日本貿易振興機構(JETRO)が2017年12月に発表した「2017年度在ロシア日系企業活動実態調査」(注)によると、ロシアで活動する日系企業は、ロシアのマクロ経済の回復に伴い市場の回復を実感している。

 同時に、ロシアでのビジネス展開を進める中で、これまでとは違った新たな課題にも直面しつつある。

 ロシアビジネスの苦労というと通関や許認可手続きというのが一般的だが、今回の調査では少し様子が違っている。経済の現状を横目で見つつ在ロシア日系企業の市場の見方と直面する課題を紐解くと――。

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経済は2016年に底打ち、着実に回復

 2015年にマイナス2.8%と大きなマイナスだったロシア経済だが、2016年には早くも底打ちとなった。

 同年の経済成長はマイナス0.2%と2年連続で停滞したが、2016年第4四半期には前年同期比0.2%のプラス成長となり、その勢いは17年に入っても持続している。

 2017年の第1〜3四半期の実質GDP成長率(前年同期比)は、それぞれ0.5%、2.5%、1.8%と堅調な回復を見せている。

 ロシア経済発展省は、2017年〜19年の経済成長見通しを2%台前半と予測している。IMF(国際通貨基金)、世界銀行などの国際金融機関も、最新時点の経済成長予測で、ロシアの成長率を上方修正している。

 経済回復とともに、ロシア経済けん引する重要な要素である内需、特に消費に明るさが戻っている。

 給与所得が回復していることに加え、家計向けのローンの貸し出しが拡大していることもある。ロシアにおける自動車販売台数の回復もこれを裏づける。

 モスクワにある欧州ビジネス協会(AEB)によると、2017年のロシア国内の新車販売台数(小型商用車を含む)は前年比1.9%増の160万台と、5年ぶりに前年を上回った。

営業利益黒字見込みが過去最高に

 マクロ経済の明るさを背景に、ロシアで活動する日系企業は景気の回復を実感しつつある。日系企業活動実態調査では、2017年の営業黒字を見込む在露日系企業は回答企業全体の66.3%と過去最高を記録した(下の図)。

 営業利益が改善したとする企業も前回調査に比べ増えている。利益改善の要因として指摘されるのは「現地市場での売上増加」。全体の8割近くがそう回答している。ここからも、ロシア経済と市場の回復が伺える。

 また、製造業では「輸出拡大による売上増加」や「生産効率の改善」も営業利益改善の理由として指摘されており、景気回復とともに現地での経営改善が奏功したとみられる部分もある。ちなみに、2018年の営業利益も明るい見通しの傾向が強い。

 これまで慎重な見方が強かった中期的な見通しについても改善傾向にある。

 今後1〜2年後の事業展開に関しては、2013年以降下げ続け、2015年には「拡大」とする回答は過半数を割り込むにまでになった。

 2016年は51.8%にまで回復し、今回はさらに10ポイント近く上昇し60.9%が拡大見通しと回答した。これまでは営業利益に代表される足元の景況感が先行して回復していたが、中期的にも明るさを見出すところが増えてきたのだ。

伝統的な「リスク」は低下傾向

 経営上の課題(リスク)として指摘されるのは、通関手続きと為替レートの変動という、いわば「伝統的」なものだ。特に通関手続きの不備を指摘する声は根強く、過去の調査でも毎回上位を占めている。

 前回までは低下傾向だったが、今回は再び上昇した。根本的な解決には依然、時間を要するとみられる。

 為替レートに関しては、依然としてルーブル為替レートの変動(ルーブル安)をリスクと指摘する声は強いが、前回、前々回の調査と比べると低下している。

 ルーブルは原油価格に強く連動する性質があるが、2017年はおおむね50〜60ドル(北海原油スポット価格)と比較的高く推移。これがルーブル高につながった。

 製造業では部品を、また非製造業では販売する製品を輸入するため、ルーブルが高くなることはルーブル建ての輸入価格が下がり、コストの削減、価格競争力の強化につながる。これが日系企業の活動にも好影響を与えた形だ。

市場回復ゆえの新たな課題も

 その一方で、新たな課題も浮き彫りになっている。

 それは「競合相手の台頭」と「人材の採用難」だ。

 販売・営業面での課題を見ると、2016年までの回答では「主要販売市場の低迷(消費低迷)」が最大の課題とされてきたが、2017年はこれが多きく減少した。

 市場が回復する中でライバル企業も攻勢を強め、ロシア市場内部での競争が激化してきた形だ。

 雇用・労働面での課題では、人材の採用難との回答が急増した。

 製造業では技術者の、非製造業では中間管理職ポストの採用難との声が強い(ぞれぞれ前回に比べ7.8ポイント、9.4ポイント上昇)。採用難に伴い、賃金上昇も強く意識されている(同9.6ポイント上昇)。

 これらの結果を見ると、景気回復は新たな課題を浮き彫りにしつつも、「伝統的な」ロシアビジネスでの苦労というものは徐々に取り除かれつつあり、他国と同じような課題・リスクが浮かび上がってきたようにも見える。

 ロシア市場には特有の難しさはあるが、そこばかりに目を奪われるとロシアの潜在性を見逃すというリスクが生まれる恐れもあろう。

(注)2017年10月〜11月にかけ実施。ロシア全土の日本人駐在員のいる106社にアンケートを送付し、92社から回答を得た。

筆者:梅津 哲也