民主党政権が「地球にやさしいエネルギー」として導入し、急成長した再生可能エネルギーが、曲がり角に来ている。新規参入の激増で設備過剰になり、それを接続する送電線が足りなくなったのだ。

 ところが朝日新聞によると「基幹送電線は利用率2割」だという。もしこれが事実なら、電力会社は送電線を過大に占有して再エネを妨害し、送電線を8割も浪費していることになるが、それは本当だろうか。

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電力の「使用率」は100%近い綱渡り

 常識的に考えて、高価な送電線が2割しか使われないということはありえない。朝日新聞は「大手電力がいう『空き容量ゼロ』は、運転停止中の原発や老朽火力も含め、既存の発電設備のフル稼働を前提としており、実際に発電して流れた量ははるかに少ない」というが、これは誤りだ。

 この記事が根拠にしている安田陽氏(京大特任教授)の計算では、電力10社の「1年間に送電線に流せる電気の最大量に対し、実際に流れた量」の比率を送電線の「利用率」と定義しているが、こんな数字は普通は使わない。

 東京電力のピーク時の使用率はぎりぎりで、最大発電量の100%近くになる。これは危険な綱渡り状態で、先週の寒波では、他社から電力を調達してしのいだ。電力の使用率がぎりぎりなのに、朝日新聞のいう「利用率」が2割しかない原因は、基幹送電線が二重化されているという事実を朝日が知らない(あるいは無視した)ためだと思われる。

 基幹送電線には並行して予備の回線があるが、普段は使わない。事故でメインの送電線が使えなくなったときは予備回線を使うが、それは送電容量には含まれない。発電所がフル稼働しても、送電線の「利用率」は50%なのだ。これはもったいないように見えるが、基幹送電線に事故が起こると大規模停電になるので、国際的に決まっているルールだ。

 安田氏はこの予備回線を分母に入れて「電力10社の利用率は平均19.4%」と発表したが、彼は株式会社・日本風力開発の関連会社役員であり、中立の研究者ではない。電力インフラがギリギリのとき「電力会社が原発で送電網を無駄づかいしているから再エネによこせ」という朝日新聞の報道は、悪質な印象操作である。

電力会社に「ただ乗り」してもうけた再エネ業者

 この背景には、再エネ業者の苦境がある。2012年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)では、当初は太陽光発電の電力を42円/kWhで電力会社が20年間、買うことになった。最初に太陽光発電所を大量につくったソフトバンクなどの再エネ業者は、20年間も利益を保証されて大もうけした。

 この電力は電力会社が20円ぐらいで売り、差額は電力利用者に転嫁された。そのコストは昨年だけで2兆1000億円。このまま放置すると、総額50兆円に達するという推定もある。それは電気代という逆進的な「税金」として国民負担になる。

 再エネ業者は、発電の利益は政府が保証してくれるので大もうけしたが、ボトルネックは送電線である。今までは電力会社のインフラにただ乗りしてきたが、新たに建設される送電線はオークションで費用負担が決まる。

 朝日の記事によると、風力発電業者が秋田県に100万kWの洋上風力発電所を建設しようとしているが、東北電力は「空き容量ゼロ」だとして、送電線増強費用の負担を求めたという。これに対して再エネ業者が、マスコミを使って「送電線は空いている」というキャンペーンを張っているわけだ。

 予備の送電線が空いていることは事実だが、それは無条件で使えるわけではない。送電線は各電力事業者に先着順で割り当てられ、電力会社の回線は既得権だ。送電量が100%を超えたら、大規模停電が起こるリスクがある。

 インフラを占拠しているのは再稼動していない原発や、設置して休眠している太陽光・風力発電所だが、原発の過剰設備は再稼動すればなくなる。休眠している業者の既得権を剥奪する権限は電力会社にない。

 そこで予備回線を新しい業者に割り当てようという案が出ている。これは既存業者に優先的な接続権を与え、再エネ業者の送電は事故のときは止めるもので、イギリスなどで採用され、コネクト&マネージと呼ばれている。

 これは経済産業も検討しているが、送電線を150%割り当てたとき、事故が起こって1回線が使えなくなったら、どの発電業者の送電を止めるのか。予備回線なしで大規模停電は防げるのか。ただでさえ原発が止まって不安定な電力インフラが、ますます不安定になるのではないか。

いびつな「電力自由化」を見直せ

 再エネ業者が過当競争になったもう1つの原因は、電力自由化で供給責任を負わなくてもよくなったことだ。電力業界は発電と送電が一体の垂直統合産業で、政府が総括原価主義で経営を守る代わりに、電力会社に供給責任を負わせた。

 世界的な電力自由化の潮流の中で、経産省は発送電分離しようとしたが、電力業界の政治力が強いため挫折した。それを原発事故で電力業界が弱ったチャンスに実現したのだ。自由化は一般論としてはいいことだが、原発のほとんどが止まって大きな供給不足が起こっているとき発送電を分離したため、市場原理が機能しない。

 再エネ業者は送電インフラにただ乗りする一方、電力会社は供給責任を負って莫大な赤字を出し、それを政府が補填するいびつな構造になった。数十兆円の最終的な負担は、電力利用者と納税者が負う。

 再エネの普及もいいことだが、日本の状況は行き過ぎだ。太陽光パネルの技術進歩は予想以上に速く、中国が激安のパネルを世界に輸出したため、最近は単価が3円/kWhまで下がった。FITをやめてオークションに切り替えたドイツでは、調達価格は6円/kWh程度に下がった。これは火力や原子力より安い。

 技術進歩を促進するというFIT補助の初期の目的は達した。日本の太陽光パネルの導入量は、世界第2位だ。もう高値で買い取る必要はないのだが、日本のFIT買い取り価格は今も21円とドイツの3倍以上だ。日本政府も出力2000kW以上の買い取りにはオークションを導入したが、それを上回る価格で応札する業者がいないため不調に終わった。

 原発を止めたまま再エネを優遇した電力自由化は、電力供給を歪め、再エネ業者に過剰なインセンティブを与えて、莫大な国民負担を招いている。早急にFITを廃止し、自由化を見直して電力業界に市場原理を取り戻すべきだ。

筆者:池田 信夫