デビューシングル発売記念イベントを開催した、「ラストアイドル」の、左から古賀哉子、長月翠、大石夏摘、阿部菜々実、吉崎綾、安田愛里、鈴木遥夏=2017年12月19日(写真:日刊スポーツ新聞社)

2017年末、アイドルグループの「乃木坂46」が第59回日本レコード大賞を受賞した。NHK紅白歌合戦をはじめ、年末年始の音楽番組では乃木坂46に加え、姉妹グループの欅坂46、そしてAKB48も同様に多数の番組に出演した。

いずれも作詞家・秋元康がプロデュースするアイドルグループだ。特に乃木坂46、欅坂46はCDセールスやライブの動員数、人気メンバーの写真集売り上げなど、2017年に飛躍的な伸びを見せた。

その陰で新たに動き出した「秋元プロジェクト」がある。アイドルグループ「STU48」「ラストアイドル」「劇団4ドル50セント」の3つだ。

STU48は瀬戸内地方七県を拠点とするアイドルグループでAKB48の姉妹グループだが、残り2つはAKB48を中心とする「48グループ」でもなく、乃木坂46と欅坂46の総称である「坂道グループ」でもない。

ラストアイドルは過酷なオーディションを勝ち抜いたアイドル、劇団4ドル50セントは従来の路線から大きく外れる劇団だ。このうちCDが売れない時代に圧倒的な売り上げを誇る48グループ、坂道グループのノウハウがつぎ込まれたラストアイドルについて、ウェブメディア編集長としてコンテンツビジネスを扱う立場から、「AKB商法」と揶揄されながら次々とアイドルをヒットさせる秋元氏のビジネスモデルに迫ってみたい。

ラストアイドルという最終進化

AKB48は当初わずか7人の観客から東京ドームで公演するまで成長した。AKB48の成功を一言で表せばこのようになるが、成長の原動力になったものが握手会と総選挙といえよう。

「会いに行けるアイドル」というコンセプトでデビューしたAKB48にとって握手会と総選挙はその象徴といえるイベントでもある。そこで行われていることはただの握手や人気投票ではなく、ファンを巻き込んだ競争だ。はっきりと人気・序列が示されることで、メンバーにとってその後の仕事はもちろん、給料にも結果は反映されるという。そして運営スタッフや仕事を依頼する各種メディアにとっては誰をキャスティングすればより売れるかを確認するリサーチの場でもある。

2017年8月に始まったオーディション番組「ラストアイドル」は、このようなAKBシステムをさらに進化・激化させた。この番組は秋元氏のプロデュースで「究極のアイドル」を作ることを目的に始まった。番組開始にあたって約5000人の応募者からオーディションで選ばれたのは、後に番組と同名のアイドル「ラストアイドル」としてデビューする「暫定メンバー」だ。

7人の暫定メンバーは毎週の放送で、同じくラストアイドルとしてデビューしたい挑戦者と1対1のオーディションバトルに臨む。審査の結果、挑戦者が勝てば暫定メンバーと入れ替わる。つまり暫定メンバーは防衛する立場であり、勝った挑戦者もまた次回の放送から同じく防衛する立場となる。そして最終的に勝ち残ったメンバーがデビューする。

審査員は話し合いではなく毎回1人が指名され、たった1人のジャッジで結果が決まる。この手法は話し合いで尖ったアイドルは生まれないという秋元氏のアイデアだという。

荒れるファンと混乱する暫定メンバー

なんとも無茶なシステムだが、当然のごとく番組は毎回のように荒れた。暫定メンバーとはいえ放送を重ねればそれぞれにファンも付く。審査結果に納得のいかないファンは審査員を批判することでたびたび炎上騒動も起きていた。メンバーもまた入れ替わりがあるたびに動揺を繰り返す。

筆者が初めてラストアイドルの姿を見た時は、なんだかサイズの合わない衣装を着ているなあ……と変なところが気になってしまったが、その理由は後になってわかった。衣装は7人分しかなく、入れ替えによってどんな体型の人が着るかわからないため暫定メンバーの体型に合わせて作っていないことが理由だという。

もともと在籍していたメンバーから見れば、入れ替わった挑戦者は暫定とはいえ仲間を倒して入ってくる異物だ。番組では放送開始時点ですでに完成していたデビュー曲「バンドワゴン」を毎回披露するが、入れ替えがあった場合は30分前に挑戦者だった人がすぐに暫定メンバーとしてデビュー曲を披露する(入れ替わりに備えて挑戦者には事前に曲のフリなどをある程度練習させているという)。

番組収録は一度に複数回分を行う都合からこのような流れになるわけだが、ついさっきまでの仲間が立ち去って挑戦者が加入する状況に、メンバーは強く戸惑う。番組が回を重ね、センターとしてグループの顔を務めていた暫定メンバーが番狂わせで負けた時には、過去に挑戦者として入れ替わったメンバーまで「現実……?」と混乱を口にする。別の暫定メンバーは勝った挑戦者に「がんばりましょう。気まずいけど……」とやっとの思いで声をかける。

ラストアイドルは数回のメンバー入れ替えを経て12月20日にシングルCD「バンドワゴン」でデビューしたが、なぜこのようなシステムとなったのか。それはただ可愛くて歌と踊りのうまいアイドルが求められていない、あるいはそうしたアイドルは少なくとも爆発的に売れないことがハッキリしているからだ。

AKB48の人気が出始めたころは韓流ブーム真っ盛りで、「KARAのほうが可愛いしスタイルも良いし歌もうまいし、なんでAKB48のほうが人気があるのか?」という比較も散々聞かれた。

当時その説明に使われたのが「コンテクスト(文脈)」という表現だ。

AKB48のメンバーを初めて見た人にとっては、誰が誰だか見分けもつかずそれぞれのメンバーが飛びぬけたスキルを持っているわけでもない。一方でKARAは韓国の芸能界の手法として、デビュー前から徹底的なレッスンを受けレベルの高いパフォーマンスを披露する。つまり誰が見てもわかりやすい。

しかし、一度AKB48のファンになった人はメンバーの一人ひとりが異なる背景を持ち、異なるストーリーを抱えていること、つまりコンテクストを理解する。それは日々変化し自らの応援で握手会の人気や総選挙の順位に関与できる。文脈を理解することでファンはそのストーリーに参加し、応援するアイドルは歴史を積み重ねていく。こうしてごく普通の女の子が(ファンにとっては)目が離せない存在となっていく。

ラストアイドルはその歴史の積み重ね、つまりファンが応援するべき文脈・ストーリー作りを短期間で行うシステムだったといえる。

デビュー曲のバンドワゴンもまた、夢を追いかけて過酷なオーディションを勝ち抜きアイドルになるというストーリーを、ドラマチックに盛り上げる役割を担う。ファンが楽曲に共感する時、それはラストアイドルに共感することとイコールだ。そしてラストアイドルはこの楽曲を身に纏う事で生身の人間でありながらコンテンツとなる。この手法もまた秋元プロデュースのビジネスモデルであり、徹底してアイドルの存在をコンテンツ化させる。

思い付きから生れたラストアイドルファミリー

過酷な入れ替え戦で感情をむき出しにして戦う様子はファンの心をつかんだ。そこに秋元マジックが更に加わる。負けた挑戦者と、負けた暫定メンバーで別のグループ、つまりセカンドユニットを作ることが番組開始後に発表された。これはかつてのオーディションバラエティ・ASAYANで落選組によって結成された「モーニング娘。」を彷彿とさせる。

本来であれば「負けたら終わり」という緊張感をなくすことは番組にとってマイナスに見える。ただ、メディアのインタビュー記事などによれば、秋元氏はプロ同士の戦いを想定していたはずが、夢を持った少女がまるで血を流して殴り合うような状況をテレビで放送するのはさすがに残酷すぎる、アイドルを目指すことが夢を持てないように見えるのはよくないと、急遽初回の収録を見てセカンドユニットの結成を思いたったという。

結果的にラストアイドルと「落選組」で結成された4組のセカンドユニットで、総勢5組・25人の「ラストアイドルファミリー」が生まれた。コンテクストという観点から見れば、25人はそれぞれ25通りの「因縁」を抱えてデビューする。これはAKB48など多人数アイドルの成功体験がベースになったと思われる。

21世紀で一番売れた写真集

昨年、21世紀で一番売れたと言われる写真集が生まれた。それが乃木坂46の人気メンバー・白石麻衣さんの写真集『パスポート』で、20万部を超えていまだに売り上げを伸ばしている(発売は2017年)。そして初版が12万部でパスポートよりも多いと話題になり、現在では15万部の売り上げを突破した写真集もある。欅坂46・長濱ねるさんの写真集『ここから』だ。乃木坂46は他のメンバーの写真集も爆発的に売れて2017年には写真集ランキング上位をほぼ独占している。

いずれも秋元プロデュースのグループであることに驚くばかりだが、これは偶然ではない。白石さんや長濱さん個人のファンだけの購入で売り上げはここまで増えることは考えにくい。執筆時点で乃木坂46は卒業生を除いて45人、欅坂46は41人(ひらがなけやきと呼ばれる「けやき坂46」を含む)と、多数のメンバーが在籍している。特定のメンバーだけを「推す」ファンもいれば、複数のメンバーを応援するファンもいるだろう。

結果的に多人数のグループアイドルのメリットとして、1人が出した商品にはグループ全体のファンにも需要を喚起することで売り上げが爆発的に増える。これはAKB48の卒業生が人気メンバーだった人でもパッとしない、と言われてしまう状況の裏返しとも言える。

ラストアイドルを7人のグループで終わらせずにAKB48や乃木坂46にならってファミリーとして多人数のアイドルにすることはメリットにつながると秋元氏が考えたであろうことも自然な流れだ。

TV番組としての「ラストアイドル」はメンバーのオーディションをいったん終え、2018年からは5組のグループがそれぞれプロデューサーを迎えてセカンドシングルの表題曲をめぐって競う。

48グループも坂道グループも、グループ内でチームが分かれていたり、選抜とアンダー、正規メンバーと研究生などさまざまな区分けがなされていたりする。いずれもグループ内に小さなグループや垣根があることで競争を促進する仕組みだが、ラストアイドルファミリーも同様のスタイルをさらに進化させている。

ラストアイドルは2018年の年明けからセカンドシーズンと銘打ってオーディションバトルからセカンドシングルの争奪戦へと移行したが、引き続き競争が継続される。この手法は大グループとしての団結力とグループ内の対抗心を併存させる巧みなノウハウだ。このような手法がファンを強く引き付ける。

ラストアイドルはデビューシングルの売り上げがビルボード週間ランキングで4位、売上枚数で4万7384枚(初週のみの数字)とAKB48や乃木坂46にはまだ遠く及ばないが、秋元プロデュースの最先端にいるアイドルグループがどのような活躍をするか期待される。

一方、秋元プロデュースの手法は決して手放しで賞賛出来ない状況も見え隠れしている。多くの人が目にした大晦日のNHK紅白歌合戦でのトラブルだ。

紅白で見えた高校野球と秋元プロデュースの類似性

秋元氏はAKB48を高校野球に例えている。完成されたコンテンツを披露するのではなく、メンバーの成長を見せるスタイルだ。AKBなんてどこがいいの?という人は「高校野球なんてプロ野球よりヘタなのに何が楽しいの?」と言い換えれば、多分理解してもらえるだろう。単純に見ている部分が違うということだ。未熟であっても懸命に努力する人を応援する文化が日本にはある。

ただ、高校野球との類似性という意味で、どちらも同じ問題をはらんでいる。近年、高校野球へ向けられる批判が、真夏の甲子園で過密スケジュールの中で高校生に試合をさせて健康面は大丈夫なのか?というものだ。同じような構図が秋元プロデュースのグループにも見て取れる。

先日の紅白歌合戦では欅坂46のメンバーがパフォーマンス直後に過呼吸で倒れる場面があった。センターを務める平手友梨奈さんはコラボ企画で共演した内村光良さんから、パフォーマンスの最中にもかかわらず「大丈夫?」と声をかけられるほどフラフラになっている様子も放送された。

その後の報道では3人がパフォーマンスで過呼吸になっていたが無事回復したと報じられている。2017年に行われた全国ツアーでも平手さんは度々欠席や途中退場を繰り返していたという。そして年明けに発表された武道館コンサートも平手さんの怪我により欅坂46の出演はなくなり、ひらがなけやきと呼ばれる「けやき坂46」が3日間のステージを行う事がすでに発表されている。

ほかにも欅坂46は紅白前にメンバーの1人、今泉佑唯さんの休業も発表している。これも体調不良によるものだが、休業から回復して再度の休業ということで短期間に2回目となる。このような状況にファンも大いに心配しているのではないかと思われる。

体調不良とアイドル活動がどこまで関係あるのか。多忙や疲労だけが原因なのか、あるいは何か別の病気や怪我が原因なのか、報道の範囲ではわかりかねる部分も多いが、まったく無関係ということは考えにくい。

秋元プロデュースが克服すべき課題

観客目線、ビジネス目線で見ると秋元プロデュースのグループは極めて高度なコンテクストと引き込まれるストーリーを積み上げてファンを虜にする仕組みを作り上げている。一方でそれは欅坂46が見せた紅白でのトラブルやラストアイドルの入れ替え戦からもわかるように、メンバーの負担で成り立っていることもまた事実だ。

本来フィクションとしてのストーリーを現実に作り出すことでメンバーにとっては「毎日が甲子園」のような状況になっていると考えれば、その過酷さは容易に想像できる。

2017年でグループを卒業したAKB48の渡辺麻友さんはインタビューで、AKB48在籍中に最もつらかった事を問われて選抜総選挙をあげた。「毎年寿命が縮む怖さだった」と心境を吐露している。

総選挙は本来シングルCDの選抜メンバーを選ぶために行われる。内輪でのお祭り騒ぎに見えるかもしれないが、実際には前述のとおり順位がその後の仕事や収入に直結しており、当事者にとっては死活問題であることがわかる。秋元氏は自身の著書で、総選挙によるストレスに対応するためカウンセラー等でチームを組んでメンバーのケアに対応させていることも明かしている。

48グループや坂道グループでは度々体調不良を原因に休業や卒業するメンバーもいるようだ。当事者であるメンバーやスタッフ、そしてファンの方からこの状況がどう見えるかはわからないが、少なくとも部外者は安心して見ていられない。

秋元プロデュースのコンテクストを積み重ねる手法は当事者のストレスを避けられない構造があり、どのように折り合いつけていくのかまだ正解を見つけられていないように見える。ただ、ブラック企業の社長のようなことを言うつもりはないが、苦労の末に生まれるものがある事もまた事実だろう。ここは従業員とアイドルは様々な意味で同一視出来ない部分でもある。

モノが売れない時代に、コンテクストを積み重ねてファンを引き付ける手法は、顧客に対して自社の商品・サービスの「買うべき理由を作る」という意味で、エンタメ分野に限らず異業種でも大いに参考になるビジネスモデルだと言える。ただ、そこにはまだ克服すべき課題も残っている。

今後ラストアイドルはどのような活躍をするか、そして秋元氏の手法がどのように進化するか、目を引きつける展開が続くだろう。