本記事は、電通総研 カウンセル兼フェロー/電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント/アタラ合同会社 フェロー/zonari合同会社 代表執行役社長、有園雄一氏による寄稿コラムとなります。

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電通総研カウンセル兼フェローの村上憲郎氏(元Google米国本社副社長兼Google日本法人代表取締役社長)は、「もしいまもう一度新卒として就職活動をするとしたら、どの会社を選びますか?」と聞かれて、「西川(徹)さんがやっているプリファードインフラストラクチャーだな」と即答している。

その西川氏は、「エッジヘビーコンピューティング」というモデルを提唱している。

現在のクラウドでは、AmazonのAWSのように、データを1箇所に集めて処理するのが主流のようだ。しかし、このやり方は遅かれ早かれ破綻する、と西川氏は考えている。

これから、IoTによって膨大なデータが生成される。そして、リアルタイムでの処理が要求される。それをいちいちネットワークでクラウドにアップして処理するのでは間に合わない。

「そこで、私たちは、『エッジヘビーコンピューティング』という、クラウド・ネットワークデバイス・エッジデバイスが分散協調的にデータ処理を行うための新しいコンピューティングを提唱」している、と西川氏は語る。

分散協調的に処理する。おそらく、これが、キー・コンセプトだろう。

「いま、時代は分散協調型だ」と、私は感じている。いわゆる、破壊的な(disruptive)ビジネスモデルは、この流れのなかにあるような気がする。

ビットコインで有名になったブロックチェーンは、分散型台帳技術、あるいは、分散型ネットワークと呼ばれる。その一方で、中央銀行が管理する日本円などの法定通貨は、中央集権型のシステムだ。

AirbnbやUberなどシェアリングエコノミーは、共有型経済といわれる。

共有するとは、分け合うことだ。所有(私有)するとは、自分を中心に考えて、自分という1箇所にモノを集める。共有は、複数の他者がそれぞれ持っているモノ、つまり、複数箇所に分散しているモノを相互に協調して利用する。これも、分散協調的なモデルだろう。

人間の3つの脳



話は飛ぶが、人間の脳は、ひとつだと考えられていたが、最近の研究では、脳が3つあることが分かってきた。

『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー著)に次のような記述がある。

「実は現在の科学では、ヒトには三つの脳があることになっている。もちろん一つ目は頭部にある大きな脳だ。そして胸の中にある小さな脳ともう一つは、腸の中にもある。二つ目と三つ目の脳は比較的小さいものの、完全に自律的な神経システムだ。」

腸にも脳があるという話は最近注目を集めている。フードサイエンティストの Heribert Watzke がTEDで、腸の脳の話を披露した。聞いた人も多いかもしれない。

また、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(竹下雄真 著)では、「脳腸相関」について解説している。頭の脳と腸の脳は「迷走神経」と呼ばれる独自の直通ルートでつながっていて密接な関係にある。その分業的メカニズムを「脳腸相関」と呼ぶ。

じつは、腸のなかに脳があることは、1860年代にドイツのアウエルバッハという医師によって発見されていたらしい。

しかし、近現代のデカルト的なトップダウンのツリー構造のパラダイム、つまり、司令塔である頭脳はひとつで、そこからの命令系統を通じて生命も組織も機能しているという凝り固まった閉鎖的思想(思い込み)によって、医学界は腸の脳のことを1世紀に渡って忘れ去ってしまったらしい。アメリカの神経学者、マイケル・ガーションなどによって再発見されたのは、1990年代後半だった。

1990年代後半といえば、インターネットが普及して人々の思考パラダイムに変化を起こした。その結果、頭の脳以外の、胸の脳と腸の脳が受け入れられるようになったらしい。

インターネットによって「トップダウンの階層ではなく、分散した知性の可能性に目が向けられるようになったのだ」(前述の『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』からの引用)。

つまり、人間の神経は、頭の脳だけではなく、胸の脳と腸の脳が分散協調的に機能して、生命を維持している。

また、余談だが、タコは9つの脳があるらしい。脳の中枢は頭に存在しているが、その神経細胞の約3分の2が足にあるらしい。 末端の足の方が、神経細胞の量が多いなんて、驚きだ。

分散協調型の未来



さて、このような例から、生命の仕組みも、分散協調型と考えた方がいいかもしれない。

おそらく、多くのシステムが、データボリュームが膨大になり、それを瞬時に処理する必要性が高まるほど、分散協調型に移行していくのではないか? 生命だろうとコンピューターだろうと、1箇所に膨大なデータを集めて処理し、末端に戻すというのは、複雑な処理が増えるほど非効率なはずだ。

メディアビジネスやマーケティングの領域に目を向けても、同じような現象が起こっているのではないか? たとえば、分散型メディア(distributed media)というものが最近台頭してきたのは周知だろう。

一方で、マスメディアの代表であるテレビの情報伝達モデルは、放送局という中心から各家庭のテレビ端末に、一方的に情報を届けるものだ。中心にある放送局が情報の流れをコントロールしている。それは、デカルト的なトップダウンのツリー構造で極めて中央集権的だと考えていいだろう。

テレビCMで情報を発信する企業は、宣伝部などが中心になって、どのようなメッセージをどのようなクリエイティブで放送波に載せるかを考えてきた。宣伝部やマーケティング部、あるいは、CMOなどが、企業のブランディングの中心にあって、管制塔のような役割を期待されて来たのではなかったか。

テレビなどマス広告の影響力の低下、スマホの普及、SNSの浸透、などの社会変化のなかで、広告主企業から一般の生活者にマーケティングの主導権が移ったことに反論はないだろう。

そして、その主導権を握った生活者と直接つながり、エンゲージするための方法論としていま、カスタマーエクスペリエンスマネジメントが注目を浴びている。

中央集権的なテレビ型の情報伝達モデルでは、企業が作ったCMという情報を中央のテレビ局に一旦集めて、そこから全体の末端に届ける。そこには、1箇所に集める、という手間がある。

しかし、リアルタイムに生活者の反応に対処しようと考えると、いちいちテレビ局に情報をアップして、そこから電波で各家庭のテレビ端末を通じて生活者に届けるのは、手間だし、手遅れになる。いまの世の中、そんなノンビリした会社は、生き残れないだろう。

つまり、もっと直裁でスピーディな処理ができるメディア、コミュニケーション手法が要求されている。

カスタマーエクスペリエンスマネジメントは、企業の現場の担当者がSNSのメッセージ機能などを使って、直接話しかける。

このやり取りに、中央でコントロールする管制塔的なCMOは関与しない。なぜなら、できるだけリアルタイムに対応しないと意味がないからだ。もちろん、生活者とのコミュニケーションに一定のガイドラインを設けている企業は多い。

タコを見習う時代



中央の管制塔的な宣伝部、マーケティング部などがガイドラインを作成し、頭脳としての役割を果たすかもしれない。

しかし、日々の生活者との具体的なやり取りは、ソーシャルリスニングツールやカスタマーエクスペリエンスツールを現場で活用する社員一人ひとりの判断に委ねられる。末端の頭脳の重要性が増しているのだ。

タコの神経細胞の約3分の2が足にある。企業の神経細胞も、タコを見習う時代なのかもしれない。

まぁ、結論は、エッジヘビーコンピューティングもカスタマーエクスペリエンスマネジメントも、タコってことですかね?(笑)

Written by 有園雄一
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