韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開幕式(2018年2月9日)まであと1週間になった。北朝鮮の突然の参加や、首脳外交など五輪関連の話題には事欠かないが、韓国では、開幕式前後にもう1つの「大きな関心事」がある。

 重要裁判、判決日程が目白押しなのだ。

 開幕式直前に判決を受ける1人が、サムスングループの事実上の総帥である李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)サムスン電子副会長だ。

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2月5日、運命の控訴審判決

 現在、ソウル拘置所に入っているが、控訴審判決が、2月5日に出るのだ。

 「平昌五輪誘致に、あんなに力を尽くしたのに、こんな形で開幕直前を迎えるとは・・・」

 サムスングループの元役員は、「平昌」の話題になると、「いったいどうしてこんなことになってしまったのか」と嘆いてみせた。

 サムスンは、冬季五輪の平昌誘致に大きな貢献をした。ところが、いまは「それどころではない」状態なのだ。

 韓国にとって、冬季五輪誘致は悲願だった。廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時に平昌への冬季誘致に挑戦したが、バンクーバー(2010年=カナダ)とソチ(2014年=ロシア)に敗れ、2度失敗した。

 2009年12月29日、李明博(イ・ミョンパク=1941年生)大統領(当時)は、「年末特赦」を実施した。

たった1人の特赦

 対象者は、ただ1人。サムスングループの総帥、李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)氏だった。

 李健熙氏は、不正資金問題が発覚して2007年に背任や脱税で「懲役3年、執行猶予5年、罰金1100億ウォン(1円=10ウォン)」の判決を受けた。会長職を離れて「謹慎中」だった。

 「財閥総帥に対する特別待遇だ」という批判を受けても李明博元大統領が特赦を実施したのは、「3度目の挑戦で冬季五輪を誘致する」という強い意欲の表れだった。

 サムスン電子は五輪の公式スポンサーだ。李健熙氏もIOC(国際五輪委員会)委員だった。世界のスポーツ界に幅広い人脈を持っていた。特赦によって行動範囲への縛りを解き、五輪誘致に全力投球させようという狙いだった。

 李健熙氏は、サムスンの経営に復帰するとともに、その期待に応えて五輪誘致に世界中を走り回った。

 特赦直後に、バンクーバー冬季五輪に姿を見せたのを皮切りに、個人とサムスンが持つ人脈をフル活用して誘致に力を注いだ。「1年間で地球を5周した」と言われるほど精力的に動いた。

3度目の正直で誘致

 その結果、2011年、「3度目の正直」で苦労の末に誘致に成功したのが、「平昌冬季五輪」だった。

 ところが、その李健熙会長は、2014年に自宅で倒れ、今も意識がないまま入院中だ。本来なら、開幕式の主役級の1人であるはずだったが、何も分からない状態で過ごす見通しだ。

 後継者である長男の李在鎔サムスン電子副会長は、平昌冬季五輪の開幕式直前の2月5日に「運命の日」を迎える。

 李在鎔氏は、朴槿恵(パク・クネ=1952年生)前大統領の一連のスキャンダルで、2017年2月に逮捕、拘束された。8月には、1審で贈賄罪などで懲役5年の実刑判決を受けた。この控訴審判決の日なのだ。

1年近い拘置所生活

 李在鎔氏は、2017年2月17日以来、もう1年近くもソウル郊外の拘置所に入っている。生まれた時から「サムスン後継者」を約束されていた李在鎔氏にとって、悪夢の1年だったはずだ。

 拘置所のスペースは、6.5平方メートル。床にマットレスを敷いて寝る。1食1400ウォン相当の食事で、食器は自分で洗う。

 差し入れの新聞にくまなく目を通し、弁護士と長時間会ってひたすら裁判に備える。その間、経営上の重要な判断を仰ぐ資料も届く。こんな生活を1年近く続けているのだ。

 裁判は、サムスングループが、文化やスポーツ財団に寄付したことや、朴槿恵氏の長年の知人である崔順実(チェ・スンシル=1956年生)氏の娘である乗馬選手に高額の馬を提供し、海外での訓練費用を負担したことなどが「経営権継承のためのワイロ」かどうかが争われている。

 李在鎔氏は、頑強にこれらの罪を否定し、無罪を主張している。これに対して特別検察側は、1審と同じように「懲役12年」を求刑している。

 万一、重い実刑判決になると、大法院(最高裁に相当)判決までさらに6か月はかかる。

 李在鎔氏にとっても、サムスン電子にとっても、だから今は、平昌冬季五輪どころではない。無罪判決か執行猶予付き判決で拘置所から出られるのか。あるいは・・・大きな分かれ目なのだ。

 2月5日の判決は、産業界全体でも大きな関心を呼んでいる。

崔順実氏判決も

 平昌冬季五輪が開催中の2月13日には、崔順実氏への1審判決もある。そもそも、2016年から続いた朴槿恵前大統領の一連のスキャンダルは、すべて、崔順実氏から始まった。

 検察は、崔順実氏に対しては、朴槿恵前大統領と共謀して、サムスンなど財閥に巨額の寄付金名目の資金を供与させたとみる。

 国会機密漏洩問題もある。合わせてなんと18件の罪で起訴し、有期懲役刑では最長の懲役25年を求刑している。

 大統領の弾劾にまで発展した一大スキャンダルの1審判決は、韓国では、「五輪以上の大ニュース」になることは必至だ。

 さらに、韓国メディアは、崔順実氏への判決の前後に、朴槿恵前大統領に対する、1審の結審がある。さらに、一連のスキャンダルとは別に、もう1つの朴槿恵前大統領に対する裁判も始まる。

 「国家情報院の機密費流用問題」だ。

 この2つの裁判ともに、朴槿惠前大統領は、「法廷への出席を拒否」する構えだ。それでも、裁判は進むことになる。

 1審が結審すれば、3月中にも出る可能性がある。ちょうど、パラリンピック開催中になるかもしれない。また、「機密親流用問題」では、新たな事実が出てくる可能性もある。

 いずれにしても、「大統領の犯罪」だけに、これも大きな関心を呼ぶはずだ。

李明博元大統領は開幕式出席になったが・・・

 実はもう1つ。開幕式前に「焦点」となっていた捜査がある。

 平昌冬季五輪を成功させたときの李明博元大統領に対する、「機密費流用」などに対する捜査だ。

 検察は、李明博元大統領の側近などを相次いで逮捕し、韓国メディアは「開幕式直前に元大統領を検察が召喚か」と報じていた。

 ところが、こちらはつい最近になって一転して韓国メディアが、「五輪後に持ち越し」と報じた。

 李明博元大統領は、開幕式に招待受けて出席する見通しになっている。

 韓国紙デスクは「世界中の関心が韓国に集まる時に、前職大統領の召喚や裁判が相次ぐことに検察も負担を感じたのではないか」とみる。

 このデスクは「韓国では多数の死傷者が出る大規模火災が続いた。北朝鮮の参加問題で世論も割れてしまった。さらに世の中の関心がきわめて高い裁判が続く。競技や大会以外のニュースが多すぎる。選手にもっと焦点があればよいのだが…」と嘆く。

 確かに熱狂的な応援で知られる韓国のスポーツファンだが、今回ばかりは、他の話題が多すぎて、盛り上がりはイマイチでもある。

筆者:玉置 直司