Apple Pay第4の機能「Apple Pay Cash」を米国で試す:モバイル決済最前線
2017年12月初旬にリリースされたiOS 11.2により、米国にてAppleが提供を予告していたApple Payの新機能「Apple Pay Cash」が利用可能になった。これにより、iMessageとApple Payの仕組みを用いてユーザー間での送金が可能になる。

ただし現状では、まだ米国でのみ提供が行われているサービスであり、さらに当初はiOS 11.2を適用したユーザーであっても、使えるユーザーは限定されているという、いわゆる「ローリングアップデート」方式での導入だった(本稿執筆時点ではすでに導入完了)。

つまり開始こそ12月4日からとなっていたが、対象ユーザーは少しずつ広がっていき、最終的にターゲットとしている全ユーザーへの展開には2〜3週間程度を要したわけだ。

このApple Pay Cashは現在のところ、日本を含む米国外展開のロードマップは見えていない状態だが、機能自体は注目すべきものだ。今回は、改めて詳細をまとめて紹介したい。
▲iOS 11.2以降で利用可能になったApple Pay Cash。現在は米国在住ユーザーのみが対象

相互の利用者がセットアップ済みでないと

送金は不可能



さて、2017年6月、WWDC 2017で「Apple Pay Cash」が発表された直後に書いたレポート(下記記事参照)では、簡単に使える点が同サービスの特徴とまとめた。

当初アップル側の解説では、あわよくば「送金さえ受け取れれば誰でもApple Pay Cashが使える」ことを臭わせていたのだが、実際に使ってみると、ある程度の設定が必要であり、なおかつ送金機能を利用するユーザー全員がApple Pay Cashの導入を完了させている必要があった。

iOS 11の新機能「Apple Pay Cash」「NFC開放」を読み解く:モバイル決済最前線


Apple Pay Cashの初期設定に関しては、さして複雑ではない。ユーザーが利用可能な条件を満たしている場合、iPhone(あるいはiPad)のWalletアプリを開くと、同機能のセットアップを促すメッセージが表示される。あとは利用規約に同意するだけでアクティベーションが完了し、Apple Pay Cashの利用が可能になる。

ただしここからが問題で、iMessageで対象とするユーザーすべてがApple Pay Cashの設定を完了させていない限り、送金機能は利用できない旨のメッセージが表示され、送金できないのだ。

▲Apple Pay Cashの設定が完了しても、相手がまだ未設定だと送金はできない

相手が設定を完了しておりApple Pay Cashがアクティベートされていれば、初めてiMessageのメッセージウィンドウの機能アイコンにApple Payのマークが表示され、金額が指定できる仕組みとなっている。

使用が可能な相手の場合、金額の入力欄に加え、「Request」と「Pay」という2種類のボタンが表示される。Payは送金で、Requestはチャット相手に金額を指定して送金を促す機能になる。送金の際にはTouch IDまたはFace IDでの認証を行い、これが通れば処理完了だ。


▲相手の設定完了後にiMessageのウィンドウを再び開くと、送金金額が指定できるようになる。ここではTouch IDで認証し、Walletに登録したデビットカードから送金してみた

送金に利用するのは、Walletアプリで指定したクレジットカード、またはデビットカードということになる。デビットカードの場合は基本無料だが、クレジットカードの場合は3%の手数料が付与され、その旨が明細に記載される。

つまり、まとまった金額を安価に送金するにはデビットカードを使った方がいいというわけだ。

送金した金額は、相手のApple Pay Cashカードにプールされる。また、Apple Pay Cashカードで受け取った金額を再び送金することもできる。

この取引履歴はWalletアプリで確認できる。通常、クレジットカードなどのApple Pay決済においては金額と同時に利用店舗名が表示されるが、この送金機能の場合にはiMessageで同時に送ったメッセージが表示されるようになっている。

Walletアプリや通知メッセージの一部として表示されるので、明細代わりに「何のための送金」なのかを明示しておくといいだろう。


▲受け取った金額はApple Pay Cashのカードにプールされる。これを再び送金することも可能。その際のチャットでの発言が相手に通知メッセージとして表示される

なお、現状でApple Pay Cashを設定できる条件としては、「iPhone 6以降のデバイス(iPadを含むApple Payが利用可能なiOSデバイス)」「iOS 11.2以上」「米国」という3つのポイントがある。しかし、実際のところこの3つの条件を満たしても、必ずしも利用できるわけではないようだ。

例えば今回、米国でクレジットカード(デビットカード)を発行・登録しており、海外版Apple Payを利用できている筆者の周りのライター陣との間でテストをしてみたのだが、彼らのiPhoneのWalletアプリにはCashのセットアップ画面が最後まで出現しなかった。

言語設定やロケールを「英語」「米国」に変更してもダメだったことから、おそらく「米国の電話番号を持っている(プリペイドでも利用できたという報告あり)」のほか、iTunesの米国コンテンツを利用するだけではない、何らかの米国所属を示す条件を満たす必要があるのではないかとみている。

なお同業者の1人によれば「社会保障番号(SSN)の入力を求められた」とのことで、これが米国在住者とそうでない人物との区分けになっているのかもしれない。

筆者の場合はSSNの入力項目自体が出現しなかったのだが、これはおそらくポストペイド契約を行っているAT&Tのアカウントに登録したSSN情報など、何らかの登録項目がAppleによって認識されたため、入力をスキップできたのではないかと考えている。

こうした状況のため、今回のテストは結局、シリコンバレー在住の同業者の力を借りて行った次第だ。

期待のNFC決済だが

利用できる場所が限られる?



お金を受け取ったApple Pay Cashカードは前述のように送金に再利用できるほか、アプリやオンラインでのApple Payの支払い、さらにはリアル店舗でのNFC決済にも利用できる点が特徴となる。

仕組みとしてはプリペイドカードを登録したようなイメージだ。

ただ、筆者がApple Pay Cashを利用可能になった直後のタイミングで店舗でのNFC決済を試してみたところ、決済が完了せず、エラーメッセージで弾かれてしまった。そのとき筆者はハワイ州のマウイ島にいたが、周囲のショッピングモールでの会計や空港のフードコートの支払いにiPhoneを利用してみたものの、Apple Pay Cashはことごとく拒否されてしまっている。

また試しに、日本でMastercard PayPassやVisa payWaveが利用できる店舗で試してみたものの、こちらも失敗している。


▲Apple Pay Cashをハワイでいろいろ試してみたが、すべて取り扱いを拒否された

実は本稿はApple Pay Cashが利用可能になってすぐに記事化する予定だったのだが、このタイミングとなってしまったのは、本来であれば目玉的な機能となるNFC決済が利用できなかったことが原因だ。

筆者は原因をいろいろ調べていたが、1月中旬に小売業界のNRF Retail's Big Showという展示会取材のため米ニューヨークを訪れたことで、問題は簡単に解決してしまった。

試しにニューヨークにあるドラッグストアのDuane Reade(Walgreens傘下で、同じ決済端末やPOSが設置されている)とMcDonald'sの両方でApple Pay Cashを試してみたところ、一発で決済が完了してしまったのである。

ハワイで連発していたような処理エラーもなく、普通に使える。


▲改めてニューヨークで試してみたところ、問題なく利用できた。なお通常のApple Payとは異なり、買い物をした店舗名が反映されるのに時間がかかるほか、別の端末でも取引履歴がクラウドを通じて同期される特徴がある

実はハワイでエラーが発生していた原因の1つは、Apple Pay Cashが「Discover Debit」の扱いであり、例えば日本のようにNFC決済でもMastercardやVisa(あってもAmerican ExpressやJCBまで)しかサポートしていないケースではそもそも処理が進まない、という点にあったようだ。

一方で、米国の小売店でDiscover対応を明示してあるケースでも、Apple Pay Cashによる決済処理を弾かれたことがある。こちらは予想だが、決済端末側が物理的なDiscoverカードの決済は行えるものの、NFCによる非接触通信の決済には対応していない、という状況なのかもしれない。

このように、筆者が試した限りでは、メジャーな多くのチェーン店では問題なく利用できる一方で、利用可否のわからない店舗も少なくない。こうした状況から、少なくとも現状では、NFC決済は使い勝手がいいとは限らない、との印象を受ける。

ただし今回は試せていないが、オンラインでのDiscover決済は特に問題ないと思われることから、このあたりはNFC決済特有の事情だと考えていいだろう。


▲Apple Pay Cashのプロパティ。Discover Debitの扱いであることがわかる。また現在のところ一度も入力を求められたことがないが、PIN番号は「0000」となっている

まとめると、Apple Pay Cashの利用は若干クセがあるものの、条件さえ満たしていればセットアップ自体はスムーズだ。

ただし送金に際しては、相手側もApple Pay Cashの設定を完了している必要があり、この点で「特定のよく金額を融通し合う相手」に限定される難点がある。

例えば家族や特定の友人相手ならいいが、パーティや会食などの場面でワリカン処理を行う場合などでは利用しづらい(Androidユーザーが含まれているならなおさらだ)。

またセットアップが容易という反面、この金額のキャッシュアウトには銀行口座を別途登録する必要がある。この条件に関してはAppleのサポートページでも触れられているが(下記参照)、口座番号を把握しておく必要があることから、若干ハードルが高い(米国では日本と違ってATMカードに口座番号が表記されない)。

Transfer money from Apple Pay Cash to your bank account (米国Appleのサポートページ)


また「利用にはSSN登録が必要」「送金の受け手も送り手も事前設定が必要」「送金リミット(1回あたり3000ドル、1週間最大で2万ドル)がある」といった制限もある。このあたりはいわゆるマネーロンダリング対策であり、あえてハードルを上げてこのあたりの問題を回避しているのだろう。

現状のApple Pay Cashはこうした制限があるため、クレジットカードやデビットカードに対して送金できる仕組みがあればもっと便利になるだろう。このあたりは、今後のブラッシュアップに期待したい。