ソニーの平井一夫社長は、CFO(最高財務責任者)として支えてきた吉田憲一副社長(右)にバトンを渡す(撮影:尾形文繁)

「社長に就任してからの6年間、トップをどこで退くか常に考えてきた。ソニーが好業績のときに新しいCEOに交代するのが、ソニーにとっても、私の人生にとっても適切だと考えた」

退任の理由をこう語るソニーの平井一夫社長は、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした表情だった。

2月2日、2017年度第3四半期の決算説明会を繰り下げ、ソニーの社長交代記者会見が急きょ開かれた。平井氏がバトンを渡したのは、CFO(最高財務責任者)として、約4年のあいだ平井社長の懐刀として経営再建を担ってきた吉田憲一副社長だ。

新旧社長の人柄は好対照

ソニーの財務部や社長室担当などの管理畑を歴任後、子会社のソネットに出向。そこから2013年末に本体の経営陣へと舞い戻った、異色の経歴の持ち主だ。CFOとして年4回の決算説明会に登場する際は、眉間にシワを寄せた表情や慎重で厳しい物言いが特徴的だった。壇上でのプレゼンは大得意、「感動会社」と自社を打ち出す平井氏とは、ある意味好対照の人物だ。

吉田氏はかねて次期社長の最有力候補とささやかれてきたため、今回の人事は極めて妥当。ただ、業績が回復し、いよいよ反転攻勢か、というこのタイミングでの平井氏退任は、社内に驚きを与えたようだ。1月11日には平井氏の陣頭指揮のもとで12年ぶりに復活させた犬型ロボット「アイボ」も発売されたばかりだった。


2012年、社長就任からまもない平井一夫氏。表情が若々しい(撮影:尾形文繁)

平井氏が吉田氏に社長交代を打診したのは2017年暮れとのことだが、ちょうどその頃、社長に近いある幹部は「社長は今とても乗り気になっているところ。世界中の拠点を飛び回って、時差ぼけでもレッドブルを片手に生き生きと仕事をしている。今退任するとは思えない」と語っていた。

今回の会見では、平井氏の「社長交代は私の人生にとって適切」「人生の新しいステージに移る」といった発言が印象的だった。というのも、CBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテイメント)出身者として異例の社長抜てきとなった平井氏だが、就任した2012年は、折しも同社が4期連続最終赤字に陥っていた最悪の時期だ。

以来、製造拠点の統廃合や従業員リストラなど、厳しい判断を次々下してきた。平井氏自身も「心が痛んだが、それでもソニーを元気にするんだという思いだった」と当時を振り返る。社長就任時に黒々としていた髪も、すっかり白くなった。

ただ、冬の時代を乗り越えた結果として、今の好決算があることは間違いない。社長交代と同日に発表された2017年4〜12月期の業績は、売上高が前年同期比15.7%増の6兆5929億円、営業利益は同約3.6倍の7126億円で着地した。為替の追い風も大きいが、ソフトウエアを含めたゲーム事業やイメージセンサーなど半導体の好調、構造改革を経て赤字から回復したテレビなど”黒モノ家電”の収益性が回復してきたことも利益を押し上げた。

通期の業績予想は、昨年10月に一度上方修正したものを今回さらに上乗せ。平井社長は20年ぶりの最高営業益、過去最高純益の更新を花道に、肩の荷を下ろすことになる。今後の役割については、「あくまで社長の補佐をしていくのが私の仕事。(北米に拠点がある)エンタメ事業で現地での対話をお手伝いしていく」(平井氏)と語った。

次なる収益柱に、何を育てるのか

今が絶好調である分、バトンを渡された吉田次期社長に対する要求水準は当然高くなる。2018年4月から始まる新3カ年計画で、吉田氏はどのような戦略を描くのだろうか。ソフトを含めたゲーム、半導体、金融事業などが収益の柱となる現時点のソニーだが、次の屋台骨が何になるのかは未だ明確になっていない。さらに、売り上げ減に歯止めがかからないスマートフォン「Xperia」をはじめとしたB to C向け商品の方向性は、論点になるだろう。


社長交代会見で「九州出身であることの経営方針への影響」を問われた吉田憲一副社長は、やっと少しばかり表情を崩した(撮影:尾形文繁)

今後の方針について吉田氏は、「感動を提供する会社として、これまでとB to Cに対する考え方は変わらない」「映画やゲームなどのIP(キャラクターなどの知的財産)の活用や、現在3150万人の会員数を獲得しているプレイステーション4の月額課金サービスのような、継続的に収益を上げるビジネスも重要視していく」と”平井路線”を継承することを示した。

一方でソニーの課題を問われた吉田氏は、「時価総額がすべてではないが、現在時価総額の上位を占めるのはテクノロジーの会社だ。ソニーもテクノロジーの会社である以上、危機感は抱いている」といかにも財務出身らしい答え。実際、かつてソニーにiPodを売りこんだこともあるアップルの時価総額は世界首位の約94兆円。続くグーグル(上場企業は持株会社アルファベット)も約89兆円。対するソニーは、7兆円弱と、彼らの背中すら見えない。

平井氏が終始軽やかな表情だったのに対し、慎重な発言、こわばった表情をなかなか崩さなかった吉田氏。再成長に向けまずはどのような一手が飛び出すのか。その詳細は、今年の春にも明らかになる予定だ。