「Make America Great Again!」

 「America First」を掲げるドナルド・トランプ政権発足から1年。移民政策、パリ協定脱退、エルサレム首都問題などが国際秩序に混乱をもたらし、北朝鮮との非難の応酬で世界を困惑させ、「フェイクニュース大賞を発表」するなどメディアとの対立姿勢も続き、その政策、言動は、世を騒がせ続けている。

 その一方で、減税、規制緩和などの政策もあってか、株価は上昇、失業率も低下し、40%弱とはいえ堅固な支持層に政権はささえられており、社会の分断が収束する気配はない。

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米政権暴露本「Fire and Fury」がバカ売れ

 その「1周年」に合わせるように、政権内幕暴露本「Fire and Fury : Inside the Trump White House」が刊行され、超ベストセラーとなっている。

 ジャーナリスト、マイケル・ウォルフが200人以上の関係者に取材、「陰の大統領」とさえ呼ばれる存在だったスティーブ・バノン元主席戦略官・上級顧問をはじめとして、多くの側近の「idiot」「dope」「Like a child」といった辛辣な言葉が引用されている。

 大統領職への適正に疑問を呈する内容に、早速、トランプ大統領は「Michael Wolff is a total loser」「Sloppy Steve has been dumped like a dog」などとツイッターに投稿し反撃している。

 かつてハリー・S・トルーマンが「If you want a friend in Washington, get a dog」と語ったように、歴代大統領には国民にも人気の「First Dog」がいたが、トランプ大統領は飼う気はないようだ。

 しかし、罵倒する言葉として、「Dog」という言葉はよく使う。

 まさに「飼い犬に手を噛まれる」形となった大統領だが(一方のバノン氏も同じ気持ちでいるかもしれない)、トランプ劇場はさらなる波紋を呼ぶ台詞を聞かせてくれる。

 「I went from VERY successful businessman, to top T.V. Star….. to President of the United States(on my first try).」

 「I think that would qualify as not smart, but genius….and a very stable genius at that!」

 とツイート、カメラの前でも、

 「 I went to the best colleges」

 「made billions and billions of dollars, became one of the top business people」

 「went to television and for 10 years was a tremendous success」

 確かに、高学歴高収入のビジネスマンTVセレブである。

1年目の政権離職率は34%

 しかし、そうした人物でも「idiot」「dope」としか思えない例は少なくなく、日本でも「like a child」としか言いようのないケースをたびたび見かける。それでも自ら「Genius(天才)」と称する者は稀だが・・・。

 トランプ大統領はリアリティ番組「The Apprentice」で「You're fired!」を決め台詞に「Top T.V. Star」となった。

 リアルな現場でも同じ台詞が連発されているのか、1年目の政権離職率は34%。トランプ劇場Season2の今年、レックス・ティラーソン国務長官も、との声も聞こえてくる。

 もっとも、いまだ、大統領が指名し議会承認するポストの半分も埋まっていないという現実もあるのだが・・・。

 今からちょうど100年前の1918年、封切りとなった『A Dog's Life』(邦題『犬の生活』)は、誰もが「Genius」と認めるチャールズ・チャップリンの製作脚本監督主演作。

 要領が悪く、職安での求人募集にもあぶれてしまった「Tramp(放浪者)」は、野良犬の一団にいじめられている雑種犬を助けたことから、「Scraps」と名づけ、一緒に暮らすようになる。

 盗み食いなどしながらその日暮らしを続けるある日、Scrapsが悪党が盗み埋めた財布を掘り当て・・・。

 題名が示すのは、犬との生活ではなく、「lead a dog's life」の意味する「惨めな生活を送る」こと。

チャップリンの十八番

 貧困の現実を弱者への温かい目で描きながら、笑いの質も素晴らしく、コメディが芸術としても認められるようになった最初期の作品であり、『街の灯』(1931)などでもチャップリンが演じる十八番「(the little)Tramp」が織りなす笑いと涙が出色の名作である。

 ちなみに現大統領の苗字の綴りは「Trump」。その発言を見聞きする限り、チャップリンの「Tramp」の心理が理解できるとは考えにくい。それどころか、「dog」を使った暴言を吐くのでは、などと思ってしまう。

 トランプ大統領の先のウォルフ氏への評価の言葉「loser」は日本語では「負け犬」。

 勝ち負けを断定する言葉を捨て台詞的に国家首脳が使うことに違和感を禁じ得ないが、それも、弱肉強食、喰うか喰われるか、われがちに(Dog eat dog)、世渡りしてきたからなのだろう。

 中年の前科者トロイは、上がり目の見えない人生を抜け出そうと、ムショ仲間とともに、高額の報酬のもと、地元ギャングへの借金返済が滞る男の赤ん坊を誘拐することになった。しかし、仲間の1人の暴走から事態は暗転、喰うか喰われるかの窮地に陥る・・。

 『ドッグ・イート・ドッグ』(2016)の主人公たちは、今度捕まれば、終身刑となる崖っぷちに立つ犯罪常習者。

 一定レベルの重罪を含む前科2犯がもう一度捕まれば終身刑になるという「Three-strikes law(三振法)」と呼ばれる州法にひっかかるのである。

 規定は様々だが、現在、そんな法律が何らかの形で米国28州で施行されているのも、犯罪予防に効果があるとの考えから。しかし、「まじめに」暮らそうにも、前科者にいい収入の仕事はなく、主人公たちは賭けに出て犯行に及ぶのである。

 ここで事態を複雑にしてしまうのが、「Mad Dog」と呼ばれる男。文字通りの「狂犬」ぶりで、仲間を「喰うか喰われるか」の泥沼へと引きずり込む。

 このニックネームをもつ有名スポーツ選手や軍人は結構いて、トランプ政権の国防長官、退役海兵隊大将のジェームズ・マティスもその1人だが、やはり、まず連想するのは、名うてのギャング、ヴィンセント・コールのような裏街道を歩く人々。

 内戦下のリベリア。「Never Die」率いる自称反政府軍「Death Dealer」は、暴虐の限りを尽くしていた。

実際の少年兵も出演した異色作

 「Mad Dog」と呼ばれる15歳の少年ジョニーは少年兵たちを率い、「Never Die」の命令を遂行、命乞いをする大人たちをも残虐に殺し、略奪を繰り返している。

 しかし、政権転覆で様相は一転。「Never Die」は正規軍入りし、「Mad Dog」の居場所はなくなってしまう・・・

 『ジョニー・マッド・ドッグ』(2007)は、内戦終了後のリベリアでロケされ、実際に少年兵だった者も出演する異色作。

 ジョニーは10歳の時、少年兵となったという設定だが、こうして、人格形成、自我確立前から殺人訓練を受けてきた少年兵たちの人生は、戦うことをやめても、困難の連続に違いない。いまも25万人の少年兵がいると言われている。

 そうした戦禍になくとも、生まれ育った境遇ゆえ、その才能に関係なく、学歴や職歴が著しく制限され、「Dog's life」と見下される生活を余儀なくされる者は世界中にいる。

 ムンバイのスラム生まれのジャマールは、コールセンターの「お茶くみ」。しかし、人気番組、インド版「クイズ$ミリオネア」に出演、正解を重ね、あと1問で2000万ルピーを獲得するところまでやってくる。

 ところが、「無学」と見なされたジャマールが正解を続けるのは、何か不正な手段を使っているからでは、との疑惑から、警察へ連行されてしまう。

 問題にどうして答えられたのか説明を始めるジャマール。それは、人生の様々な局面での実体験に関係していた・・・。

 ムスリムである『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)の主人公ジャマールは、ヒンドゥー原理主義者たちの襲撃を受け家族を失い、物乞いビジネスやせこい盗みなどで日銭を稼ぎ暮らしてきた過去がある。

 兄はリッチになったが、それは裏社会でのし上がってのこと。

インドではデモにまで発展

 様々な社会のひずみを描きながら、進められていくスラムで生まれ育った男の一攫千金の物語は、世界中で多くの賞を得た社会派エンターテインメント作だが、その一方で、インド国内では、スラムの人々を「Dog」と呼ぶとは、と、デモまで起きている。

 しかし、ダニー・ボイル監督もインタビューで答えているが、これは「Slum」の「Underdog」にエールを送る物語。

 「Underdog」は「負け犬」を表す言葉だが、「loser」とは少々ニュアンスが違う。

 スポーツなどで「負けると思われている者」といった意味で使われ、それが一発大逆転の大勝利、という『ロッキー』(1976)のような物語が人々に勇気を与える。

 さらに転じて、社会不正の犠牲者といった、同情の対象としての意味合いをもつこともある。

 そんな言葉のニュアンスは、かつて日本でも放映されていたアニメ「ウルトラわんちゃん」の実写映画版『鉄ワン・アンダードッグ』(2007/日本劇場未公開)を見ればよく分かる。

 冴えない落ちこぼれ警察犬が、ある日、街を彷徨っていると、捕らえられてしまい、マッドサイエンティスト、バーシニスター博士の研究室に連れて行かれる。

 しかし、実験台とされるうち、人間の言葉がしゃべれ、並外れたスピードとパワーをもつスーパードッグに変身。逃げ出すことに成功し、元警察官一家に拾われ、「Shoeshine」というペット暮らしを始める。

 その一方で、空さえ飛べるスーパーパワーを使うヒーロー「Underdog」として、様々な悪事、特にバーシニスター博士の邪悪な計画に立ち向かっていく・・・。

 落ちこぼれの「負け犬」が、スーパーヒーロー「Underdog」に転じ、世のため大活躍する逆転劇。しかし、偉ぶるどころか結構間が抜けている愛すべき存在なのである。

一匹の子犬を地下に閉じ込めるが・・・

 そんな「Underdog」も、普通のペット「Shoeshine」でいるのが気楽でいいと思う。そうした生活なら、Dog's Lifeは決して「悲惨な生活」ではなく「悠々自適の生活」・・・。

 大学教員のユンジュは大規模団地で身重の妻と暮らしている。根回しなどが苦手で、教授になるチャンスもつかめず、妻にも虐げられ、落ち着かない。

 飼うことが禁止されているはずの犬のほえ声にイラついたユンジュは、一匹の子犬を捕まえると、地下に閉じ込めてしまう。

 一方、単調な生活にうんざりしている管理室勤務のヒョンナムのところに行方不明の子犬の捜索願を持って少女がやってくる。そこには声帯手術で声が出ないと記されている。

 団地に貼られた捜索願のビラを見たユンジュはあわてて地下室に降りて行くが、そこでは警備員が鍋料理を始めており・・・。

 「A dog is man's best friend.」と言われる。しかし、様々な理由から、ペットを飼うことが禁止されている集合住宅は少なくない。

 それでも、韓国映画『ほえる犬は噛まない』(2000)の大規模団地では、堂々犬を飼う者がいて、行方不明犬の捜索願を出された管理事務所自ら、そのチラシを貼っている。

 連続犬失踪事件の関係者たちも皆トホホな状況。ブラックな笑いに庶民の悲哀がにじみ出、大学教員、警備員、OL、独居高齢者、等々、社会的地位も、家族環境も、世代も様々だが、その誰もにUnderdog感が漂う・・・。

 そんな作品の邦題は英題「Barking dogs never bite」の訳。

 「口うるさい者にたいしたことはできない」たとえで、『鉄ワン・アンダードッグ』には、「Shoeshine」としていじめられてきた「Underdog」が、野良犬のボスから同様の表現「All bark, no bite」とからかわれ、「確かに俺は噛まない。だけど、ほえるとすごいんだぜ」と強烈なほえ声をお見舞いする。

能ある鷹は爪を隠す

 才ある者から見れば「能ある鷹は爪を隠す」、やる時はやるのである。

 「Fire and Fury」という題名は、核や「ロケット」実験を繰り返す北朝鮮へのトランプ大統領の昨年8月の恫喝とも言える発言「They will be met with fire and fury like the world has never seen」に由来する。

 そこから両国の非難の応酬は続き、翌9月には、トランプ大統領が国連本部での就任後初の演説で「自国や同盟国を守らねばならなくなれば、北朝鮮を「完全に破壊」するしか選択肢はなくなる」と語ったことから、「『たとえ犬がほえても、パレードは続く』ということわざがある。

 犬のほえ声で驚かそうというのなら、夢でも見ているとしか言いようがない」とリ・ヨンホ北朝鮮外相が言葉を返している。

 トランプ大統領自身、1946年生まれだから、戌年生まれの年男。

 その発言は、ただの「犬のほえ声」なのか、「ほえる犬は噛まない」のか、それとも意外にも本気でほえればすごいのか?

 おそらく、予測不能で突然噛みつく犬だとの意見が多数を占めそうだが・・・。

 トランプ大統領は、科学的、客観的事実より、感情への訴えが強く作用するポストトゥルース時代の象徴。

他人が自分を理解してくれなくても怒らない

 そんな大統領について小泉純一郎元首相は「大統領には日本人の論語的思考は通じないから、安倍首相も苦労するのでは」とテレビや新聞のインタビューで語り、「他人が自分を理解してくれなくても怒らない、それが君子」と論語を引用している。

 しかし、トランプ大統領に君子たれ、などと言う者がいるとは考えにくいし、本を読むのも好きでないというから、論語を渡しても読むことはないだろう。

 「犬に論語」との声がどこからともなく聞こえてくる・・・。

(本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号)

(1357) 犬の生活 (1358) ドッグ・イート・ドッグ (653) (再)ジョニー・マッド・ドッグ (137) (再)スラムドッグ$ミリオネア (1359) 鉄ワン・アンダードッグ (1360) ほえる犬は噛まない

犬の生活


1357. 犬の生活 A dog's life 1918年米国映画

(製作・監督・脚本・主演)チャールズ・チャップリン
(出演)エドナ・パービアンス、シドニー・チャップリン

 職にあぶれた放浪者(Tramp)が、いじめられていた雑種犬を拾い、ともに暮らすうち、大金を得るドタバタ逆転劇を笑いと涙で描くチャップリンの代表作の1つ。

ドッグ・イート・ドッグ


1358.ドッグ・イート・ドッグ Dog eat dog 2016年米国映画

(監督)ポール・シュレイダー
(出演)ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー

 3人の前科者が人生をかけ挑んだ誘拐劇が、後先考えぬ1人の行動から悲惨な末路をたどる様を描く、自身、刑務所生活経験者であるエドワード・バンカーの原作を、『タクシードライバー』(1976)の脚本家で『アメリカン・ジゴロ』(1980)などの監督作のあるポール・シュレイダーが映画化したバイオレンスアクション。

ジョニー・マッド・ドッグ


(再)653.ジョニー・マッド・ドッグ Johnny Mad Dog 2007年フランス・ベルギー・リベリア映画

(監督)ジャン・ステファーヌ・ソヴェール
(出演)クリストフ・ミニー、デジー・ヴィクトリア・ヴァンディ

 内戦下のリベリアで、少年兵部隊のリーダーである15歳の少年の暴虐ぶりと救いのない生活を、ドキュメンタリー出身のソヴェール監督が描き、国連本部でも上映された異色作。

スラムドッグ$ミリオネア


(再)137.スラムドッグ$ミリオネア Slumdog millionaire 2008年英国・米国映画

(監督)ダニー・ボイル
(出演)デヴ・パテル
(音楽)A・R・ラフマーン

 「スラムドッグ」とは、「スラム」と「アンダードッグ」を掛け合わせた造語。

 そんなスラム出身の「負け犬」の若者が一攫千金を果たし恋愛まで成就させてしまう様を、インドポピュラー音楽界の売れっ子、A・R・ラフマーンのド派手な音楽をバックに描くファンタジー・エンターテインメント。

 その細かなプロットに、現代インドの抱える問題がさりげなくちりばめられている社会派映画でもある。

鉄ワン・アンダードッグ


1359.鉄ワン・アンダードッグ Underdog 2007年米国映画(日本劇場未公開)

(監督)フレデリック・デュショー
(出演)ジム・ベルーシ、ピーター・ディンクレイジ

 さえない元警察犬が、スーパーパワーを得て、マッドサイエンティストと戦うかつての人気テレビアニメ「ウルトラわんちゃん」の実写映画化。「dog」に関する様々言葉やパロディが登場するのも楽しい。

ほえる犬は噛まない


1360. ほえる犬は噛まない 플란다스의 개 2000年韓国映画

(監督)ポン・ジュノ
(出演)ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ

 ペット禁止の巨大団地を舞台に、失踪した犬をめぐり、管理事務所の経理担当OL、教授の椅子を狙う弱気の大学教員、1人暮らしの高齢者、犬食好きの警備員などが織りなす人間模様を『殺人の追憶』(2003)のポン・ジュノ監督が描くブラックコメディ。

筆者:竹野 敏貴