中国・北京の天安門広場と人民大会堂(出所:Wikipedia)


 中国政界の人事予想は外れることが多い。しかし、3月の「両会」、すなわち全国政協と全人代で選出される指導者人事は昨年(2017年)11月の党大会で事実上決定されているから、予想外の人事はありえない。政治局常務委員会の序列に従えば、習近平総書記の国家主席、李克強の国務院総理、栗戦書の全人代常務委員長、汪洋の全国政協主席、そして韓正の常務副総理がその“定石”となる。

 そうした国家機関の人事の大枠を決める党19期第2回全体会議(2中全会)が、1月18〜19日に開催された。

 2中全会では、人事以外に憲法の修正も議題とされ、第19回党大会で改正された党規約に盛り込まれた「習近平の新時代における中国的特色ある社会主義思想」が憲法にも書き込まれることが決まった。巷間取り沙汰された「国家主席の任期を2期10年に限る」という憲法条項の改廃は見送られたようである。この条項を変更するのは、次の第20回党大会が開かれる2022年に、習近平が党総書記に3選されてからでも遅くはないからだろう。

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国際的名声がある王岐山

 さて、従来は「両会」で決まる人事には、さほど注目は集まらなかった。今回も、すでに述べたように国務院総理、全人代常務委員長、全国政協主席、常務副総理は確定済みであって、大勢に影響するような人事案件は見当たらない。しかし、従来とやや事情が異なるのは、「国家副主席」と「国務院副総理」の人事が注目されていることだ。

王岐山(出所:)


 目下、中国関係ニュースメディアで国家副主席候補の最右翼に位置づけられているのは、党大会で中央政治局常務委員を退いた王岐山である。王岐山は退任後も中央政治局常務委員会の会議に出席していることが確認されており、今後完全に公務から外れるとは予想されていないことから、国家副主席への就任が有力視されている。

 王岐山は党中央紀律検査委書記として習近平の反腐敗キャンペーンを支えたことで、習近平の権力強化に最大級の貢献をした。その王岐山が69歳という年齢によって、「七上八下(再任は67歳まで)」という内規で退任を余儀なくされた。しかし、王岐山の功績に加え、その前職であった国務院副総理時代に築いた国際人脈を考慮すれば、そのまま引退させるには惜しい人材ということになる。

 昨年の党大会開催前に、王岐山はシンガポールのリー・シェンロン首相や、トランプ米大統領の側近であったスティーブン・バノン前首席戦略官と相次いで会談した。党中央紀律検査委書記が外国の要人と会談するのはもとより異例である。ともに相手方のリクエストによってセットされた会談だということであれば、王岐山の国際的名声の所産ともいえる。

 その王岐山を国家副主席として外交面で活用するのは魅力的なアイデアかもしれない。米国のブッシュ・ジュニア政権のときのディック・チェイニー副大統領が積極的な外交的役割を果たし「史上最強の副大統領」と称されたケースがあるが、それに似たイメージだろうか。

 ただし、中国ではもともと国家副主席のポストは、大雑把に言えば名誉職あるいは次期首班への待機ポストであった。習近平も、その前任の胡錦濤も待機ポストとして国家副主席を経験してきた。そうだとすれば、王岐山が国家副主席に就任する場合、これまでとは全く意味合いの違う役割が期待されることになろう。それが上述したような外交面での習近平主席を補佐する役割かもしれない。

王岐山の国家副主席登用は無理筋?

 王岐山は立場的に言えば、ヒラの党員に過ぎない。しかし、王岐山が今後も中央政治局常務委員会会議への出席が合法的あるいは超法規的に認められるならば、彼の影響力を維持するために、それなりのポストに就く可能性があるわけで、それが国家副主席ということなのであろう。

 だが問題は、ことがそう簡単ではないところにある。中国の国家副主席は、米国の副大統領とは違う。中国の国家主席は、中国共産党総書記が兼ねるから権威がある。ヒラの党員が国家副主席に就いたところで、その権力の源泉はなにもない。国家副主席が指揮する下部組織もない。王岐山が国家副主席になった場合、その権限の拠り所は、習近平の「支持」しかない

 王岐山が有能な人物であることは疑いないし、その彼を引退させるのは惜しいという考えも首肯できる。しかし、だからといって国家副主席にして習近平を補佐するという構図は短絡的すぎるのではないか。

 というのも、王岐山が外交面で存在感を示せば、外交部をバックとする楊潔篪国務委員や王毅外相など中国外交を担う責任者が霞んでしまいかねないからだ。楊潔篪は現職の党中央政治局委員だが、政治局常務委員を経験した王岐山には位負けすることになる。結論として言えることは、王岐山を国家副主席に登用するのは無理筋だということである。

胡春華は副総理か、国家副主席か

 もう1つの注目人事である「国務院副総理」について言えば、問題は胡春華・前広東省党委書記の処遇に絡む。胡春華は胡錦濤前主席の系譜を引く共産主義青年団(共青団)系のホープであり、習近平の後継者候補とも目されていた。だが、昨年の党大会で政治局委員に留め置かれ、現在は副総理候補の1人に位置づけられている。

 副総理ポストは、1998年以後は4名で構成されている。うち1名は総理の代行任務も含めた常務副総理であり、現在は党中央政治局常務委員の序列7位である韓正がそのポストにある。残り3名は党中央政治局委員の中から選出される。

 副総理候補として巷間名前が挙がるのは、習近平の経済ブレーンとして著名な経済・金融担当の劉鶴、前任の劉延東を引き継ぐ文化・教育担当の孫春蘭、それに加え、恐らく汪洋の任務を継承し農業、通商を担当する胡春華といったメンバーである。

胡春華(出所:Wikipedia)


 この3名がそのまま副総理に任命されれば特段の問題はない。ただし、外交担当の国務委員である楊潔篪が党中央政治局委員になったことで、銭其琛(1993-2003在職)以来の外交担当副総理就任の可能性も取り沙汰されており、そうなれば副総理は計5名ということになる。ちなみに、銭其琛が副総理在職時も副総理は4名体制だった。そこで副総理の人員枠を4名に抑える口実として、牽強付会の誹りを恐れずに言えば、また王岐山以外の人物を国家副主席に配さざるをえないという仮定で議論すれば、胡春華の国家副主席就任が習近平にとって最も心が安らぐ人事ではないかと勝手に想像したくなる。

 広東省党委書記として経済発展に辣腕を揮った胡春華が有能であることは疑いない。彼が副総理になって与えられた任務を立派にこなすことも予想に難くない。しかし、それでは困るのが習近平である。自分より若い世代の胡春華がライバルとして台頭すれば自分の権力を永続化させる上で障害となりかねない。だから、胡春華を国家副主席に「棚上げ」し、いわば飼い殺しにするのが習近平にとって合理的な選択となる。これは、国家副主席の「前任者」である李源潮の置かれた立場とも重なることになる。

 政治の世界は冷酷であり、中国の場合はなおさらであると考えるならば、そのようなシナリオも織り込んで考えるべきではなかろうか。

筆者:阿部 純一