結婚に適した男は、30歳までに刈り取られる。

電車で見かけた素敵な男は大抵、左手に指輪がついている。

会社内を見渡しても、将来有望な男は30歳までに結婚している。

そんな現実に気づいたのが、大手不動産会社勤務の奈々子・28歳。

同世代にはもう、結婚向きの男は残っていない。ならば・・・。

そうして「青田買い」に目覚めた奈々子は、幸せを掴むことができるのか・・・?

中村に代わってプロジェクトリーダーをすることになり、恋も仕事も順調な奈々子。今週、田中との恋愛に動きが・・・?




「そうそう、実は来月、僕のいとこの結婚式があるんですが、二次会に一緒に来てもらいたいんです」

ある晴れた休日の昼下がり。

奈々子と田中は映画を観に行く約束をしており、時間までに食事をすませようと『リストランテ・ジャニコロ・ジョウキ』を訪れていた。

大きな窓からたっぷりと日差しが差し込む明るい店内で、色彩豊かなメニューを見て奈々子が心躍らせている時、田中がさらりと先ほどの言葉を言ったのだ。

「・・・!?」

確かに、先日「連れて行きたい場所がある」とは言われていたが、まさかそんな重要な場所に招かれるとは、一体誰が想像するだろうか。

混乱する奈々子を尻目に、田中は「昼から飲むビールは美味しいですねえ」なんて呑気なことを言っている。

奈々子は、こっちはそれどころじゃないという気持ちで田中をキッと睨みながら、頭の中を少しずつ整理していく。

付き合って長いわけでも、ましてや婚約しているわけでもない。そんな状況で、言われるがままに参加しても良いものだろうか。

それに、そんなオフィシャルな場所に連れていくなんて、田中は自分のことを「結婚前提」と紹介するつもりだろうか・・・。

田中の言葉の真意が掴めず、整理しようにも奈々子の頭の中はますます混乱するのだった。


田中がさらに大事なこと言い忘れていた!?


“息子の嫁候補”


そんな奈々子にはお構いなしで、田中は「参加で良いですか」と念を押してくる。

お食事会じゃあるまいし、二つ返事で「OK」を言えるはずがない。

奈々子を誘うことになった経緯とか、ご両親は了承しているのかとか、詳しいことを教えてもらわなければ、奈々子も判断しかねる。

それに、今は田中との関係も良好だが、この先結婚する保証などどこにもない。ただの恋人である自分が参加するのは少々気が引ける。

「誘ってもらうのは嬉しいんだけど、私なんかが参加して良いの?」

奈々子が、単刀直入にグイグイ質問したい気持ちを抑えながら尋ねると、田中は「もちろんです」と嬉しそうに答えるだけで、奈々子が聞きたいことは1%も伝わっていないようだった。




遠回しに聞いていても埒が明かないと思った奈々子は、再び直接的な質問を田中にぶつける。

「どういう経緯で私が誘ってもらえることになったの?」

すると、田中は特に気にする風もなく、話し始めた。

「年末年始に親戚で集まった時、いとこの敬太くんと話しているうちに奈々子さんの話になったんです。そしたら敬太くんが、二次会に連れておいでよって」

この会話だけでは、社交辞令の可能性が高い。のこのこと参加して、周りから白い目で見られるのは避けたいところだ。

「田中くんのご両親とか、他の親戚の方もご存知なの?」

「はい!両親もお会いしたいって。あ、そうだ、言い忘れてました。両親が、近々奈々子さんと食事をしたいそうです」

-なんでそんな大事なこと言い忘れるわけ!?

頭を掻きながら「てへへ」と甘えてくる田中に内心イラつきながら、奈々子はどうすべきかを考える。

田中のご両親が誘ってくれている以上、お食事も結婚パーティーも断るわけにはいかないから、お会いするのは決定事項である。

問題はそこからだ。

ご両親は、奈々子のことを“息子の嫁候補”として見てくるはずだろう。ここで「×」をもらってしまったら、今後の付き合いを反対される可能性だってある。

“ご挨拶”という初めての経験に、奈々子の気持ちは一気に慌ただしくなり、正直、田中との映画どころではなくなってしまった。

黙り込んであれこれ考えていると、田中が「そろそろ映画に行かないと・・・」と声をかけた。

奈々子は覚悟を決めて、「行かせてもらうわ。ご両親によろしく伝えて」と、自分に言い聞かせるようにきっぱりと言った。


ついに迎えた“ご挨拶”。行方は?


備えあれば憂いなし?




ドクン、ドクン・・・。

奈々子は、今にも心臓が飛び出しそうなほど緊張している。今日は、田中の両親との食事をする日だ。

食事が決まってからというもの、奈々子は全精力を注いで、ひたすら“ご挨拶”の準備を重ねてきた。備えあれば憂いなしのはず。

かき集めた情報をもとに、“清楚”を意識したコーディネートを一式新調した。ライトグレーの膝丈ワンピースに一目でブランド品と分からないような上品なバッグ、ヌーディベージュのパンプスを合わせてみた。

『楼蘭』の個室で両親の到着を待ちながら「初めまして、岡田奈々子と申します・・・」「出身は静岡の・・・」など、ギリギリまで自己紹介や想定問答を声に出さずに復唱し続ける。

今まで、様々なテストや面接を受けてきたが、これほどまでに緊張したことはない。テストや面接の方がよっぽど気楽だったのは気のせいだろうか。

ドキドキが止まらない奈々子が、ふと隣の田中に目をやると「ふあー」と大きなあくびをしており、そのマイペースさに呆れてしまった。




「遅れてごめんなさいね。いつも政宗がお世話になってます、初めまして」

奈々子の目の前に現れたのは、とても上品な夫妻だった。派手さはないが、所作や言葉遣いがゆっくりとたおやかで、田中と同じ雰囲気を醸し出している。

田中のご両親は、奈々子に学歴や親の職業を聞くことは一切なく、奈々子の趣味や大学の専攻、サークルの話を興味深そうに聞いてきた。

奈々子の話を一通り聞き終えると、今度はご両親が最近ハマっているらしい、トレッキングの話を聞かせてくれた。

二人で、山を求めて国内旅行に出かける日々を送っているという。

「次の目標はネパールのトレッキングなのよ。ね、パパ」

嬉しそうに話す母親に、「そうだな」と笑顔で返す父親。

奈々子が得た事前情報によれば、“ご挨拶”では、相手の両親からチクチク攻撃されることもしばしばあるとか。

覚悟を持ってこの場に臨んだ奈々子にとっては拍子抜けだったが、田中のご両親の仲睦まじい様子は、将来の夫婦像として憧れとなった上、この家族の一員になりたいと強く思わせた。

食事会も和やかに進み、デザートを食べ終えたところで、母親がゆっくりと口を開いた。

「政宗をよろしくお願いしますね。奈々子さんみたいなしっかりしたお嫁さんがうちに来てくれて安心だわ。今度、ゆっくりお茶でもしましょうね」

-お嫁さんが、うちに来る・・・!?

驚いた奈々子が田中の方を向くと、田中が「あとで」と小さい声で言いながら、今はやりすごすよう、目で訴えていた。

「は、はい・・・こちらこそ、よろしくお願いします」

とりあえず定型文的な返答をした奈々子に、「では、次回は敬太の結婚式で会えるかしら」と言って二人はニッコリと微笑んだ。



「じゃあ、僕たちは銀座で買い物して行くから。まだまだ寒いし、身体に気をつけて」

そう言って両親をタクシーに乗せた田中は、奈々子の手を引きながら銀座の街をずんずん歩き始めた。

ーお嫁さんって…

さっきの発言が気になって仕方ない奈々子が考えあぐねていると、突然田中がくるりと振り向いた。

「両親に、結婚を視野に奈々子さんと付き合っているって話したら先走ってしまったみたいで、すいません。でも・・・」

そう言って田中は、急に足を止めた。

そこは、ティファニー本店の目の前だった。

▶︎NEXT:2月7日 水曜日更新予定
最終回。ティファニー本店で、ついにその時がやってくるのか・・・?




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