ひき肉などのたねを葉で包んで煮込むと、ロールキャベツに。


 1935(昭和10)年創刊の月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部刊)の2号目から付録についたのが1枚の小さなカード「栄養と料理カード」。健康に留意したおいしい料理が誰でも作れるように、材料の分量や料理の手順、火加減、加熱時間、コツなど納得のいくまで試作を重ね、1枚のカードの表裏に表現。約10×13cmの使いやすい大きさ、集めて整理しやすい形にして発表した。
 この「栄養と料理カード」で紹介された料理を題材に、『栄養と料理』に約30年にわたり携わってきた元編集長が、時代の変遷をたどっていく。

 野菜の高騰が続くとほとほと困る。昨秋の台風や長雨の影響のようだ。例年であれば、霜が降りるこの時期は、ほうれん草や小松菜などの葉物も、大根やごぼうなどの根菜も、寒さから身を守るために中身を充実させる。

 冬キャベツもそう。身が締まって滋味豊か、ロールキャベツなどの煮込み料理にもってこい。が、残念なことに今冬はまだ1回も作っていない。

 じっくり煮込んで箸で切れるほどトロトロになったロールキャベツは、肉のうま味と野菜の甘味が凝縮してホッとする味わい。わが家ではカレーやおでんなどとともに、残業で帰宅が遅くなる日のためによく作り置く料理の1つだ。

 近ごろのキャベツは、2分の1個や4分の1個の切り売りが当たり前になったが、これでは通常のロールキャベツは作れない。丸ごと1個を買う。芯をくり抜いて1枚ずつ丁寧にはがし、軸は薄く削って平らに。それにより生じる切れ端も、香味野菜のにんじんや玉ねぎ、セロリとともに薄切りにし、ベーコンも加え、キャベツのゆで汁を煮汁としてロールキャベツを煮込む。好みは塩とこしょうでご飯に合う味つけ。風味づけでしょうゆを加えることもある。

 キャベツが日本に伝来したのは18世紀初頭の江戸時代、当時は観賞用(葉牡丹)だった。食用として栽培が始まったのは幕末以降。明治末期には一般にも広がりはじめたが、第二次世界大戦後、食の洋風化に伴い急速に消費量が増えたそうだ。意外に新しい野菜といえる。

『栄養と料理』の中に、ロールキャベツを探すと・・・。

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肉はキャベツをおいしくするための味だし――昭和13年

『栄養と料理』1938(昭和13)年12月号の表紙と「お臺所讀本(おだいどころどくほん)」で紹介された「ロールキャベツ」。「瓦」はg(グラム)。「鹽」は塩のこと。


『栄養と料理』を創刊した香川綾(医師・栄養学者)は料理記事も執筆した。医学や栄養学の理論を日々の暮らしで実践することで、人々の栄養改善ができるという信念を持っていた。料理を科学の視点でとらえ、誰にでも合理的な作り方でおいしい味が再現できる方法を数量化して発表した。1938(昭和13)年12月号の記事「お䑓所讀本」にある「ロールキャベツ」もその1つ。

 作り方は現在と変わらないが、キャベツ丸ごと1個に対してひき肉(牛・豚)は250gと少なく、肉のつなぎになるパン粉は、パン屑の表記で半斤(約200g)と多い。パンは肉だねのボリュームを保ち、柔らかくふんわり仕上げる役割。肉は味だしのための存在で、当時のロールキャベツは、肉料理というよりは野菜料理といえる。

 また、野菜の食べ方についての解説も興味深い。当時の日本人は、菜っ葉を煮るとき歯触りを大切にして煮すぎないようにしていると指摘して、「ロールキャベツがスプスプに柔かくなるまで煮込んだ方が美味しうございます。(略)お箸で楽に挟み切れる位の柔かさに煮上げて、御飯のお菜に向く様に作りましたなら、キャベツはもっともっと皆様の食卓に親しいものとなるのではないかと思ひます」と続ける。

 読者に、野菜の煮込み料理にもキャベツにもっと親しんで、おいしさを味わってほしいと勧めている。

1人分で牛ひき肉50gにパン粉40gも――昭和16年

1941(昭和16)年9月号の表紙と「栄養と料理カード」。


「栄養と料理カード」の中からは、ロールキャベツを3枚見つけた。

 1941(昭和16)年9月号のロールキャベツは、キャベツとひき肉(牛)、パン屑、玉ねぎの分量も前述の「お䑓所讀本」とほぼ同様で、5人分としている。パン屑は水に浸して柔らかくし、水気を切ってからひき肉と玉ねぎを混ぜ合わせ、5つに丸める。

 キャベツは大小2枚を組み合わせ、塩(キャベツの1%)とこしょうで下味をする。肉だねを手前に置き、手前から向こうに巻き、途中で一端を折り、最後に他方の端を肉だねに押し込むようにして俵形に整え、固く巻く。

 これが巻き方の解説だが、文字だけでは、しかもロールキャベツを初めて知るという人には難しいだろう。ロールキャベツが隙間無くきっちり入るような鍋に並べ入れて煮込むのは、煮くずれを防ぐためだ。

 ハムやベーコンの切れ端、脂身を一緒に煮込むとおいしい。味つけはしょうゆやトマトソースで煮込み、この汁をかけてもおいしいと応用例も解説する。

和名「キャベツまき」。口絵と連動して分かりやすく――昭和29年

『栄養と料理』1954(昭和29)年6月号の口絵グラビア写真。肉だねの作り方、キャベツにのせた肉だねの包み方がよく分かる。


 1954(昭和29)年6月号では、口絵の2ページで、「ロール・キャベツ」の作り方を13枚の写真を用いて丁寧に紹介。付録の「栄養と料理カード」と連動した内容だ。料理名はかっこで「キャベツまき」と入る。聞き覚えのある名称だが、おでんだねに入っている、かんぴょうで巻いたキャベツ巻きを思い出した。これはロールキャベツが元になったのだろうか。

 5人分の材料が写真に納まっているが、準備のもれもなく、段取りよく調理ができる。モノクロ写真で印刷技術も発展途上なので見にくいが、1点1点細やかな手順が写真から判読することができる。当時の雑誌としては画期的なことだったのかもしれない。

 驚いたのは、肉だねをすり鉢とすりこ木ですり混ぜているところ。順に材料を加えていくやり方だ。写真が不鮮明で判読しにくいが、粘りが出るくらいまで混ぜたのだろうか。まるで魚のすり身を作るようである。全体がよく絡み合い、口当たりがなめらかになるのは確かだ。

 まな板にキャベツ2枚を広げて塩とこしょうを振って下味する方法も、肉だねをのせて巻く方法も、鍋に玉ねぎとにんじんを敷いてロールキャベツをきっちりと並べる方法も、油を塗った落としぶたをして煮込む方法も、仕上がりの様子も写真で分かる。

 落しぶたには、火の回りがよくして一様に柔らかく煮る、ロールキャベツが鍋の中で踊らないようにして煮くずれを防ぐ役割がある。

 前書きで「栄養と料理カード」の真髄が語られていた。要約すると、目分量と手加減で作る料理は、モノサシなしの裁縫と同じで、料理を充分に会得するには失敗とムダが伴う。それは料理に数学の公式や洋裁の原型(型紙)がないからである。この「栄養と料理カード」はひとつの料理をあらゆる面から割り出した型紙であり、この型紙を用いればいつでも、どこでも、だれにも必ず一定の美味な料理が作れると、自信をもって薦めている。

 では、その「栄養と料理カード」のほうも見てみよう。

ひき肉と副材料はすり鉢ですり混ぜる――昭和29年

『栄養と料理』1954(昭和29)年6月号。右下にある広告も興味深い。


 表面には材料やコツのほかに、材料の応用や器具も明記されている。たしかに道具は「すり鉢、すりこ木」。今では肉だねはボールで混ぜ合わせる。すり鉢は多くの台所から姿を消してしまった調理道具の1つだが、ごまあえや白あえなどのあえ物を作るときや、魚のすり身を作るときなどに活用していた。すり混ぜて口当たりをよくするという機能はすり鉢でこそ。ミキサーやフードプロセッサーでは不十分である。

 材料は、1人分ロールキャベツ2個、1個はキャベツ2枚使うからキャベツ4枚で200〜250gにもなる。この1品で1日分の野菜の必要量の半分以上がとれる。

 戦前のレシピと比べると、肉の80%も入れていたパンの分量が15%に減る、食パンの耳を除いて水ではなく牛乳に浸す、肉だねにはナツメグが入る(この頃には香辛料も手に入りやすくなったのだろう)、煮汁はスープ(湯とグルタミン酸ソーダ)とトマトソースを使う、最後に煮汁を水どき小麦粉を加えてとろみをつける、などが異なる。

 グルタミン酸ソーダとはいわゆる「味の素」を指すのだろう。長く使われ、『栄養と料理』誌上でも何回もレシピに登場していた。

 ゆでたキャベツの下味は塩分1%、肉だねは塩分1.5%、つなぎは肉の20%、煮汁の量は材料の高さの半分でよい、煮汁に対して3%の小麦粉でとろみをつける、など作る分量(人数分)が異なっても対応できるように割合で示してある。

ひき肉1人分100gで立派な主菜に――昭和46年

1971(昭和46)年3月号。写真は器の大きさに合わせて3人分6個の盛りつけ。


 1971(昭和46)年3月号の「ロールキャベツ」では、肉は1人分豚ひき肉100gとなり、堂々の主菜格に。香辛料としてナツメグ、月桂樹の葉、化学調味料も明記されている。

 4人分でつなぎのパンは1枚(50g、肉の12.5%)。煮汁は水1カップと少なめで、素材そのものの水分を利用して、うま味を引き出すようにしている。

 味つけは塩とこしょうだが、応用として白ソース(ホワイトソース)やトマトケチャップをかけたり、煮汁に小麦粉をバターで練り合わせたブールマニエを煮汁に加えて濃度をつけてもよいと説明する。

煮込むほどにおいしくなる

 以上4つのロールキャベツに共通するのは、キャベツのゆで方と煮方。キャベツの芯をくり抜いて熱湯に入れ、1枚ずつはがして水気を切り、芯は薄く削ぐか包丁でたたきつぶす。2枚を組み合わせてまな板に広げて下味をし、肉だねを巻いて俵形に。鍋にすきまのないように並べ入れ、落しぶた(紙ぶた)をして沸騰後中火で30〜40分あるいは40〜50分煮込む。煮込むほどにおいしくなる一品である。

 なお、参考までに明治期の料理書も開いてみた。西洋料理が入ってきた黎明期からロールキャベツは名を連ねている。

 1904(明治37)年刊行の『和洋 家庭料理法 全』(赤堀峯吉著、自省堂)では「ロールキャベーヂ」とある。同書は、1882(明治15)年に日本で初めて女性向けの料理学校「赤堀割烹教場」を開設した赤堀による、家庭向け料理書。牛豚ひき肉の肉だねにはとき卵が入り、キャベツで包んでせいろで蒸すというもの。それにトマトソースをかけた。

 また、「キャベツ巻」を1910(明治43)年刊行の『四季の臺所』(中川良平著、女子新聞社)で見つけた。中流以上の家庭の主婦向けの料理書で、後半には「女中への注意」という項目もある。キャベツ巻きは「軽便なる西洋料理」の項目に、牡蠣フライやライスカレーと並んで紹介されている。肉だねにシェリー酒やとき卵が入り、トマトスープで煮る。いずれにしても、限られた人が見ていた料理書だろう。

 冬キャベツには、春に出回る新キャベツ(葉が柔らかく生食に向く)とは異なるおいしさがある。さて今冬。野菜の高騰が落ち着いてロールキャベツを作れるようになる日が待ち遠しい。

筆者:三保谷 智子