昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 我が家には、アマゾンエコーとグーグルホームの2台のスマートスピーカーが置いてある。新しいデジタルサービスは自分で使ってみないと分からないので、昨年末に調達していろいろ試してみている。それぞれの機能については、すでにたくさんのレビューがなされているので、ここでは別の観点から報告したいと思う。

テレビの声に反応してしゃべり出す

 これはすでに報告されていることだが、我が家の2台も、テレビの音声で起動してしまうことがある。多いのは、ニュース番組でスマートスピーカーについての解説が流れたときだ。こっちは何もいってないのに突然しゃべり出すのでちょっと驚くのだが、テレビからの言葉を思い出してみると「あぁーそうか」と気づくことになる。

 テレビの音声を誤認することでは、これまでにいくつかの事件が起きている。米国のテレビ番組で、アレクサが人形を注文してくれたことを紹介したら、家庭にあるいくつかのエコーが勝手に人形を注文してしまったそうだ(その後アマゾンは注文キャンセルなどの対応をとっている)。また、このことを逆手にとったテレビCMを、米国のバーガーキング社が去年の4月に実施している。CMで「OK、グーグル。ワッパーバーガーって何?」と聞くのだ。すると、グーグルホームがウィキペディアにある解説文を読みあげてしまうという仕掛けになっていた(この広告はグーグルの対策で数時間の寿命だったそうだ)。

 テレビだけでなく、家族の会話で何げに「アレクサ」や「グーグル」のことを話したりすると、起動してしまうこともある。しかし、これは人間の家族でも起こることなので、誤認とはいえないだろう。スマートスピーカーも会話に加わりたがっていると思えば、腹も立たない(かもしれない)。

 しかし、ここに大きな問題がある。スマートスピーカーは、会話中は録音されており、そしてそれが各メーカーのクラウドに送られている、ということだ。盗聴とまではいわないが、プライバシーの聖域ともいえる家庭内の会話が外部に漏れ、それも記録されるとなると穏やかではない。

 このことの意味を考えさせられたのが、2015年11月にアメリカのアーカンソー州で起きた殺人事件の捜査だ。その殺人が起きたとき、バスタブの近くにアマゾンエコーが設置されていたことが分かり、警察がエコーの音声データの提出をアマゾンに命じたのだ。アマゾンはこれを拒否するが、容疑者が同意したことで最終的には警察へのデータ引き渡しに合意している。つまり、都合の悪いことをスマートスピーカーに聞かれていると、予期せぬことが起こる可能性がある、ということだ。

ついに、勝手にしゃべり出した

 つい最近、我が家のグーグルホームが独りでにしゃべり出すという「事件」が起きた。テレビを含めて、誰も「グーグル」と言ってないのにだ。これはちょっと問題ではないだろうか。

 スマートスピーカーは、「OK、グーグル」とか「アレクサ」などのあらかじめ決められたフレーズで会話が始まる約束のはずだ。その合図なしに会話モードに入ってしまうとなると、ユーザーとの信頼関係が大きく揺らぎそうになる。その録音時間は短いかもしれない。それに、録音されていたとしても各メーカーが悪用するとは考えにくいし、ユーザーはいつでも会話を消去できると規約に書いてある。

 しかし、グーグルホームminiがソフトの不具合で意図せず録音していたという事故も起こっているし、スマートスピーカーを外部から乗っ取る実験も報告されている。また、つい先日、中国の浙江大学で超音波を使って操れるという実験報告も出されている。不安を払拭するのはむずかしい状況だ。

次はロボット

 今回のスマートスピーカーは音声だけだが、ロボットになると映像も見ていることになり、問題はより深刻だ。思えば、鉄腕アトムや鉄人28号はクラウドには接続されていなかった。スタンドアローンで動き、個性もその個体に宿っているように見えた。しかし、現在の技術ではネットワークやクラウドの力を借りなければ、賢いロボットにはなれないだろう。ソニーの新アイボだってクラウドに接続されている。

 人間が、スマートスピーカーやその先のロボットと共に生活していくには、家族同様に人間との信頼関係が築けるまでに進化する必要がありそうだ。セキュリティなどの技術の進化も必要だが、運用規約や法律の整備も欠かせないだろう。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。