブルーノ・セナといった世界的に知られたF1ドライバーの子息や親類が参戦していることが話題のひとつだった。さらに今シーズンからは、F1参戦で表彰台を獲得した経験もある小林可夢偉選手や、ル・マン24時間耐久レースでの優勝経験もあるアンドレ・ロッテラー選手のような有名ドライバーが乗り込んできたことで、さらなる注目を得ている。

腹ごなしの運動を兼ねて、サーキットへは徒歩で向かう。……といっても、歩けるような町中にあるのだ。この週末のためだけにベイエリアに特設されたサーキットは、香港のど真ん中であるセントラルとアドミラルティを封鎖して設置されていた。

日本でいえば、日本橋〜丸の内といった金融街にあたるエリアで、555mのメインストレートと2カ所のヘアピンと複数のコーナーから成る1周1.86kmという短いコース設定だ。

観戦チケットは2380〜4780香港ドルと、決して安くはないものの、他のレースと比べると、市街地で開催されるから気軽にアクセスできるのがいい。

さらにいえば、チケットを購入しなくても、町のあちこちからレースが見えてしまうのも、F1にはないおおらかさだ。筆者もあちこちからFEを見てみたが、今回は香港駅の上にあるアップルストアがベストな観戦ポイントだろう。

高級ホテルのレストランで優雅にブランチしながら、あるいはショッピングモールの屋上から、と気軽にレーシング・マシンが戦う姿が垣間見れるのも、摩天楼がそびえる大都会でのレースならではだ。

「フォーミュラE」を楽しみ、豊かなモビリティの未来に期待しよう!



レギュレーション上、マシンをいじる幅が狭いため、レースが混戦気味なのも見ていて楽しいところだ。

電池を積んでいて車重が重いため、コーナーの前ではブレーキ合戦になりがちだ。しかも、公道レースで路面のグリップが悪いため、面白いほどよくスピンする。当然、クラッシュも頻繁に起こる。しかし、リタイアするマシンは少ない。

エンジン車と比べると、複雑なエンジンを積まない上に、トランスミッションやラジエーターなど、致命的なトラブル要因となる部品がなく、絶対的な速度が低いため、リタイアにつながるような大事故になりにくい。“ナイスファイト!”といった歓声と共にコースへの復帰を拍手で応援できるから、観客席の雰囲気もポジティブである。

初シーズンから「フォーミュラE」への参戦を続けるドイツの大手部品メーカー、シェフラーのCTOを務めるペーター・グッツマー氏に、「フォーミュラE」に参加する魅力を訊いた。

「初めになにかスタートするときには、リスクはつきものです。実際、「フォーミュラE」が成功するか否かは、誰にもわかりませんでした。しかし、今なら成功だったと断言できます。電動化の時代に先駆けて「フォーミュラE」に参戦することにより、電動モビリティの分野でリーダーシップを取っているイメージを得ましたし、実際に最高峰の電動レーシングカーを作り上げることを通して、電動化の知識や経験を蓄積しています」

技術的にみても、電動モビリティ最高峰のレースにふさわしい性能を引き出すために、シーズンごとに高くなる技術の壁を乗り越えてきた。実際、電気モーターやバッテリの制御、熱マネージメントといった電動モビリティならではのノウハウが蓄積できる試験場としても、「フォーミュラE」は有効に違いない。

筆者自身、相当な“ペトロ・ヘッド(=「無類のエンジン好き」の意)”であり、昨今の電動モビリティの台頭には切なさを感じないわけでもない。しかし、電動化の流れに抗えないのであれば、電動モビリティを楽しむことに積極的になるべきだ。実際、「フォーミュラE」は、電動レーシング・マシンの魅力を引き出すためによく考えられている。

昔はよかった……と嘆くより、積極的に楽しむ方が、豊かなモビリティの未来につながるはずだ。

川端由美(かわばたゆみ):環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

※『デジモノステーション』2018年3月号より抜粋。

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