トヨタは2017年末、2025年頃までにすべての車種を電動車にするという次世代戦略を明らかにした。電動車の中には、HV(ハイブリッド車)FCV(燃料電池車)など、エンジンのみで駆動する車種以外のすべてが含まれている。いわゆる全方位戦略と呼ばれるトヨタの従来方針を踏襲したように思えるが、中身をよく見ると、EV(電気自動車)化を強く意識したものであることが分かる。今回の発表は、トヨタにおける事実上のEVシフト宣言と捉えてもよいと筆者は考えている。

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FCVの可能性を残しつつPHVを主力に

 トヨタ自動車は2017年12月18日、2030年に向けた電動化ロードマップを発表した。2030年における電動車のグローバル販売台数については550万台を見込んでおり、このうちゼロエミッション車(二酸化炭素などの排気ガスを排出しない自動車)に該当するEVとFCVは100万台としている。

 これによって同社が販売する車種は、すべて電動専用車もしくは電動グレード設定車となり、エンジン車しかない車種は消滅する(車種がなくなるだけで、エンジン車がなくなるわけではない)。550万台という数字はあくまで絶対値であり、全体の販売台数に対する比率は分からない。同社の2017年における販売台数は約1000万台なので、現時点を基準にすれば半数以上が電動車ということになる。

 ここでいうところの電動車には、HV、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV、EVの4種類が含まれる。これまでトヨタは、FCVを次世代車の主役と位置付け、1兆円を超える開発資金を投じてきた。

 水素社会は日本の国策にもなっているが、現実問題として、全国各地に水素ステーションを建設するのは並大抵のことではない。海外の自動車メーカー各社も、当初はFCVとEVの両睨みで開発を進めてきたが、ほとんどがFCVには見切りを付け、EVシフトを進めている状況だ。

 こうした状況を受けてトヨタは、全方位戦略というスタンスを打ち出し、あらゆる技術に対応できるよう体制を整えるとしてきたが、総花的な戦略はどれも中途半端に終わってしまうリスクをはらむ。

 さらに困ったことに、米カリフォルニア州や中国など、エコカーシフトを戦略的に進めている地域では、HVをエコカーから外す動きが加速している。最終的にトヨタが選択したのは、FCVの可能性を残しつつ、HVを後退させ、あらゆる状況に対応できるPHVを主力に据えるという戦略であった。

 今回、発表された電動化戦略もこうした方針に沿ったものであり、具体的な台数こそ明らかにしていないが、PHVの割合が圧倒的に高くなることは明白である。

EVシフトを促す中国市場を無視できない

 ここで重要になってくるのがPHVの位置付けである。PHVは充電可能なハイブリッド車なので、設定にもよるが限りなくEVに近い仕様にすることもできる。PHVの位置付け次第では、トヨタはEV化に完全に舵を切ったと解釈することもできるし、慎重なスタンスを崩していないとの解釈も可能だ。

 トヨタは基本的にEV化の動きに対して慎重であるとの見方が一般的だが、今回の電動化戦略によって、そのスタンスが変わってきたと筆者は考えている。その理由は、中国におけるEV販売戦略とFCVの位置付けの変化である。

 同社は、中国を皮切りに2020年から量産型EVを本格展開するとしており、中国市場を重視する姿勢を鮮明にした。中国政府は昨年9月、エコカーを一定割合で生産・販売するようメーカーに義務付ける新しい環境規制を発表している。新規制においてエコカーとして認められるのは、EV、PHV、FCVの3種類となっており、ここにHVは含まれていない。したがってトヨタがHVを使って中国市場を攻略するのは不可能である。

 ではHVでなければよいのかというと、そうもいかない。中国の新規制はポイント制を採用しており、エコカーを販売するとポイントが加算される仕組みになっているのだが、PHVよりもEVを投入した方が圧倒的に有利な設定となっている。例えば、航続距離が300kmのEVを生産した時のポイントは約4.4だが、PHVでは半分以下の2ポイントにしかならない。今回の新規制は、事実上、EVへのシフトを強く促すものと考えてよいだろう。

 中国における年間自動車販売台数は2800万台を超えており、日本はもちろんのこと(日本はわずか500万台)、米国市場をはるかに上回る巨大市場に成長した。自動車産業は典型的なグローバルビジネスであり、世界市場でのシェアは重要な意味を持つ。トヨタのようなトップクラスのメーカーの場合、中国市場を攻略できなければ、たちまちトップメーカーから転落してしまうリスクがある。

 トヨタが今後も最強のメーカーであり続けるには中国市場の攻略は絶対条件といってよい。中国政府がPHVよりEVへのシフトを強く促している以上、トヨタもこれに沿った販売戦略にシフトせざるを得ないのが現実だ。

4種類の棲み分けが微妙に変化

 トヨタは電動化戦略においてPHVを主軸にしているように見えるが、限りなくEVに近いPHVというのが現実解なのだと思われる。PHVに対するニーズが強い地域にはPHVを投入し、中国や欧州などEVシフトが進んでいる地域向けには、エンジンを搭載しないPHV、つまりはEVを投入するという使い分けが可能となる。

 今回の電動化戦略では、FCVの位置付けも微妙に変化させた。

 これまで同社は、走行距離と車両の大きさによって次世代車の棲み分けが成立すると認識していた。移動距離が長く車体も大きいトラックや路線バス、そして一部の乗用車はFCVとし、一般的な乗用車はHVとPHV、近距離向けの小型車はEVという区分であった。

 だが今回の電動化戦略の公表にあたっては、従来のカテゴリー分けに変化が見られた。これまで小型車のみとしていたEVが一般乗用車領域もカバーするようになり、乗用車の領域は、あらゆる車種が混在する形になった。大型車の一部については、必ずしもFCVとは限らないというニュアンスがにじみ出ている。

 こうした市場カテゴリー分けの変化は、EVシフトが予想外に進む可能性が出てきたことと大きく関係しているだろう。従来であれば、いくらEVシフトが進むといっても、長距離トラックなどの分野では圧倒的にFCVが有利と考えられていた。ところが米テスラ・モーターズが大型トラックの分野で戦略的な製品を発表したことで、その流れも変わりつつある。

テスラが発表したEV大型トレーラーの影響

 テスラが発表したのは、バッテリーのみで動くEV大型トレーラーである。航続距離が300マイル(約480km)のモデルと、500マイル(約800km)のモデルの2種類があり、従来の大型トレーラーと比較して大幅にコストを抑えられるという(テスラでは20万ドルのコスト削減が可能と主張している)。

 バッテリーの容量や貨物の積載量など、公開されているスペックから、筆者が運行コストを試算してみたところ、年間200万円程度の削減が可能であった。利用期間が10年と仮定すると20万ドルという数字もあながちウソではない。内燃機関の自動車と比較してEVの方が燃費(厳密には電気代)が安いことはよく知られており、テスラの大型トレーラーについてもコスト削減分の多くは燃料代である。

 大型トラックにEVを採用することの懸念材料は航続距離だが、テスラのモデルがカタログスペック通り、800kmの距離で問題なく運用できるのであれば、大型車両でもEV化が可能となる。

 このあたりはバッテリーの性能にも左右されるので、現時点で断言はできないが、一連の動きがトヨタの戦略に大きな影響を与えたことは間違いない。

 あくまでトヨタは、FCVを主軸とする全方位戦略を撤回していないが、今回の電動化戦略の公表は、事実上のEVシフトと考えてよいだろう。

 トヨタは従来の自動車産業においては圧倒的な存在であり、EV化があまり進まなければ引き続きトップメーカーであり続けるのは確実といえる。逆にいえば、トヨタにおける最大のリスクはEV化が予想以上に進展することである。

 その意味において、今回、トヨタが事実上、EV化に舵を切ったということは、基本的にはよいニュースと受け止めるべきだろう。あとは市場の動向に合わせてどれだけ柔軟に投入車種を選択できるかというところにかかっている。

筆者:加谷 珪一