安倍晋三首相(写真:AP/アフロ)

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 2018年で30年目を迎えた「平成」。平成31年となる2019年には4月30日に天皇陛下が退位され、新天皇が即位すると同時に新たな元号への改元が行われる。「ポスト平成」時代の幕開けだ。

 いうまでもなく、平成の時代はバブル崩壊とともにあった。日経平均株価が史上最高値となる3万8915円を記録したのは、1989年(平成元年)12月末のことだ。その後、バブルは弾けて日本長期信用銀行や山一證券などの大手金融機関が破綻するなど、日本経済は「失われた20年」に突入した。2000年代からはデフレスパイラルにも陥っている。

 しかしながら、今年1月には約26年ぶりに株価が2万4000円台を回復するなど、デフレ脱却のきざしが見え始めている。すでに景気回復局面は高度成長期の「いざなぎ景気」を超えており、戦後2番目の長さを記録している。

 今後、日本経済はどう動くのか。また、日本を取り巻くリスクと新たな秩序とは何か。1月31日に『ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0』(徳間書店)を上梓した経済評論家の渡邉哲也氏に聞いた。

●東京五輪&大阪万博の実現で高度成長期の再現へ

――2017年12月で丸5年を迎えた安倍晋三政権をどう見ていますか。

渡邉哲也氏(以下、渡邉) この5年で株価は大きく上昇しました。1万395円(2012年12月末)から2万2764円(2017年12月末)と実に2倍以上になっています。また、その年の株式相場を占う新年の大発会は741円39銭高の2万3506円33銭となり、大発会の上げ幅としては1996年(749円85銭)以来、株価としては1992年1月9日以来の高値を記録しました。

 さらに、有効求人倍率は0.83倍(2012年12月)から1.59倍(2017年12月)まで高まっています。今や全都道府県で1倍を超え、バブル期の水準も上回っており、雇用情勢は確実に改善されているといえるでしょう。確かにアベノミクスには問題や改善点も多いですが、これまでのトレンドが大きく変わったことは間違いありません。

 右肩上がりの経済から縮小再生産の経済に、インフレからデフレに……というのが、この20年以上の流れでした。しかし、アベノミクスによって円高は円安に転じ、日本企業の業績は過去最高レベルまで復活しています。また、団塊世代の引退が進むにつれて人手不足が本格化していますが、これは失業率を押し下げるとともに非正規雇用の正規化や賃金の上昇を助けることになるため、雇用市場にとっては大きなプラス要因です。

 この5年で築き上げた「安倍1強」ともいわれる状況を経て、日本はどこに向かうのか。私は、2020年までに日本の新しい姿が見えてくるのではないかと考えています。

――2020年には56年ぶりに東京オリンピックが開催されます。

渡邉 まだ誘致の段階ですが、大阪府は2025年の国際博覧会(万博)開催を目指しています。かつて1964年に東京五輪が、1970年に大阪万博が開催され、日本は世界に国家としての繁栄を大きくアピールしました。再び東京五輪と大阪万博が揃って開催されることになれば、高度成長期の再現ということになります。

 また、今秋には秋篠宮家の長女・眞子さまのご婚礼が行われます。そして、2019年には天皇陛下の譲位に伴う改元、秋にはアジア初開催となるラグビーワールドカップが行われ、2020年には東京五輪です。アベノミクスでもっとも回復が遅れているのが消費面ですが、これらの慶事やイベントが続くことで、人々の心持ちや消費マインドが前向きになることが予想されます。

●「ポスト平成」は脱デフレの時代に

――安倍政権が目指す憲法改正も、2020年までの実現が取り沙汰されています。

渡邉 政治的にも、2019年には統一地方選挙と参議院議員選挙が行われます。同時期に改憲が実現すれば、日本は名実ともに新たなフェーズに突入することになるでしょう。いずれにせよ、この2〜3年はさまざまな面で節目や区切りを迎え、時代の大きな転換点といえます。

――「ポスト平成」はどんな時代になると予想されますか。

渡邉 かつてのバブルほどではないですが、人々が再び夢や希望を持てるような世の中になるのではないでしょうか。デフレはモノの値段を下げて企業の収益を減少させますが、「失われた20年」でもっとも失われたのは市井の人々の夢や希望だったのではないかと思います。

 真綿で首を絞められるように悪化し続ける経済状況において、企業はリストラとコストカットを余儀なくされ、個人は浪費を抑制するようになりました。その結果、消費マインドは一気に落ち込み、さらにデフレを加速させる要因となっていったのです。

 そんな状況で「大きな希望や果てしない夢を持て」というほうが無理でしょう。しかし、夢や希望がなければ未来に向けての投資は進まず、国家の繁栄にもつながりません。そして、ようやくデフレからの脱却と右肩上がりへの転換が見え始めたなかで、激動だった平成が終わる。これには大きな意味があると考えます。

●2018、世界最大のリスクは「中国の覇権拡大」

――日本が転換点を迎えるなか、世界情勢はどう動くのでしょうか。

渡邉 世界は、かつての冷戦の時代に逆戻りしています。「自国第一主義」を貫くアメリカと、そのアメリカとの間で「新型大国関係」を模索する中国による、新たな冷戦がすでに始まっています。そこに、北朝鮮や中東などの偶発的なリスクがからみ合ってくるため、先の見えない混沌とした状況が続いているわけです。ヨーロッパ連合(EU)による統合を目指していたヨーロッパも、2019年3月までにイギリスがEUから離脱するなど、分裂と混乱が収まりません。

 2018年は、世界経済の転換点となったリーマン・ショックから10年という時期です。この10年は、換言すれば米中による覇権争いが続いた10年でもありました。リーマン・ショックによってアメリカの弱体化があらわになり、そこにつけ込むように中国が大きく存在感を高めていったのです。

 2012年に発足した習近平政権は、「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)などアメリカの一極支配を崩すような政策を打ち出し、南シナ海では軍事拠点化を進め、東シナ海では尖閣諸島沖で領海侵犯を繰り返したり強引な資源開発を行ったりしています。

 アメリカの調査会社であるユーラシア・グループが2018年の世界における10大リスクを発表していますが、1位は「中国は真空状態を愛す」というものです。表現が独特ですが、これは国際的にアメリカの存在感が低下する間隙(真空状態)を縫って中国が影響力拡大に動く状況を表したものです。ちなみに、2位は北朝鮮やシリアにおける「偶発的なアクシデント」、3位は「世界的なテクノロジーの冷戦」となっています。

――その中国では、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が共産党規約に盛り込まれ、憲法にも明記される予定です。

渡邉 党規約に個人の名を冠した思想が入れられるのは、中国建国の父である毛沢東氏と改革開放で近代化を成し遂げたトウ小平氏以来の出来事です。「習近平思想」はいわゆる“先祖返り”的な思想であり、今後はさまざまな分野で社会主義的要素が強まることが予想されます。

 しかし、中国経済がすでに行き詰まっていることは周知の通りです。2015年夏の株式バブル崩壊を金融規制と大規模な資金供給などで乗り切りましたが、ダブついたマネーが不動産バブルを引き起こし、今は高すぎる不動産価格と多すぎる不動産建設計画が大きな問題となっています。不動産市場は供給過剰の状態が続いており、「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが至るところに生まれているのです。

 2017年12月には、人民元市場で越年資金をめぐるクレジットクランチ(信用収縮)が発生していますが、中国経済がハードランディングすれば世界的なリスク要因となることは必至です。

●米国、輸入制限で中国製太陽光パネルを狙い撃ち

――政治的にも経済的にも、中国が世界のリスクとなり得るということですね。

渡邉 北朝鮮問題の陰に隠れてはいますが、ドナルド・トランプ政権発足当初の世界の最大の懸念は米中による経済摩擦でした。この流れは今も続いています。

 先日、アメリカは太陽光パネルと洗濯機を対象に、米通商法201条に基づく緊急輸入制限(セーフガード)を約16年ぶりに発動しました。太陽光パネルは中国企業、洗濯機は韓国企業を狙い撃ちにしたものとみられています。これにより、一定量以上の輸入に対して太陽光パネルは関税が最大30%引き上げ(今後4年間)、洗濯機は同じく最大50%引き上げ(今後3年間)られます。

 また、EUも中国のダンピング(不当廉売)製品の排除に動いています。2017年12月にEU域内で販売される輸入品がダンピングか否かを認定するための新たな貿易ルールを発効させたのです。これにより、政府による市場介入で「市場価格が著しくゆがんでいる」と判断した国などに対して対抗措置を取りやすくなります。同ルールの最初の標的になったのは中国です。

 2018年も、覇権拡大に動く中国を欧米が押さえつけるという構図は続くでしょう。
(構成=編集部)