本格的なビッグデータ時代が到来した。東京五輪が開催される2020年には、ネットに繋がるデバイスが500億台を超え、1兆個のセンサが世界を覆う(図1)。その結果、人類が生み出すデジタルデータは指数関数的に増大し、2020年には44ZB(ゼータバイト、10の21乗)になると予測されている(図2)。

図1 IoTの時代がやってきた(2020年の世界)


図2 指数関数的に増大するビッグデータ
出所:総務省「ICTコトづくり検討会議」報告書


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52210)

 このようなビッグデータをストレージし、このデータを人工知能(AI)が解析して、未来予測を行い、ビジネスに役立てる時代が急速に進行している。そのため、大量のデータセンターが必要となっている。米国では、2016から2017年の1年間で、データセンターへの投資額が4倍に増えたという(日経新聞1月10日)。さらに2018年は、その投資額が数倍以上に増えるだろう。

 このデータセンターのサーバーには、大量のNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)が必要である。その結果、2016年以降、NANDがつくってもつくっても足りない状態となった。NANDを製造できるのは、サムスン電子、東芝メモリ&ウエスタンデジタル(WD)連合、マイクロン&インテル連合、SK Hynixの4グループしかない。それゆえ、東芝メモリの買収が、世界的な騒動になったわけだ。

 ところが、NANDだけでなく、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)もまた、足りない状態である。これは、実質的にDRAMビジネスが、サムスン電子、SK Hynix、マイクロンの3社に集約され、この3社が“緩やかな談合”をしているからだと予想している。つまり、これら3社が、意図的に“ちょっと足りない”状態をつくり出しているのだ。すると、DRAMの生産量は変わらないが、価格が勝手に高騰するのである。実際、2016年7月に2.45ドルだったDRAM価格は、1年後の2017年7月に2倍以上の5.16ドルになった。

 このDRAM不足に対して、データセンターを建設し、クラウドビジネスを行っているグーグルやアマゾンなどは、最先端DRAMを求めて、「サムスン電子詣で」をしているそうである。そして、グーグルは、昨年(2017年)秋のサムスン電子との交渉により、「12インチウエハで毎月2万枚のDRAMの供給を求めた」という(日本経済新聞、1月8日)。

 本来なら、個数で発注するものを、ウエハ枚数でオーダーするというのである。こんな話は、今まで聞いたことがない。それほど、グーグルなどクラウドビジネスを行っているIT企業は、最先端DRAMを喉から手が出るほど欲しがっているということである。

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爆発するメモリ市場

 半導体の種類ごとの月額売上高をグラフにしてみると、2016年以降、メモリ市場が、ほぼ垂直に立ち上がっている(図3)。筆者は、データを集めてグラフを書くのが大好きであるが、この図については、自分で書いて、自分で驚いている。

図3 半導体の種類別の月額売上高
出所:日経テクノロジーオンラインのデータ基に筆者作成(ソースはWSTS)


 この原因は、前節で説明した通り、NANDの市場規模がとてつもない勢いで急拡大していること、およびDRAMがちょっと足りないために価格が高騰していることにある。

 野村証券の名物アナリストである和田木哲哉氏は、メモリ市場が大爆発していることについて、「スーパーサイクル」という言葉を生み出した。その言葉は、後に、「ウルトラスーパーサイクル」に昇格(?)した。しかし、これに対して筆者は、昨年12月に開催された野村証券の投資家向けセミナーで、司会者の和田木氏に対して、「サイクルそのものが消失した」と明言し、大うけした。

 前置きが長くなったが、本稿では2回にわたって、本格的なビッグデータ時代を迎えてメモリ市場に何が起きているのかを明らかにしたい。

 前篇では、メモリ市場の大爆発により、これまで低迷を続けていた製造装置市場が成長を始めたことを明らかにする。また、その装置の中でも、シリコンウエハ上にチップを形成する「前工程」と呼ばれる装置群の市場が成長している一方、テストやパッケージングなどを行う「後工程」と呼ばれる装置群の市場は低迷していることを論じる。

 後篇では、前工程装置群および後工程装置群を分析すると、(1)ITバブルのピークを大きく超えて成長している装置群、(2)ITバブルのピークに到達した装置群、(3)ITバブルのピークを越えず今後も越えないだろうという装置群、以上の3種類に分類されることを示す。

成長が続く半導体市場と製造装置市場

 半導体と製造装置の売上高推移を図4に示す。どちらも2000年のITバブル時にピークがある。その後、半導体市場は、そのピークを越えて、市場が拡大している。一方、製造装置市場は、あまり成長していないように見える。

図4 半導体と製造装置の市場推移
出所:電子ジャーナル『半導体データブック』『半導体製造装置データブック』、筆者の調査による


 これをもう少し明確に示すために、2つの市場について、ITバブル時の売上高を「1」と規格化して、その後の売上高推移をグラフにしてみた(図5)。この図から、半導体市場は、2017年にはITバブル時のピークの2倍以上に成長していることが分かる。

図5 2000年で規格化した半導体と装置の市場推移
出所:電子ジャーナル『半導体データブック』『半導体製造装置データブック』、筆者の調査による


 一方、製造装置市場は、2007年と2011年にITバブル時のピークに接近したが、2015年までは、そのピークを越えられずにいた。この理由は2つある。

 1つは、各種製造装置のスループット(1時間当たりのウエハ処理枚数)が、2000年から2015年にかけて2〜3倍以上になったことが挙げられる。例えば、レジストを塗布し、現像するコータ・デベロッパはスループットが3倍になった。ということは、2000年に3台必要だった装置は、2015年には1台で済むようになった。つまり、製造装置メーカーが自助努力で“スループット向上”をした結果、製造装置が売れなくなり、自分で自分の首を絞める結果になってしまったのだ。

 もう1つは、半導体工場の効率化や自動化によって、製造装置の稼働率が格段にアップし、必要な製造装置が減少していったことが挙げられる。月産10万枚ものウエハを処理する大規模工場では、少しでも処理効率を上げるために、500台を超えるような装置を効率の良いレイアウトになるように配置し、装置間のロットの移動を、極力ロボットを使って、効率よく行うようにしている。なお、ロットとは、ウエハ25枚単位のカセットのことである。

 以上、各製造装置のスループットの増大と、半導体工場における処理効率の向上により、必要とされる製造装置台数が増えない状態が続いていた。それゆえ、筆者は、2015年までは、「製造装置市場が今後、ITバブルのピークを超えることは無いかもしれない」と考えていた。

 ところが、2016年以降、ビッグデータ時代が到来し、メモリ市場が爆発した。特に3次元NAND市場がとてつもない勢いで拡大している。その結果、とうとう、2017年に、装置市場はITバブルのピークを越えた。今後も、製造装置市場は、多少の乱高下はあるかもしれないが、ITバブルのピークを越えて成長すると予測している。

差がある前工程と後工程の市場成長

 半導体の製造装置には、ウエハにチップを形成するための「前工程」と呼ばれる装置群と、そのチップの動作をテストし、チップを薄化して切り出し、パッケージングする「後工程」と呼ばれる装置群がある。そこで、前工程装置市場と後工程市場について、ITバブルのピーク時を「1」と規格化したグラフを書いてみた(図6)。

図6 2000年で規格化した前工程と後工程の装置市場推移
出所:電子ジャーナル『半導体データブック』『半導体製造装置データブック』、筆者の調査による


 まず、前工程装置市場は、2007年にITバブルのピークに接近し、2011年にそのピークをわずかに超えた。そして、2016年にほぼITバブルのピークと同じ規模になり、2017年にはそのピークの1.32倍に成長を遂げた。

 3次元NANDの爆発は今後も続く。また、“緩やかな談合”により供給量が抑制されていたDRAMも、投資を再開することになった。それゆえ、前工程市場は、今後もITバブルにピークを越えて大きく成長していくことが予想される

 なお、サムスン電子、SK Hynix、マイクロンが“緩やかな談合”を破棄して増産および微細化投資を行う理由は、中国が巨大DRAMの最先端工場を、少なくとも3カ所で建設することに原因がある。DRAMの供給量が足りないといっても、DRAMの需要はNANDほど巨大ではない。そこに、中国の格安DRAMが進出してきたら、市場が壊れ、価格が暴落する可能性がある。

 そこで、既存のDRAMメーカー3社は、中国のDRAMが立ち上がったとしても、付け入る隙を微塵も与えない戦略に出た模様である。それゆえ、微細化を極限まで加速し、その増産をいち早く行う。それによって、中国がDRAMの生産に成功したとしても、それが「もはや時代遅れで売れない」状態にしたいのである。

 このように今後は、3次元NANDに加えてDRAMの生産量も大幅に拡大するため、前工程装置市場の成長が続くだろう。

 話を図6に戻す。もう一方の後工程装置市場は、ITバブルのピークに届く気配がまるでない。ITバブル時のピークの50〜70%辺りを乱高下している。2016年にビッグデータの時代を迎えても、わずかに市場が増大する気配はあるが、ITバブル時にピークには遠く及ばない。

 これにはいくつか原因がある。その原因は厳密には、装置ごとに異なる模様である。ただし全体的に言えば、前工程の装置群の多くは、半導体の微細化が進むとともに、数年サイクルで最先端装置に買い替えなくてはならないが、後工程の装置群の多くは、そのような買い替え需要がないことに原因があるようだ。

 以上、前工程装置市場はITバブルのピークを越えて成長しているが、後工程装置市場はITバブルにピークを超えそうもないことを示した。

 後篇では、前工程装置群および後工程装置群をさらに詳しく分析すると、(1)ITバブルのピークを大きく超えて成長している装置群、(2)ITバブルのピークに到達した装置群、(3)ITバブルのピークを越えず今後も越えないだろうという装置群──の3種類に分類されることを明らかにする。

(つづく)

筆者:湯之上 隆