DJIのドローン「Phontom 4 Pro」(資料写真、DJIの紹介動画より、出所:)


 パソコン、スマホに続くIT関連製品の成長分野として、近年「ドローン」が注目を浴びています。

 ただし、ビジネスにおける実際の用途は、いまだ空中撮影(空撮)にほぼ限定されており、用途の拡大が今後の発展への大きな課題となっています。

2015〜2020年の中国における民生用ドローンの市場規模推移


 こうした状況に対して、ドローン業界では新たな用途の開拓が進められています。中でも近年注目されつつあるのが農業用ドローンです。

 世界に出回っているドローンの9割以上を製造し、名実ともに市場の覇権を握る中国ドローンメーカーも、農業分野に乗り出そうとしています。その有望な市場として日本に目を向けるメーカーも出てきました。

 今回は、中国メーカーが牽引する世界のドローン市場の現況と展望について紹介していきたいと思います。

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ドローンの世界王者、深セン市の「DJI」

 各シンクタンクによって数字は少し異なりますが、各種の調査によって、ドローン市場の世界シェアにおいて中国が9割超を占めるという状況が示されています。

 また中国国内の調査によると、電子機器の生産地として世界最大級の規模を誇る広東省深セン市で、中国製ドローンのほぼすべてが生産されています。つまり、実質的に世界に出回るドローンはほぼ深セン市で作られていると言っても過言ではありません。

 中でも特筆すべきは、中国最大のドローンメーカーである大疆創新科技有限公司(通称「DJI」)の存在です。同社の世界シェアは7割超を占め、実質的に世界のドローン市場をほぼ独占しているとの調査結果もあります。そのため、先ほど述べた深セン市で作られるドローンの世界シェアも、実質的にはDJIが1社でその大半を占めていることとなります。

世界ドローンブランドのトップ10(2017年)


 世界最大のドローンメーカーであるDJIは、2006年、香港科技大学の卒業生らによって深セン市に設立されました。創業者の汪滔氏は大学在学中からヘリコプターの研究を手掛けており、卒業後に資金と仲間を集めて創業。わずか十数年で世界シェアトップ企業へと成長させることに成功しました。

 その成長速度はドローン市場が拡大し始めた2010年代に入ってから加速し、2011年から2015年にかけて売上高は100倍に成長しました。先日発表された2017年の売上高は前年比80%増の180憶元(3090憶円)でした。

DJIの2013〜2017年の売上高推移


 前述の通り、同社のドローンは世界各地で圧倒的なシェアを誇っています。それを端的に示すエピソードがあります。2015年に米国のホワイトハウス、日本の首相官邸にそれぞれドローンが空から無断で侵入するという事件が起きましたが、いずれも使われた機体は同社の「Phantom」シリーズでした。またシリア内戦でも武装勢力が同社製ドローンを偵察に使用していたことが報じられており、同社の圧倒的な世界シェアを物語っています。

DJIが急成長した理由

 なぜ、DJIはこれほど急成長したのでしょうか。

 理由としては、ドローンが世の中に認知される前の早い時期から同社が開発、商品供給をスタートし、一定品質の新製品を次々にリリースしてきたことなどが挙げられるでしょう。

 しかし、並み居るライバルを抜き去り、現在の地位を確立するに至った大きな転機や要因は、あまりはっきりしません。

 筆者は、創業してから比較的早い段階で中国政府に支援対象企業として認められたことが最大の要因ではないかとみています。中国では、政府が各業界のリーディングカンパニーを積極的に支援し、その企業の方針に合わせた業界の規格や規制を作っていく傾向があります。ドローン業界においてはそれがDJIだったのではないかということです。

 もっとも、いくら政府の支援があったとしても、それはあくまで中国国内の話です。DJIが現在の世界シェアを獲得できたのは、ひとえに同社の研究開発力や販路整備戦略が他社に勝っていたからにほかなりません。

各社が力を入れ始めた農業用ドローン

 DJIの圧倒的なシェアと、既に100カ国超をカバーする販売ネットワークの広さに対して、同業他社からは「もはや一般的な空撮用ドローンではDJIに対抗できない」との声が出ています。

 こうした現況から、DJI以外のドローンメーカーの間では、空撮以外の用途に対応したドローン開発に活路を見出そうとする動きがあります。先日、米国・ラスベガスで開催された世界最大の電子製品展示会「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー) 2018」でも、水中撮影用の魚型ドローンが数多く出展されました。こうした「空」から「水中」へのシフトのほか、ここに来てにわかにメーカーが力を入れ始めているのが農業用ドローンです。農業用ドローンとは、主に農薬や肥料の散布、作物の直播などの用途に特化したドローン機体を指します。

 農業用ドローンが注目を集める要因は主に3つあります。1つ目は、すでに実際に導入が始まっていること、2つ目は農業の労働力不足への対策として期待されていること、3つ目は市場の開拓余地がきわめて広いといったことが挙げられます。

 DJIも農業用ドローンへの対応に動き出しています。同社はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し、「短期的な利益は求めない」とした上で、中国各地に1000人のアフターサービススタッフを配置するなどして同分野においてもシェア獲得を目指すとしています。

日本市場がターゲット、ライバルはヤマハ?

 中国メーカーは農業用ドローンの販路として、中国国内よりもむしろ日本市場を有望視しています。背景としては、中国では農業現場におけるドローンの普及率がまだ低く、導入できる農業従事者も所得面などから限られていることが挙げられます。一方、日本ではすでに米国に次ぐ規模で農業用ドローンを活用しています。また、日本の農業現場における深刻な高齢化もドローン導入を後押しするとみられています。

 こうした分析に基づき、日本市場への進出を図る中国のドローンメーカーが既に出てきています。その代表格と言えるのが、農業用ドローン大手の広州極飛電子科技有限公司(「XAIRCRAFT」)です。2017年1月、同社は初の海外拠点を日本に設立し、同年7月には農薬散布用ドローン「P20」の販売・リースを開始しました。

 こうした日本市場を目指そうとする中国メーカーの動きについて、電子業界専門情報サイト「中国智能製造網」は、「中国企業にとって、日本市場での競合相手となるのはヤマハ発動機だろう」と指摘しています。ヤマハは農業用ドローンで既に長い実績があり、日本国内で最大のシェアを誇ります。中国智能製造網は、同社の最新機種「FAZER R」が複雑な操作に対応できることなどを紹介し、中国メーカーにとって強敵になると報じています。

 前述の通り、目下のところビジネスにおけるドローンの用途は空撮が大半で、その他の用途はいまだ模索段階にあります。今後は、いかに市場の需要に適合する用途や性能を見出せるかが成長のカギになることでしょう。日本メーカーも、より挑戦的な開発に取り組んでもらいたいものです。

筆者:花園 祐