パブリッシャーにとってYouTubeは、Facebookよりも視聴者数を増やすのが難しいプラットフォームだろう。ただし、YouTubeへのコンテンツ公開やYouTube用の動画制作に時間を費やしているパブリッシャーは、劇的な視聴者数増加に成功している。

たとえば、若い視聴者層をターゲットにCNNが実験的に立ち上げたソーシャル動画を専門とする子会社、デジタル動画の新興企業グレート・ビッグ・ストーリー(Great Big Story:以下、GBS)。同社は2015年の設立以来、動画をYouTubeで公開し続けてきたが、2017年にチャンネル登録者数が5倍に増加し、160万人に到達したのだ。

費やしている時間だけ見れば、YouTubeは現在同社の最大のプラットフォームである。事実、YouTubeでの同社チャンネルの視聴時間はFacebook、インスタグラム、GBSのサイトおよびアプリを含む、すべてのプラットフォームの合計視聴時間のほぼ半分を占めているのだ。CNNの新興ブランドのオーディエンス開発部門バイスプレジデント、ハリール・ジェタ氏によれば、YouTubeのユーザーは平均で毎月1億分以上同社のコンテンツを視聴しており、これが同社に7000万ドル(約77億円)の収益をもたらしているという。

エバーグリーンコンテンツ



「当社の(YouTubeでの)成長の90%以上が有機的成長」とGBSのゼネラルマネージャーであるウエン・ティウ氏はいう。「アルゴリズムによって何度も繰り返し表示されるエバーグリーンコンテンツ(長期にわたってユーザーに価値を提供し続けるコンテンツ)のライブラリを体系的に構築してきたことが実を結び、昨年YouTube市場で当社に転機が訪れた」。

同社のYouTubeチャンネルには、サイエンス、食べ物、旅行、自然などさまざまなトピックをテーマにした1400本以上の動画がアップされている。つまり「The Amazon’s Boiling River Kills Anything That Enters(入るものすべてを死に至らせるアマゾンの沸騰する川)」などの動画は、いまもはじめて公開された2カ月前と変わらず視聴者にとって意味のある動画だということだ。

また、ある動画を視聴したユーザーは、GBSのYouTubeチャンネルにアップされているほかの動画を視聴したくなる傾向にある。たとえば、英国のもっとも人里離れたパブを取り上げたGBSの動画を見つけたYouTubeユーザーは、興味をひかれ、同社が制作した面白そうな秘境に関するほかの動画を探すのだ。ジェタ氏によれば、同社のYouTubeの視聴回数の約75〜80%を占めているのは、動画リストからの視聴回数だという。

「当社の動画リストは、チャンネル登録者数の増加に直結している。当社は、公開後5日間は視聴回数が急速に伸びるが長期的には視聴回数がさほど増加しないニュースやエンタメ情報といったバイラルな内容の動画は制作していない」と、ジェタ氏はいう。

動画視聴という明確な目的



また、ニュースフィードでユーザーに動画を視聴することを強制するのではなく、動画を視聴するという明確な目的を持ってユーザーがアクセスするウェブ上の唯一の場所としてYouTubeを維持するうえでも動画リストが役立っているという。アメリカのオンラインニュースサイトVox.com、アメリカの雑誌およびマルチプラットフォームパブリッシャーのアトランティック(The Atlantic)、カタール、ドーハに本社を置く衛星テレビ局アルジャジーラ(Al Jazeera)のオンラインニュースチャンネルAJ+などほかのパブリッシャーは、YouTubeのアルゴリズムにより定期的に表示される可能性の高いエバーグリーン動画や尺の長い動画に的を絞ることで、YouTubeのチャンネル登録者数を増やし、視聴時間を伸ばしている。

GBSがYouTubeでこれまでに公開している動画の尺は大体2〜3分だが、同社はいま10〜20分、もしくは20分以上の尺の動画の制作に取り組んでいる。これには、グレート・ビッグ・フィルム(Great Big Films)という名前の下で公開されているドキュメンタリータッチのオリジナル動画(GBSはYouTubeでこれまでにこのシリーズの動画を11本公開している)と、複数の動画を1本の動画にまとめたグレート・ビッグ・リール(Great Big Reels)というシリーズの動画(GBSはこれまでにこのシリーズの動画を177本公開している)が含まれる。

「配信コンテンツの制作者にとって、最大の課題は20分以上飽きさせないために当社のコンテンツに視聴者を引き付け続けることだ。それはつまり、視聴者が真剣に視聴していることになるからだ。人は有無を言わせずに与えられた30分の動画を最後まで視聴できないものだ」と、ジェタ氏はいう。

尺の長い動画の公開を開始してすぐに成功が見込める結果が得られている。ジェダ氏によれば、動画の尺が3分か30分かを問わずGBSのYouTube動画のリテンションレート(視聴者維持率)は平均で70%だという。

揺るぎない基盤を築く1年



GBSの尺の長いコンテンツへの事業拡大は昨年発表され、現時点では配信開始日が未定のGBSブランドのストリーミング動画ネットワークの前触れにもなっている。YouTubeでの尺の長い動画の公開に加え、GBSはストリーミングサービスであるPluto TVとXumoのサービスでGBSブランドのチャンネルを配信するため、先日両社と配信パートナーシップ契約を締結した。これらのプラットフォームに加え、セッションタイムが平均37分のGBSのApple TVアプリからのデータは、ストリーミングネットワークがどのようなものになるか、どのような番組を制作するかに関する情報を提供するデータとなるだろうと、ティウ氏は予想している。

「当て推量で(ストリーミング)ネットワークの配信を開始するのではなく、すでに当社の動画を視聴することにかなりの時間を費やしている既存の視聴者を配信開始後にネットワークの視聴者に転換できるようにするため、2018年はYouTubeなど視聴者が当社の動画を視聴するために時間を費やしているプラットフォームに注目していく予定である。このため、今年は当社にとって揺るぎない基盤を築く1年となるだろう」と、ティウ氏は締めくくった。

Sahil Patel(原文 / 訳:SI Japan)