諏訪東京理科大学学長・河村洋氏

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 長野県にある諏訪東京理科大学は4月、茅野市など地元自治体の協力を得て公立大学法人「公立諏訪東京理科大学」に生まれ変わる。学費が半分以下になり公立の格式になることで、定員に対する志願者数は前年度比2倍超。「地域密着でやってきたから公立化が実現した。公立化で地域連携を始めるわけではない」という河村洋学長に、私立から公立への転換までの思いとこれからを聞いた。

―学校法人・東京理科大学傘下だった3大学のうち、山口東京理科大学に次いで2校目の公立化です。

「学長就任当初から志願者を増やすというミッションを背負ってきたが、地元や学生の期待に応えられず苦しかった。しかし高知工科大学で私立大学の公立化第1号が出てきて道が開けた。山口東京理科大とともに検討を進めたが、こちらが数年遅れたのは慎重な県民性ゆえだろう」

―90年に短期大学として開学した時から地域密着を進めました。

「諏訪地域は精密・光学機器や情報、自動車部品の産業が盛んだ。工学系人材のニーズから県や市町村、産業界が大学の土地・建物を用意し、我々に運営が委託された。そのため『学生に魅力ある街をともに作る』という意識が強い。本学では諏訪圏の圏外から入学する学生の方が、圏外へ就職する学生より多い。近年は中小企業の海外拠点への学生派遣など、新たな協力が進む」

―とはいえ国の資金が投入される公立化には批判もあります。

「学長として最も辛いのは、学生が経済的理由で出す退学願いに判を押すことだった。保証人欄からひとり親世帯とうかがわれるケースもある。家庭ですでに借金があり、奨学金が難しい場合も多い。それが公立化で学費が下がり、学費免除の機会も増大する。学生にとってどうか、という点も重要だ」

―教育改革はどのように進めますか。

「今の2学部4学科を、工学部の機械電気工学科と情報応用工学科の1学部2学科に変える。工学と経営の融合は企業の希望もあり重視しており、マネジメント教育のセンターを置く。モノづくりとITの2学科に経営の横串を刺す形だ。さらに工学をベースに農業・食品や健康の新学科設立も検討する」

【略歴】かわむら・ひろし 70年(昭45)東大院工学系研究科博士課程修了、同年日本原子力研究所研究員。88年東京理科大学理工学部教授。08年諏訪東京理科大学工学・マネジメント研究科長。10年学長。大阪府出身、75歳。

【記者の目/学生の気持ちに寄り添う】
都市部と比べて地方の中小企業は人材採用で分が悪いが、大学の教育・研究に関わることで学生の意識は変わるという。学費納入に苦しんで退学していく学生の話にもぐっと来た。大学改革にはさまざまな切り口があるが、論者は学生の気持ちにもっと思いを巡らせるべきかもしれない。
(文=編集委員・山本佳世子)

キーワード「私立大の公立化」
Q 私立大学の公立化の背景は。

A 私大は少子化で志願者確保に悩んでいる。しかし大学が閉鎖されると地域から若者が減り、地方自治体は活気がなくなってしまう。商店街など学生向けのビジネスや、学生を採用したい地元企業など不安を持つ関係者は多い。これに対して開学時の土地・建物を自治体が提供した場合などで、公立化が選択肢になる。

Q 具体的にどう変わるのか。

A 大学の運営費交付金として、自治体から経常費補助を受けるようになり、財政状況が大きく改善する。そのため学費も約半分など低く設定でき、全国から多くの学生を集められる。一方、教育・研究は自治体のメリットを意識したものがより重視される。

Q 批判は。

A 私立大は国から、運営費の1割程度の私学助成金しか受けていない。一方、公立化で自治体の支援を受けるといっても、財源は総務省による地方交付税交付金だ。民間は経営が厳しければ撤退するものなのに、新たに国の税金を使って救済している面がある。近年、公立化の事例が増えて問題になってきている。