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なぜグーグルがロビー活動に20億円も使うのか

 ここに興味深い数字がある。1800万ドル(約20億円)――。

 2017年、検索エンジンの最大手グーグル(アルファベット)が米首都ワシントンで使ったロビー活動費である。

 20億円という数字は2017年、米民間企業がロビー活動に費やした金額としては最高額である。しかもこれまで、IT企業がロビー活動費のリストでトップになったことはなかった。

 政治の町ワシントンで、大手企業が連邦議会の法案の成否に関与することは日常的なことである。連邦開示法により活動内容と費やした金額を公開しなくてはいけないが、合法的に政治にかかわってロビイストを雇うことは自由である。

 しかしこれまでは国防、通信、エネルギーといった分野がロビイストたちの主な領域だった。例えばボーイングやAT&Tなどは使途金額のトップ10に入る常連企業で、いまでも両社はリストに名前を連ねている。

 ただ昨年はグーグルがトップに躍りでたほか、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップルといった西海岸に本社を置くIT企業もトップ10入りした。

 急速にロビー活動費を膨らませている理由は何なのか。

 ちなみに2002年、IPO(新規上場)前のグーグルは、ロビー活動に5万ドル(約550万円)を使ったに過ぎない。当時と今では企業規模が違うが、なぜ政界に深くかかわり始めたのか。

 端的な答えは、「ワシントンの政治家をコントロールするため」である。

 この表現は少しばかり過激だが、外れてはいない。というのも、グーグルが使っている政治関連費は20億円だけではないからだ。政治家への選挙献金を含めるとさらに増える。

 組織が大きくなればなるほど、議会に提出される法案1本1本に気を配る必要が出てくる。法案が法律になった時点で、企業損失が数百億円超になることもあるからだ。

グーグルにとって魔の月となった6月

 それだけではない。政界の動きに注視していないととんでもない痛手を被ることがある。

 グーグルにとって2017年6月は魔の月になった。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会がグーグルに対し、EUの競争法(独禁法)を違反したとして24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金を科したのだ。

 米国ではなくEUでの事例だが、単独企業に対する制裁金としては過去最大だった。理由は、グーグルが検索ページで独占的な立場を維持し続け、自社の商品比較サービス(グーグル・ショッピング)を優先的に表示していたというものだ。

 グーグルは制裁金を科されたことを不服とし、9月に欧州司法裁判所に提訴している。これは1例に過ぎない。本来ならば、3000億円を科される前に手を打つべきだった。

 そうした背景もあり、グーグルはワシントンで政界へと影響力を強めている。20億円はむしろ微々たる額と言えるのかもしれない。

 ロビー活動の狙いは前述したように、政治家のコントロールであるが、具体的課題としてはズバリ「オンライン広告によけいな規制をかけさせない」という点につきる。

 2012年、議会にオンライン海賊行為防止法案(SOPA)という法案が提出された。法案の趣旨は、著作権侵害をしているウエブサイトに対し、米司法省と著作権者が裁判所命令を請求できるというものである。

 趣旨だけを眺めると、グーグルにとって追い風になるようにも思われる。しかし同法はオンライン広告ネットワークに著作権侵害サイトとの取引禁止を命令したり、グーグルのような検索エンジンに対して掲載禁止を命令したりする内容だった。

減税法案成立にも大きく貢献

 そのためグーグルをはじめとするネット企業は、SOPAがネット検閲にほかならないとしてロビー活動を展開して法案を潰しにかかった。そしてロビー活動が功を奏して、同法案の審議はストップしたのだ。

 グーグルはドナルド・トランプ政権誕生後、反トラスト法と税制でもロビー活動を行っている。企業は減益減収になると判断した法案は潰しにかかり、利益になると判断すれば強力に後押しする。

 昨年末、米国では減税法案が成立して法人税がそれまでの最高税率35%から21%に恒久的に引き下げられた。

 減税はドナルド・トランプ大統領の選挙中からの公約だったこともあるが、グーグルのロビー活動が多少なりとも影響を与えたと考えられる。

 実はトランプ大統領は大統領選中、ロビイストを嫌っていた。ヒラリー・クリントン候補がロビイストから多額の献金を受け取っていたこともあり、ロビイストからの多額献金を拒否した。

 しかし政権発足後はロビイストへの態度を逆転させる。

 ホワイトハウスにどんどんロビイストを呼び入れ、むしろ高官の方から「規制緩和してほしいところはどこですか」とお伺いをたてさえする。

 ワシントンの有力ロビイストの1人は言う。

 「トランプ氏のロビイストへの態度は予想外でした。財界にとって、彼はバラク・オバマ前大統領の真逆です」

 「さらに1年前、大統領令(13771号)で規制緩和の態度を示しました。新しい規制を1つ作るたびに既存のルールを2つ破棄するという内容です。これも企業にとっては大きな利点です」

IT企業が株価を伸ばす遠因にも

 トランプは規制緩和を実行したのと同時に、ロビイストからの要望を聞き入れて、米産業界を擁護する「アメリカ・ファースト」を実践している。グーグルを始めとするIT企業が株価を伸ばしているのは、こうした動きが遠因にある。

 トランプ氏の暴露本が出版され、大統領としての資質や人格に新たな疑問が投げられているが、企業側からは肯定的な見方も少なくないのだ。

 ただ消費者側からの憂慮もある。

 ジョージアタウン大学プライバシー&テクノロジー・センターのアルボロ・ベドヤ所長は、政府が企業側に身を寄せるあまり、消費者がIT企業に利用されていると指摘する。

 「米国史上初めて、大手の民間企業が膨大な量の個人情報を所有するようになりました。彼らはそれらを有効利用するため、できる限りのことをしようとしています」

 検索エンジンの伸張は、個人のプライバシー侵害の領域と隣り合わせだ。グーグルにとっては広告を含め、ビジネス拡大のためにも今後もロビー活動を強めていくはずだ。

 グーグルはもはや西海岸で新しい技術を開発しているIT企業という顔だけでなく、ワシントンでのメジャープレーヤーという顔も併せ持つ。

 今年は20億円以上の金額がロビー活動に費やされるはずで、もはや「怖いものなし」という印象になりつつある。

筆者:堀田 佳男