「飲食人」の志向に寄り添った情報提供を行うことで、強い支持を集めるクックビズ株式会社の藪ノ社長(写真:Signifiant)

「フード産業を人気業種にする」をビジョンに掲げ、飲食業界に特化した人材サービスを展開するクックビズ株式会社。世の中に人材サービスを展開する会社は数多ありますが、「飲食人」の志向に寄り添った情報提供を行うことで、強い支持を集めています。「日本の飲食は世界で勝ち続ける産業になれる」という信念をお持ちの藪ノ社長に、クックビズの人材サービスや「食」のSNSアプリ「Foodion」を通じた今後の可能性について、お話を伺います。事業の詳細については、「成長性に関する説明資料」をご参照ください。

2007年創業のクックビズ株式会社は、飲食業界に特化した人材サービスを提供する企業。大阪を中心に東京、名古屋に拠点を設けて、事業を展開中。『フード産業を人気業種にする』のビジョンの下、人材サービスのみに留まらず、様々な事業開発にも取り組み、SNSアプリ「Foodion」の提供や研修事業サービス「クックビズ フードカレッジ」も展開。2017年11月に東京証券取引所マザーズ市場に上場を果たし、今後も業界の発展に寄与すべく、積極的な事業展開を進めている。

未成熟な飲食業界の転職市場に狙いを定めた

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):まずはクックビズがどのようなビジネスを手掛けているのかをお聞かせください。


当記事はシニフィアンスタイル(Signifiant Style)の提供記事です

藪ノ賢次(クックビズ代表取締役社長 CEO。以下、藪ノ):やっているのは飲食業界に特化した人材サービスです。会社を立ち上げたのは2007年で、その当時、医療や介護といった分野で特化型の人材サービスが活況だったんです。それを見て、他の分野でも特化型の人材サービスは出来ないかと考えました。「日本といえば食でしょ」という本当にシンプルな発想で、日本で飲食業界特化型の人材サービスを創れば、世界を狙えるサービスになるのではないかと思ったんです。

また、飲食業界の一番の課題は人だという考えも持っていました。飲食業界の人材サービス、というとアルバイト向け情報サービスのイメージが強いと思いますが、それに比べて、転職者向けの情報サービスはコンテンツが乏しかったので、そこで何か価値を提供できるのではないかと考えたんです。飲食業界の転職ではミスマッチが原因と考えられる離職が多かったので、まずは人材紹介というエージェントサービスによってミスマッチを防ぐことを考えました。

藪ノ:飲食業界では求人企業にも採用ノウハウがなく、また求職者にも転職ノウハウがありませんでした。面接の冒頭でいきなり「いつから出勤できますか?」といった会話が交わされるような状況だったんです。職務経歴書を書くというような、ホワイトカラーの転職市場では当たり前の転職の作法も知られていなかったので、まずはそういった作法を伝えることから始め、コンサルティングを行ってきました。この10年間、不満足な転職・採用を減らすことがわれわれの介在価値だという考えに基づいて、経営をしてきました。売り上げで言うと、全体の6割強を基幹ビジネスである人材紹介が占めており、それ以外に求人サイトも運営しています。紹介と情報サイトの両方をやっているのがわれわれの特徴だといえます。


藪ノ賢次(やぶの けんじ)/大阪府出身。2004年大阪府立大学工学部卒業後、すぐに起業。2007年クックビズ株式会社を設立。「フード産業を人気業種にする」をビジョンに、飲食店とそこで働く人材のミスマッチを無くすため採用活動・転職活動を支援する人材サービスを行う。また、飲食人材のプロによる『食』のキュレーションサイト「クックビズ総研」、飲食のプロをつなぐ「食」のSNSアプリ「Foodion」を運営。多角的な方面からサポートを行う(写真:Signifiant)

ホワイトカラーが利用するような転職エージェントは人材バンクを持っているわけですが、そこに飲食業界のデータはなかったので、自分たちで求人サイトをつくって応募者を募り、応募してきた人たちのデータを集積することで、われわれオリジナルのデータベースをつくっていきました。そうすることで、企業が求職者を直接スカウトする機能も提供できるようになったのです。

朝倉:大学を出られて比較的早い段階で起業されていますが、昔から起業熱のようなものをお持ちだったんですか?

藪ノ:そうですね。父親が兄弟で20人くらいの町工場をずっとやっていて、自営業の一家で育ったこともあり、卒業後の進路を就職に限定する感覚はなかったですね。大学を卒業して1年くらいフリーターをしていたのですが、やっぱり起業かなと思い、まず有限会社を作ってECサイトや携帯電話の代理店などいくつかの事業をやってみたんですが、どれも面白くなくて、たどり着いたのがクックビズだったんです。

収益性の高いビジネスモデルへの進化

朝倉:初期は関西中心に事業を展開されていったと思うんですが、そこから地域を拡大していこうと思ったのはいつのタイミングだったんですか?

藪ノ:2012年が一番の転機でしたね。地域拡大という意味では、2012年11月に恵比寿に拠点を出しました。2012年には、他にも、求人広告事業の立ち上げも行い、求人サイトのフルリニューアルも行い、ジャフコからのファイナンスを入れ……、と、多くの出来事がありました。その時に打った施策が5年くらい経って花開いたという感覚があります。

朝倉:目論見書を見ると、2012年と2013年の11月期は赤字がギリギリないくらいの範囲内で推移していますが、翌年に大きく赤字を掘って、その翌年からぐぐっと成長しています。このときはどのような状況だったんですか?

藪ノ:新規事業も展開していたし、そのタイミングで人が爆発的に増えたというのもありましたが、利益が出にくい体質だったというのも事実です。人材ビジネスは手数料で売り上げを立てているわけですが、年収が高ければ手数料率も高くでき、手数料も多くなります。しかし飲食業界は年収も低くて手数料率も高くしづらかったので、平均の紹介単価は50万円程度でした。通常のホワイトカラー転職の場合、紹介手数料は200〜300万円になると思うので、その水準からするとわれわれの手元に入る手数料は4分の1くらいでした。

藪ノ:そこで、どうやって収益性を高めていくか考えて取り組んだのが分業制でした。人材紹介のビジネスモデルは、コンサルタントが一気通貫で、企業側の対応も求職者の対応もするのが一般的です。クックビズではそうした工程を4つの職種に分割しました。まず応募があったら本社のコールセンターで一括して連絡を受け、全国の応募者に架電をして面談の設定を行います。面談をするのはコンサルタントで、コンサルタントは応募承諾を取るまでが仕事です。そこから営業に渡して営業が企業側の対応をします。コンサルタントと営業には、それぞれアシスタントを付けて事務方の仕事を処理します。

この4職種に分けることで成約数を上げて行こうというのが狙いでした。ホワイトカラーの人材紹介の場合、コンサルタント1人が月に2〜3人くらい成約するんですが、われわれは平均成約数をその3倍くらいに上げました。分業化して一人あたりの成約数を最大化することで、ナレッジが溜まりやすくなり、それが後から採用した人の育成の早期化にもつながります。こういった、色々な掛け算によって、ここ2年くらいで収益が大きく出たということだと思います。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上): KPIを細かく分解して収益モデルをつくって経営されてきたということですね。結果的に当時の想定を超えて成長されてきたと思いますが、その実現の原動力となったKPIはなんだったのでしょうか?

藪ノ:一番想定より伸びたのは単価ですね。人手不足で年収も紹介料も上げないと人が採れなくなったんです。クックビズからの紹介実績が積み上がり、顧客の信頼を得たことに加え、市況が追い風となりました。結果、ホワイトカラーと遜色のない紹介料率にまで引き上げられたことが、利益に繋がっています。

村上:外部環境の後押しもあっての伸びだったんですね。飲食という人材サービスでは未開拓の市場だったからこそ、紹介料率を引き上げるチャンスが潜んでいたということですね。コンサルタント当たりの経験件数を引き上げたことで、コンサルタントのクオリティも向上し、クックビズの評判とともに収益率が上がるという好循環が生まれたんですね。

藪ノ:われわれは、市場の単価が上がる前に参入して、トップシェアを取れていたので、「飲食の人材紹介ならクックビズでしょ」という評判は得られていました。競合もいたんですが、彼らはシステムに投資せず、いずれ売り上げも頭打ちになったと聞いているので、われわれはシステム投資をしたことで再現性が上がったことが競争優位になったんだと思います。コンサルタントが入ったら何カ月でこれくらいの売り上げが立つっていうのがほぼ読めているので、非常に精緻な予算が立てられるんです。

”飲食人”の志向に寄り添う、リアルな情報提供

朝倉:御社の「成長可能性に関する説明資料」にも外食産業の規模は盛り上がりつつあるとあります。このビジネスは単価にしても流動性にしても外食産業の市場に左右されると思いますが、実際はどの程度影響を受けるものなんですか?


外食産業の規模は盛り上がりつつある(図:クックビズ)


有効求人倍率は、市場拡大でより高い水準に(図:クックビズ)

藪ノ:影響は大きいですね。ただ、今後飲食の領域で正社員がいきなり採りやすくなることはほぼないと思っています。これだけ景気が良くなると、他の業種でもいいという人は飲食業界から出て行って、残るのはわれわれが”飲食人”と呼ぶ人たちだけになり、飲食店側は彼らを取り合うことになります。飲食店はこれまで、来店するお客さんに対する差別化はやってきたんですが、従業員に対しては、たくさん採用して誰か残ればいいだろうという考え方でした。でもこれからは、有給取得を推進していったり、人事考課の制度設計を変えていったり、一般の企業のように振る舞っていかないと、求職者や従業員から評価されなくなります。なので、人材に投資している会社がここ10年で圧倒的に増えています。そこはわれわれに取っては追い風だと思います。

朝倉:藪ノ社長が“飲食人”と表現されている方々について、もう少し教えていただけますか?料理人もいれば接客の人もいるでしょうし、お店側にしても、ものすごい高級店もあればチェーンみたいなところもありますよね。クックビズの利用者はどんな方たちなんですか?

藪ノ:企業側で言うと、数店舗から200〜300店舗のミドルチェーンと呼ばれる規模が中心です。われわれのメインは中途採用支援ですので、主に経験者をターゲットに採用活動を行なっている企業に対してサービスを提供してきました。また最近では、ナショナルチェーンと呼ばれる大手企業にも、利用が広がっています。

ミドルチェーンがナショナルチェーンと差別化していくときには、正社員比率を高めてよりリッチな接客やより面白い料理を提供することで付加価値を高めようという戦略を取るので、そういう企業にはわれわれのサービスが刺さっていると考えています。しかも、今は利用者側も、オリジナリティのあるお店で食事をしたいという傾向が強くなっているので、ミドルチェーンが活況を呈しています。

われわれのサービスを利用する求職者の約半数は料理人系で、残りの半数がサービスやマネジメント系です。料理人の場合は特に最終的に独立したいと考えている人が多いので、自分がやりたいお店に近いとか、業者とネットワークを作れるとか、そういう要素を重視します。その場合、給料よりもオリジナリティのある良い料理を出しているかが重要になります。なので、われわれも加工食品をどのくらいの割合で使っているのかなど、様々な情報を集めて資料として使っています。一方、サービスやマネジメント人材の場合は、福利厚生や待遇給与額やキャリアパスといった要素を重視するので、一般的なホワイトカラーの転職者に志向性が近いです。

いずれにしても、データマッチングだけで終わらず、店舗でどういった働き方ができるのか、企業の奥にある店舗をどれだけ知っているのかが重要になります。条件面だけしか語れないと、求職者に「このコンサルタントは何も知らない」と思われてしまいますから。

小林賢治(シニフィアン共同代表):飲食業界は開業も廃業も多いイメージがあるんですが、新しい店ができたときなど、開拓営業はされているんですか?

藪ノ:もちろん開拓はしますが、上場もあって認知度が向上してきているのでインバウンドの比率が高まってきています。あとは業界としてリピートクライアントが多いのが特徴です。現状の店舗が充足したとしても、新店を出すために余剰人員を抱える必要が出てくるので、つねに人を探し続けている企業が多いですね。

KGI「転職成功者数」の最大化に効く、複数サービス

村上:店舗の情報をデータとして集めるのは難しいと思うんですが、どのレベルまでをデータとして取って、どのように蓄積されているんですか?

藪ノ:マッチングに必要なデータは、ヒアリング項目として何十個と指定されているので、その情報はひたすら集め続けています。加えて、採用後にもヒアリングを行って、実際どういったお店なのか、正味の労働時間はどれくらいなのかというような実態もデータとして溜めています。

朝倉:飲食店に特化した人材紹介業は、ほかにもあるにはあると思うんですが、その中で御社が異なるところはどこなんでしょう。

藪ノ:求人サイト系のビジネスはサイトを立てて営業を何人か雇えば、それなりにやれてしまうと思います。ただ、求人サイトを単体で運営しようとすると、求職者からの応募数を稼ぐために応募に必要なデータ項目を削っていく事になります。そうしないと、入力が面倒で、求職者に嫌がられてしまいますからね。応募時には名前・電話番号・メールアドレスだけ入力すればよい、とか。そうなってしまうと、飲食店からすればその応募者がどのような人かわからないので、面接する価値がどれくらいあるかわかりません。そうなると、マッチングの確率は低くなります。

われわれは人材紹介をメインとしているので、求職者は面談を経て転職に必要なレジュメがすべて埋まった状態になっています。そのレジュメがあれば、企業は時間がない中で誰を面接に呼び込んで誰にパワーを割いていくべきかがわかりやすくなります。われわれのマッチングビジネスの中で、人材紹介で決まるのは実は非常に少ないんです。それ以外は公募やスカウトによって決まっているのですが、それはレジュメがあるから可能になるわけです。

この業界では、エージェントに頼りきりではなく自分でも探したいという求職者も多いですし、転職成功者数の最大化がわれわれの戦略なので、人材紹介をメインとはするものの、複数のサービスを用意して企業にもユーザーにも回遊してもらうようにしています。飲食特化型でエージェントや求人サイトを運営している会社はたくさんありますが、われわれの強みはそうやって複数のサービスを回遊させられることなんです。飲食業界の採用課題というのは非常にハードルが高い課題なので、1つのサービスだけでは解決できないと思っています。だからこそわれわれは複数のサービスで企業の課題を解決するという方向性でこの業界にコミットし続けているんです。

朝倉:クックビズの事業を今後成長させるための戦略と、新規事業の展望を教えていただけますか。

採用成功後に目指す、“雇用体験”の向上

藪ノ:既存事業に関しては、ある程度業務の仕組み化もでき、コンサルタントの教育期間も明確になってくるなど、事業運営の型が見えてきたので、これまで東名阪中心に展開してきたものを、他エリアに横展開していく事を考えています。具体的には、福岡や仙台といった地方都市に展開していくこと、東京においても今は1拠点しかないので3拠点くらいに増やすことを構想しています。また、求人サイトについては、サイトの認知度が上がれば上がるほど応募者も掲載企業も増え、閲覧数が増えてマッチングが増えるという好循環が生まれるので、マーケティングを強化し、サイトのユーザビリティを上げてユーザー数を増やすことに取り組んでいきます。

ただ、基本的にわれわれがやっているビジネスモデルは、リクルートなどが作ってきたマッチングモデルをうまく業界特化型にマイナーチェンジし、網目を細かくしてユーザーと企業の満足度を上げていくというものです。それはそれでいいんですが、それだけでは国内の飲食人材を取りきったときに成長が止まってしまうので、他領域へも事業を広げていく必要を感じています。

国内では、採用後の定着をサポートするという意味で研修事業の「フーカレ」というものを始めています。講師を派遣して店舗や企業の課題を解決していくというものですが、採用のところだけでは、いくらいい人を紹介したとしても店舗の状態が悪ければ力が発揮できないので、採用の課題と実際に入社してからの課題を分けて、両方のソリューションを提供していくということを今後はやりたいと考えています。

村上:研修事業というのはマネタイズが難しいと思うんですが、そこはどう考えられているのでしょうか。人材の定着率向上が目的だとしても、経営リテラシーの低い経営者に、研修におカネをかける決断をしてもらうのは難しいと思うんですが。

藪ノ:採用支援領域で売り上げを得ていて思うのは、このビジネスはサブスクリプションモデルになっていないということです。研修も今は一発勝負で売っているんですが、できればクラウドサービスみたいなものに寄せていって「1従業員1ヶ月いくら」といった、サブスクリプションに近いマネタイズモデルで、広く薄く収益を上げていくことができればと思っています。研修の業界で成功しているのはそういうサブスクリプションモデルなんです。それに、われわれとしては、最終的に採用のところで大きくフィーをいただければいいので、研修事業自体は企業側と常にコンタクトを取れる手段になってくれれば十分なんです。それが実現できれば、いずれは採用支援領域もサブスクリプション型のマネタイズモデルに近づけることができるのではないかと思うんです。

小林:事業で言うと、飲食店予約サイトなどは近しい領域なんでしょうか?

藪ノ:われわれは人事系の人たちとのネットワークが強いので、予約サイトとは、会っている人のラインが違います。ただ、もう少し、われわれが飲食系人材のシェアリングエコノミービジネスのような形態になって、一定期間、飲食人材をプールする派遣業のような形態をとれるようになったら、予約状況に合わせてヘルプ人材を出すというモデルは考えられます。その場合、最終的には予約状況にリンクしていくかもしれません。

もっと個が輝く産業に

朝倉:国内では研修事業に取り組んでいかれるということでしたが、海外への展開もお考えなんですか?

藪ノ:海外でも何かやりたいと考えて、「Foodion」という料理人が使うSNSアプリをはじめました。われわれは日本一料理人のレジュメを集めてきた会社だと思うんですが、活字情報なので料理がどれくらい美味しいのか、盛り付けはどうなのか、レシピはどうなのか、といったことはまったくわからないんです。そこで、その人が持っている技術やコンテンツをもう少しビジュアライズして見せられるようにと思って、このアプリを始めたんです。

腕利きの料理人って自分のポートフォリオを持っているんですよ。今まで作った料理を写真にとってファイリングしてそれを材料に採用面談時に条件の交渉をしたりしている。それをスマホでできたらいいと思って、ポートフォリオの機能を作り、その人のアカウントを見ればその人の料理がどれくらいすごいのかをわかるようにしたりしています。


実は、開発コードは”CookedIn”だったんですよ(笑)(画面:Foodion)

朝倉:料理人のリンクトインみたいな感じですね。

藪ノ:実は、開発コードは”CookedIn”だったんですよ(笑)。

SNSとしての機能だけでなく、読み物コンテンツとして、ミシュランに載るような料理人の人生を振り返るようなインタビューも掲載しています。

人材サービスだけやっていると、星付きのレストランのような良い企業ほどお手伝いしにくいという課題があります。彼らに対して深くアプローチしていく方法はなんだろうと考えた時に、彼らが主役のプラットフォームを作ればいいんじゃないかと思ったんです。星付きレストランのシェフがセルフ・ブランディングできるようなサイトになることで、ピラミッドで言うとトップ層が集まってきていて、そこから海外にも広がって、今はメキシコでユーザーが急増したり、インドでバズったりといったことが起きています。それでネットワークができて、経済圏ができればいいなということを考えて、取り組んでいます。

村上:チャレンジされているサービス一つひとつがどれも魅力的ですが、それぞれがつながるとさらに面白くなりそうですね。各サービスをつなげていく中で、料理人から飲食店や料理人個人に対して、各種レーティング等の連携の仕組みを導入すると面白いと思いますが、そのような計画はありますか?

藪ノ:まだまだ構想段階ではありますが、今後機能として入れていっても面白いかと思いますね。というのも、Foodionのマネタイズは採用ではないと思っているんです。シェフのプラットフォームができてくると、次はグルメな人たちが集まってきます。そういう人たちが求めるのは、「この人の作るものが食べたい」とか、「この人の接客を受けたい」とか、そういうことだと思うんです。そういうお客さんがFoodionを通じてチップを払えるようにしたりすることで、飲食人のキャッシュポイントを増やすことができる。われわれはフード産業を人気業種にするというビジョンがあるので、このビジネスがいずれは、そこに貢献できるのではないか思っているんです。

クラウドファンディングみたいになってもいいですよね。たとえば、店の看板娘が実は苦学生で、Foodionで投げ銭のような形でおカネを集めて学費を払うとか、そういうのができたら面白いんじゃないか。

何が言いたいかというと、「個に注目している」ということなんです。今までの販促は店舗の評価なんです。でも、店舗の評価なんて危うくて、料理人が変わったら味も変わるし、看板娘がいなくなったら行く気もなくなる。人の評価の集積値が店の評価なので、本来は人の評価から店を評価しないといけない。だから個に注目してもらうことで、販促にも一石を投じたいんです。

「食ビジネスはグローバルで戦える」

小林:まさに私も体感したことがあります。ワインバーのシェフが変わって、その店に行きたい気持ちの半分くらいが削がれてしまった。


個に注目してもらうことで、販促にも一石を投じたい(写真:Signifiant)

藪ノ:シェフの動きで客もぞろぞろ動くといったことが実現できたらいいですね。料理人って、包丁一本で世界中どこでも働けるというのが魅力なので、そういった身軽さみたいなものを、われわれのサービスでどうサポートしてあげられるか。正直、今展開しているサービスの真逆を行っているのかもしれないですが、個が強くなることはそれを抱えている店が強くなることなので、個に注目することは悪いことじゃないと思います。

朝倉:「組織から人へ」といった力点の移動は、まさに今の時代背景にもマッチしていますね。最後に、今後に向けての意気込みを聞かせてください。

藪ノ:食ビジネスはグローバルで戦える、と私は信じているんです。日本のIT企業が海外の市場で勝つのは難しいとは言われていますよね。この点、私は、国民性として強い種目で戦うべきなんじゃないかなと思っています。スポーツを見ても柔道のように、オリンピックで毎回メダルを取る種目もあるわけじゃないですか。ビジネスに置き換えると、日本の場合、われわれが強いのは食だと思っているので、そこで戦ったほうがいいと思っています。

フランスでも、今は星付きの日本人オーナーの店って数十店舗くらいあるらしいんですね。今の人材でそこまで勝てているんだから、飲食業界全体を人気にしてもっと優秀な人材が入ってきたら、より勝ち越していけるんじゃないかと。今までこの業界に来なかった優秀な人が来るようになれば、世界で勝ち続ける産業になると思うし、世界の食べ手の人が喜んでくれればいいと思います。

朝倉:たしかにそうですね。日本企業が海外で勝つためのヒントが今日のお話にはあったんじゃないかと思います。今日はありがとうございました。