金融が動かす、環境ビジネスの潮流「グリーンボンド」急拡大 

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 環境事業に資金を充てることを目的とした債券「グリーンボンド」を発行する自治体、企業が増えている。2017年は世界全体の発行額が1555億ドルとなり、15年から4倍近くに膨らんだ。日本でも東京都が発行し、広がる兆しが出てきた。事業化が難しかった環境ビジネスを金融の力で動かす潮流が起きている。

 鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)は2月、245億円のグリーンボンド発行を予定しており、18日から投資家に説明を始めた。同機構は17年11月に独立行政法人として初めて200億円のグリーンボンドを発行。18年2月に発行するボンドを含めた調達資金は、神奈川県東部を走る鉄道の連絡線新設事業費の一部に充てる。新路線によって東京―神奈川間の移動の利便性が増し、自動車から鉄道へ旅客が移ることで二酸化炭素(CO2)などの排出削減を見込む。

 17年10月には東京都が自治体初のグリーンボンドを発行した。同年12月発行分を合わせた200億円を20年開催の東京五輪・パラリンピックの競技施設などの環境対策に使う。戸田建設も同年12月、洋上風力発電所の事業費に充当する100億円を発行した。

 グリーンボンドは14年に国際資本市場協会が「グリーンボンド原則」を制定し、承認制度を創設。信頼性が担保され、世界的に広がるきっかけになった。環境事業の費用に使う以外、金利や償還期間は通常の債券とほぼ同じだが、発行には第三者認証機関が承認する「セカンドオピニオン」が必要だ。欧州拠点の認証機関が多く、東京都はドイツ、戸田建設はオランダの機関からセカンドオピニオンを得た。一方、日本の環境省は17年3月、日本版ガイドラインを制定し、同省が承認を確認する仕組みを整えた。日本語で書類をそろえられるので、自治体や企業は発行のハードルも下がっている。

 ESG(環境・社会・企業統治)投資も発行を後押しする。損害保険会社など機関投資家はESG投資を増やすように社会から要請されているが、明確な投資基準がないのが実情だ。目的がはっきりしているグリーンボンドは、ESGの投資先を探す機関投資家のニーズと合致している。

2倍以上の応募
 実際、グリーンボンドに購入が殺到している。鉄道・運輸機構が17年11月に発行したグリーンボンドには、募集の2倍以上の応募があった。市場には同じく償還期間10年の債券が多いが、競合の中でグリーンボンドは「人気化」した。

 購入を明らかにする「投資表明」をした投資家も25件いた。ESG投資に取り組む姿勢を社会に発信したい投資家が表明したとみられる。都内にキャンパスがある工学院大学は、生徒の通学時間の短縮とCO2削減を両立できる点に共感し、購入を決めた。

 こうした投資家には京都銀行、枚方信用金庫、関西大学など地元以外の機関も目立つ。鉄道・運輸機構の成岡剛資金企画課長は「投資家層が拡大した」と語る。

 同機構はこれまでに通常の債券を100回以上発行している。グリーンボンドは機構の基本理念「環境にやさしい交通ネットワークづくり」と一致しており、「ずっと発行したいと考えていた」(成岡課長)。環境省のガイドラインが制定されたことで発行できた格好だ。

 セカンドオピニオンも同省の承認確認で得た。初めての作業だったが、業務の負担にはならなかった。普段から実施している環境影響評価の結果と、ガイドラインの要件との確認が加わった程度だったという。

投資機会増える
 日本生命保険は17年10月、東京都のグリーンボンドへの投資を表明した。14年にはフランス・パリ市、15年には英ロンドン市交通局のグリーンボンドも購入した実績もある。

 同社はESG投資としてグリーンボンドを購入している。山本朋弥財務企画部担当課長は「生保は長期に資金を運用する。長期運用にはESGが重要。以前から収益と環境・社会性を考慮し、長期視点で投資先を選んできた」と話す。

 最近はグリーンボンドが出回ってきたことで投資機会が増えている。同社は17年―20年度の中期経営計画で2000億円のESG投資を実施する目標を設定。“グリーン”というだけで投資を決めるわけではなく、リターンやリスクを考慮して選んでいる。すでに1000億円に達しており、「自然体で届く目標」(山本担当課長)。

 現状の投資先候補は海外が多い。藤掛寛クレジット投資部担当課長は「欧米の投資家はESGの意識が高く、発行側もハードルがない」と認める。日本でも東京都などの発行で関心が高まっている。三井慶一債券営業課長は「自治体を訪問するとグリーンボンドの話題が出る」と環境の変化を指摘する。

技術革新が寄与
 グリーンボンドが広がっている理由について、みずほ情報総研の永井祐介チーフコンサルタントは「技術的ブレークスルー」を上げる。代表的なのが太陽光パネルのコストダウンだ。再生可能エネルギー発電所の採算が合うようになり、リターンを期待できるようになった。環境配慮だけを基準とした投資と違い「合理的な判断で環境事業に投資ができている」(永井氏)。

 もう一つ、民間資金を気候変動対策に使う「政治側から明確なメッセージ」も見逃せない。象徴的なのが、10年の気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)だ。COP16では資金援助を求める途上国と先進国が対立。政府資金だけでは賄えず、民間資金の動員を求めた。15年末の「パリ協定」合意でこの流れが確定し、グリーンボンド市場の土台となった。

 ただ、グリーンボンドは「資金を流す仕組みの一つ」(同)と助言する。実際、環境ビジネスへの金融的手法の活用は増えている。各国が合計100億ドルを拠出する「緑の気候基金」は、事業化が難しかった環境ビジネスへの民間の参画を後押しする。だが、すでに決まった同基金の35件の支援先に、日本企業の事業はない。今後は金融の力も、環境ビジネスを切り開くきっかけにする必要がある。
(文=編集委員・松木喬)