「冬の第1月曜の朝」に心臓病が最も起こりやすい理由は?(depositphotos.com)

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「時計遺伝子」の解明が進むにつれて、「体内時計」が「サーカディアンリズム(概日リズム)」を保つしくみがわかってきた。

 「Bmal1」「Clock」「Per1」「Per2」「Cry1」「Cry2」という6種類の時計遺伝子が連動して働き、24時間周期のリズムを作り出しているのだ。

 このしくみを「コアループ」と呼ぶ。コアループが壊れてしまわないように保護する働きをする時計遺伝子も複数見つかっている。こういった事柄を医学的に研究し、治療に応用することを目的した「時間医学」に今、注目が集まっている。

 長年、この分野の研究と治療への応用に取り組んできた、大塚邦明医師(東京女子医大名誉教授)に訊いた。

心臓病が最も起こりやすいのは<冬の第1月曜の朝>

 24時間周期のリズムを刻む体内時計は、地球の自転に伴って昼夜の交代がある環境に適応するためのしくみだ。じつは、体内時計が作り出すリズムには、「1日周期」のみならず「月単位」や「年単位」などのリズムもあると考えられている。

 「体内時計の作り出す『生体リズム』は、地球と太陽や月との関わりの中でつくりだされた宇宙のリズムを、我々生命の中にコピーしたものだといえます。四季の移り変わりや月の満ち欠けを考えればわかると思いますが、地球上の環境は、約365日の地球の公転周期や約27日の月の公転周期といったリズムでも変化しています」

 「進化の過程で当然、こうした変化に対応するためのしくみも備わっているだろうと考えられます」(大塚医師)

 こうした未知のリズムを研究することによって、病気の発生しやすいタイミングの予測や予防も可能になっていくかもしれない。大塚医師はそれが目標だと語る。

 「さまざまな調査結果から、1年の中で最も心筋梗塞が起こりやすいのは『11月〜2月の第1月曜日の朝』というデータが出ています。冬と朝が危険なのは、簡単に説明がつきます」

 「朝は血液が固まりやすい時間帯。さらに、冬場には寒さで血管が収縮し、血液の流れが悪くなり、血圧も急上昇しやすくなる。心筋梗塞にいたる悪条件がそろいやすいのです」(大塚医師)

 では、「月曜日」そして「第1週」の理由は? 大塚医師は、以下のように続ける。

 「従来は、仕事のことを考えて憂うつになるといった精神的ストレスが原因だろうと考えられてきました。しかし、私たちが行った研究から、『血圧そのものが月曜の朝に上がりやすい』ことがわかりました。しかも、すでに仕事をリタイアして精神的ストレスがないはずの人にも、同様の変化が見られるのです」

 「さらに『第1週』ともなると、従来の医学的見識からでは、とても説明がつきそうにありません。けれど、時間の周期に着目すると、そこにもやはりなんらかの規則性があるようです。『時間医学』はこうした謎を解き明かしていく学問でもあるわけです」(大塚医師)

時計遺伝子の異常を調べ将来の病気を予測

 現代人は夜遅くまで活動したり、ジェット機で短時間に長距離を移動したりと、本来の自然なリズムとはかけ離れた生活を送っている。こうした生活が体内時計を狂わせ、病気を引き起こす要因となってしまうのは、文明の弊害とも言えるだろう。

 しかし、その対策さえも可能になっていくかもしれない。

 「もちろん、規則正しい生活を送るに越したことはないのですが、生活リズムが不規則でも体内時計が狂いにくい人もいます。時計遺伝子には、遺伝子多型(遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差)が多くあり、その違いが影響していると考えられます」(大塚医師)

 たとえば、一般に睡眠時間は6〜8時間が適切とされるが、短時間睡眠でも平気なショートスリーパーには「Dec2」という時計遺伝子の多型があることが発見されている。

 時計遺伝子の違いによって、必要な睡眠時間が変わるのだ。また、「Per3」という時計遺伝子の多型があると睡眠障害になりやすく、白血病など血液のがんの発症率が高くなるとの報告もある。

 こうした時計遺伝子と病気の関わりについては、次々に新たな知見が報告されている。大塚医師は、最後に次のように締めくくった。

 「健診や人間ドックで時計遺伝子の検査をできるようになれば、将来、どんな病気が起りやすいかといった予測も可能になると考えています」

 「仮に時計遺伝子の多型があり、体内時計が乱れやすい人がいたら『夜勤やシフトワークは止めたほうがいい』と助言できるわけです。こうした検査を確立し、将来の病気の予測と予防に役立てたいというのが、私の目標です」
(取材・文=山本太郎/ライター)

大塚邦明(おおつか・くにあき)
東京女子医大名誉教授。九州大学医学部卒業。九州大学温泉治療学研究所、高知医科大学老年病学教室勤務を経て、東京女子医科大学東医療センター総合内科教授、同大学東医療センター病院長を歴任。同大学名誉教授。2015年より戸塚ロイヤルクリニック院長に就任。専門は循環器内科学、高齢者内科学、睡眠医学、時間医学。日本自律神経学会会長、日本時間生物学会会長、日本循環器心身医学会会長、世界時間生物学会会長などの要職を歴任。『時間医学とこころの時計』(清流出版)、『眠りと体内時計を科学する』(春秋社)など著書多数。