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「株価と雇用」を自画自賛するトランプ

 ドナルド・トランプ米大統領は、就任2年目に入り、株価の上昇や低い失業率など好調な経済状況を政権の成果と自画自賛している。

 しかし、それをまともに受け止めるのは大企業と共和党支持の白人層だけ。支持率は30%台を低迷している。主要メディアは執拗に大統領の品格のなさを批判し続けている。

 主要政策では、議会共和党、民主党は真っ向から対立し、予算は会計年度が始まる2017年10月から4か月近く経った今も成立せず。暫定予算でしのいでいるが、20日には新たな暫定予算が認められず、一時は政府機関の一部閉鎖にまで追い込まれた。

 そんな状況の中で、メディアは<2020年大統領選挙にいったい誰れがトランプ大統領の対立候補になるか>と予想し始めている。

リベラル派よりも中道派を模索する民主党

 トランプ大統領が再選に意欲を見せている。周辺は勝つと強気だ。

 一方、挑戦者の民主党では、エリザベス・ウォーレン上院議員やバーニー・サンダース上院議員といった著名政治家のほか、成長株、カマラ・ハリス上院議員の名前が挙がっている。

 しかし、いずれも「リベラルすぎる」ことから党内には難色を示す向きもある。

 そうした中で、今注目されているのが、中道派超ベテランのジョン・バイデン前副大統領(74)の存在だ。

 上院議員歴36年、上院司法、外交両委員長を歴任。副大統領を2期務めた、文字通り民主党の重鎮だ。年齢的にもトランプ氏よりも年上。

 すでに「過去の人」と陰口も聞かれるが、いくつかの世論調査では、「トランプ再選を阻む最有力候補はバイデンだ」と答える米国民が半数近くに上っている(参照=https://poll.qu.edu/national/release-detail?ReleaseID=2513)。

 余談だが、大統領候補と言えば、超人気テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーさんへの大統領選出馬への待望論が出ている。

 司会業のほか、ケーブルチャンネルやダイエット企業の株を持ち、資産額は28億ドル(約3100億円)の黒人女性の億万長者だ。

 トランプ氏と大統領選を争えば、52%対39%でウィンフリーさんが勝つとの世論調査結果も出ている。

 その半面、66%が「政治音痴のセレブが大統領になるのはトランプでこりごり」と答えている。このウィンフリー待望論はどうも「話のタネ」の域を出ていない。

今、「回顧録」を出した理由

"Promise Me, Dad: A Year of Hope, Hardship, and Purpose," by Joe Biden, Flatiron Books, 2017


 そのバイデン氏が2017年末に出した「回想録」が今ベストセラーになっている。

 2015年、息子のボー氏(享年46歳)を脳腫瘍で亡くしている。

 バイデン氏は1972年、30歳の若さで上院議員に当選した直後、妻のネイリアさんを交通事故で失った。

 同乗していた3人の子供のうち長女も死亡。2人の息子ボー氏とバート氏は瀕死の重傷を負う。

 亡くなったボー氏は、その後、政界入りし、デラウェア州政府の司法長官を2期務めていた。将来、大統領になる器だと、地元紙は書いていた。

 本のタイトル、「Promise me, Dad」(パパ、僕に約束してくれ)は死ぬ直前にボー氏が父バイデン氏につぶやいた一言だった。

 「息子は言った。『僕は何があっても大丈夫だ。だから約束してほしい。僕にどんなことがあってもパパは大丈夫だと言ってくれるかい』。私は『大丈夫だよ。ボー』と答えた」

 「息子は言った。『それだけじゃだめだ。1人のバイデンとして言葉に表してくれ。パパ。<約束する>と言ってほしいんだ』。私は『分かった、約束する』と答えた。ボーは、父である私にも死んでいく自分と同じような心の安らぎを与えようとしてたのだ」

 副大統領としてバラク・オバマ大統領を支えてきた多忙の日々。その激務中で最愛の息子が父を置き去りにして去っていく悲しみ。その悲しみを乗り越えて重職を全うし、翼を休めたかに見えるバイデン氏。

 「回想録」に描かれた家庭を愛するバイデン氏の姿は多くの人々感動を与えている。

 だが、生き馬の目を抜くワシントン政界の読み方は異なっている。行間には2020年出馬への秘めた決意が滲み出てとみる向きが少なくないのだ。

 それにはそれなりの理由がある。昨年夏頃からバイデン氏の周辺も慌ただいくなっている。

 2017年6月にはバイデン氏出馬を前提にした政治行動委員会(PAC)「American Possibilities(アメリカの可能性)」を設立。同委員会の責任者にオバマ氏の選挙キャンペーンに2度も携わったグレッグ・シュルツ氏が就任している。

行間ににじみ出ている2020年出馬への「決意」

 そう思って本書を通読していくと、その「決意」が何か所か出てくる。

 バイデン氏は、2015年7月、アンドルー・クオモ・ニューヨーク州知事と5時間話した時、同知事は、父親のマリオ氏が大統領選出馬を断念した時、言っていたことをまず回顧している。

 「マリオ氏はアンドルー氏にこう述べた。『決断を下す時大切なことは後で後悔しないことだ。なぜならその決断は自分に一生ついて回るからだ』と。マリオ氏はその年の後半、他界した」

 バイデン氏はこれまでに2度大統領選に出馬したが、2度とも途中で撤退している。1度目は1988年、予備選の最中に行った演説が英労働党党首の演説の内容を盗用したとの疑いが持ち上がり、撤退に追い込まれた。

 2度目は2008年の予備選前半のアイオワ州で第5位、ニューハンプシャー州では第6位と振るわず、諦めた時だ。

 今度出るとすれば、まさに「三度目の正直」ということになる。

 2020年大統領選出馬への「決意」は、バイデン氏が尊敬するドイツの哲学者、イマヌエル・カントの言葉を引用することで示唆しているようにも思える。

 「カントは言う。『幸福になるためのルールは3つある。何かをすること。誰かを愛すること。そして何かに希望を抱くこと』」

 「私が2016年大統領選に立候補しなかった理由は息子ボーの死別と無関係ではなかった」

 「出馬するか否かは、すべてボーのこと、そして目標、希望ということと絡み合っていた。出馬を断念したことはまさにボー(のこと)を忘れてしまうと言っていると同義語だった」

 「私は残りの人生をどう過ごしたいのだろう。できるだけ長い時間家族と過ごすこと、そして米国という国を変化させ、世界をより良い場所にしたい」

 「そのためにやるべきことは、自分が目的とするものよりも大きい。その責務は自分に希望を与えてくれるだろう。将来に向けて私をノスタルジックにさせてくれるのだ」

「運命を尊ぶが、何が起こるか分からない」

 バイデン氏は、大統領選出馬について、本書が出た直後のNBCテレビのインタビューでこう述べている。

 「(大統領選に立候補するという)扉は閉じていない。私は(政界には)長いこと関わり合いを持ってきた。私は運命というものを尊ぶ。けれどもこれから1年半後に何が起こるか誰も分からない」

 「私のアイルランド系の母親は私によく言っていた。『生きている限り、一生懸命努力する責任があるわ。神様と目と目が合うまであなたは死んではいないのよ』。まさにアイルランド人の真骨頂とでもいうものかもしれないね」

(参照=https://www.nbcnews.com/politics/politics-news/former-vp-joe-biden-says-he-s-not-closing-door-n820156)

日米関係を知り尽くしたバイデン

 暴露本(「Fire and Fury」=「炎と怒り」)のお陰でトランプ氏の大統領としての素質が問題視されている。

 大統領選挙中、同氏を身近に見てきた選挙参謀の1人は、「トランプ氏は自分の知らないことが何であるかは知っている。しかしその知らないことを知る必要性は全く感じていない」と述べている。

 トランプ政治の問題点はまさにそこにあるのだろうが、政権2年目に入ってもそれを変える意図は全くないようだ。

 バイデン氏は本書ではトランプ大統領については一切触れていない。しかし、昨年12月13日のCBSとのインタビューでは、トランプ政権の最大の欠陥は、外交政策にあると指摘している。

 「今米外交の最大の懸案は東アジアだ。トランプ大統領の外交スタンスもさることながら外交の司令塔であるレックス・ティラーソン国務長官は国務省に綺羅星のごとくいる外交のエクスパートを使いこなせていない。これではまともな外交などできっこない」

(参照=http://www.cbs.com/shows/cbs_this_morning/video/q2OP4R_JHw4YQBjMlMg9kma5OFelgDFI/joe-biden-on-promise-me-dad-and-his-journey-to-regain-hope-and-purpose-/)

 バイデン氏は内政・外交に精通したオールラウンド・プレーヤーだ。

 選挙中トランプ氏が日本の核武装に言及した際には、「日本が核を保有できないとする日本国憲法を作ったのは米国なんだぞ」と一蹴。(参照=https://www.apnews.com/af44536131b34653a146b1b1807086d7)

 また中国の習近平国家主席が「中国人民解放軍は米国が中国を包囲しようとしていると考えている」の述べたのに対し、「米中の連携がなければ、日本の核保有はあり得る。日本が核兵器を保有したら中国はどうする、日本は一晩で核兵器を保有する能力がある」との認識を示している。

(参照=https://www.forbes.com/sites/timdaiss/2016/06/25/japan-could-go-nuclear-virtually-overnight-joe-biden-tells-chinese-president/#20c1e992161)

 品格といい、政治経験といい、トランプ氏にはないものすべてを兼ね備えているバイデン氏。その一挙手一投足に目が離せない。

筆者:高濱 賛